第292話「一回タンマ!!」
上空にいた賢術系第1位のラフティーヌはソレを敏感に感じ取る。
「ふむ、【西陣】賢術系第3位、ウオール。相手をしてあげなさい」
言って、先の眼前にその人物は現れた。
――数珠。
それ以外の情報を与えてくれないソレは、スキル〈集中〉でお相手する。
「ふむ、勝手に混乱しているようですね。立っているのもおぼつかない、そんな【余波】に……」
ウオールの能力は、多元的宇宙論のヒルベルト空間を操り、その空間内で全能になれる。持っている数珠は一つ一つ無限の宇宙と繋がっており、その空間内に相手を閉じ込めて戦う捕縛系。
という前情報だけでも気が狂いそうだ……。
こいつの多元宇宙からは逃げられない……。
必ずどこかの空間という事で片付けられる。
そしてその中で全能……、厄介だ……。
「というわけで死になさい」
これはマズい。水面に移る波紋の紋様一つ一つが無限の宇宙と繋がっている。
それを、1つ2つ3つ、と体感することでその危なっかしさが垣間見える。
空間が【ぐにゃあ~】、っとなる。
「これはマズい、下手をすると死ぬ……。難易度高すぎて降りられなくなるんじゃない?」
「スキル――〈多元宇宙同時・氷結〉!」
「スキル――〈リスクヘッジ〉!」
間一髪、紙一重で。世界3つ分の空間を終わる世界とかして氷結させたそれを、先に感知して危機回避してみせた。
これは良くない、下手をしたら忘却の海に沈んで一生0秒空間の中に居ることさえ。忘れて消えてしまいそうだ。
そう、心神喪失した三ツ矢さんみたいに……。そのあとに皆が【援護】してくれなかったらどうなっていたか……。
そういう意味も込めて、天上院姫お姉ちゃんに助けを求める。
「無理! 一回タンマ!! ――ログアウト!!」
「オッケイ! 現実世界にヒュウイゴー!!」
瞬間――光の彼方へと消えた……。
《天上院咲がログアウトしました、お帰りなさいませ。》
《天上院姫がログアウトしました、お帰りなさいませ。》
◆
現実世界と仮想世界の0秒空間を彷徨った、2人はVR機『テンジョウ』を取り外し。息を吹き返す。
「けはあ!?」
「だはあ!?」
――そして時は動き出す。
――リアルタイムの時計がカチッカチッ、と動き出した。




