第295話「大乱闘」
仮想世界。世界樹クロニクル、ギルド『放課後クラブ』ホーム。
「んで、何して遊びたい?」
「なんか頭使わないで楽しめるもの」
それは単純明快な答えだった。
「んじゃカードゲーム……じゃなかった。格ゲー何かどうじゃ? 『エレメンタルワールド~大乱闘オールスターバトル~』。略称、大オル。今まで出会ってきたプレイヤーを操作してバトルする内容」
「あれ? てことはストーリーは?」
「ないぞい」
ストーリー好きの咲にとっては致命傷だった、だがその分、変な前振りも無いので純粋に楽しめる。
戦って終わり、それだけだ。
この場合、プレイヤーは咲と姫しか居ないので。それ以外のキャラクターはアバターとして召喚される。
例えば。
操作するのは天上院咲で、動くアバターは浮遊戦空。
天上院咲〈浮遊戦空〉VS天上院姫〈凪ノ唄夜鈴〉。なんてのが出来る。
「じゃあジャンクフードでも食べながらまずは観戦でもしたいかな、他のプレイヤーもオンラインでプレイしてるんでしょ? ならそれを観戦してからやってみたい」
「オッケイ、じゃあそれで行こう」
そういうことで、ホームからゲームの世界へ二重ダイブした。
《『エレメンタルワールド~大乱闘オールスターバトル~』の世界へようこそ!》
◆
あちこちのウインドウ画面から、今まで見知って来た顔〈アバター〉が目に付く。厳密には見知った魂の入ってないアバターなのだが。それでも戦っている姿を観ると、何だか心が踊る。
その戦闘をここは観客場と言えば良いのだろうか? 広いバーみたいなところで数十人単位で、あっちが強いだこっちはお金になるとか。そんな声が聞こえてくる。「俺だったらもっとあのアバターの力を引き出せる、上手く扱える」そんな話だ。
そんな時、目に入って来たのは。
モブA〈凪ノ唄夜鈴〉VSモブB〈湘南桃花〉の試合だった。
桃花のシャドウレイと夜鈴のガリョウテンセイという技と技がぶつかり合っていた所だ。
試合はアバターである凪ノ唄夜鈴の勝利で幕引きがされている。中々に見ごたえのある戦闘だった。
観客の中には、「やっぱりな」とか「そんな! 桃花には勝って欲しい! に一票入れたのに!?」とか聞こえてくる。
天上院姫/農林水サンは天上院咲/ヤエザキに対して「どうじゃ?」と言う。
「こんな世界だったら頭使わなくて済むだろ?」
「確かにストーリーがないぶん、単調ね。まあその単純さが売りなんでしょうけど」
プレイヤーが違えば、アバターの動き方も違う。当たり前だが今まで見落としていた所だ。本家が本人を操作するのとはまた別問題、そこにはそこなりの楽しみが待っている。
と、そうこうしている内に。
モブC〈将護三ツ矢〉VSモブD〈仮面木人シェイク〉の試合が、画面ウインドウ越しに始まりそうだった。
「ほーほー面白いチョイスだな。普段の私達の冒険じゃ中々めぐり逢わないマッチングじゃ」
「ほんとうにね。ストーリ上で会わない人達ってやっぱり居るし」
カップリング論争にも通じる不規則性があった。
《それでは、モブC〈将護三ツ矢〉VSモブD〈仮面木人シェイク〉の戦闘を始めます。》
ゲームセンター特有の無駄にうるさい大音量で、無機質なアナウンスが響いた。
少々の時間が過ぎ、勝者はシェイクになったが。実際のストーリー、戦闘だったら明らかに三ツ矢が勝つだろう。ストーリーが無いからこそ起こるもはや軽業だった。
「じゃあ咲、今度は私達がやってみようなのじゃ」
「そうね、んじゃえーっと……。?」
咲は視ると、存在が消えかけている薄いアバターが目に入った。折角なのでこのキャラを選択する。
スパイ〈777〉。姫は最果ての軍勢〈不動文〉を選択する。
「本当にかなかな視ないマッチングね」
「そえがこのゲームの醍醐味ていうことじゃ」
ゲームの世界なのにコントローラが手渡される。
「あぁ、フルダイブでの戦闘じゃないのね」
「一人称の中に一人称があったらわけわからんじゃろ」
なるほど、つまり。メインストーリーの中のミニゲームという立ち位置なのか。
そして戦いのゴングが鳴る。
《それでは、天上院咲〈777〉VS天上院姫〈不動文〉の戦闘を始めます。》
……、……。
結果として、〈不動文〉が勝利した。カウンター狙いの攻撃は中々にトリッキーだった。
「なるほど、こうなるのね」
「まあ重々にしてゲーマーとしての腕が試されるわけじゃな」
と、その時。モブEとモブFから変な声がした。
「咲ってアバターは使いやすいよな、オールラウンダーだし剣も魔法も使えるし」
「そうか? 速くもなく硬くもなく、威力も中途半端。何をやってもダメダメなのが咲だろ? おまけにエンジョイ勢だか知らないが、よそ見して無駄な隙モーションデカすぎだし」
咲はムカっとなった。自分の知らない所で使えない宣言をされたら怒るだろう普通。
「まあ確かに、流石に戦空や夜鈴に比べたら使いずらいけどさあ。でも隙があるからこそ和むていうか」
「戦闘でそれは致命的だろう……」
それなら私が咲を使って戦ってあげましょうか! とか言いそうになったが、やめた。なんか虚しくなって来たからだ。自分の強さを誇示しようと胸を張るのはなんか疲れる。姫は咲に聞く。
「で、どうする? 戦うか観戦するか」
「……ん~、もうちょっと様子を観てから参加させてもらうわ」
どうも、こういうゲームセンターみたいなノリと空気が肌に合っていない咲であった。仮想空間だけど。
Q、格闘ゲームの咲ってどれくらい強いの?
A、半分本気で戦って、半分適当に気を抜いて戦うエンジョイキャラ。隙が多く、かと言ってネタキャラにもなりきれない。何もかも中途半端。作中では一番口数が多いい。




