第290話「本物と仮想の現実」
目の前に居るのは異次元の強さを誇る強者達。
四面楚歌で円陣を組んでくれた人達のおかげで、何とか状況を知る間が出来た。
まだ慣れないこの世界のステータスバーの操作を、姫お姉ちゃんに教わりながら。今戦っている〈敵〉の情報を知る。
1人1人がぶっ飛んだチート設定にまず驚いた。
最果ての軍勢
賢術系第5位、ストーン。
能力名:『賢者の意志』
能力:地水火風氷雷光闇を操る。
最果ての軍勢
賢術系第4位、マインド。
能力名『自分の知識頼り(マイメモリー)』
能力:自身が知っている範囲であらゆることが可能となる。
最果ての軍勢
賢術系第3位、ウオール。
能力名『時空の支配者』
能力:多元的宇宙論のヒルベルト空間を操り、その空間内で全能になれる。持っている数珠は一つ一つ無限の宇宙と繋がっており、その空間内に相手を閉じ込めて戦う捕縛系。
最果ての軍勢
賢術系第2位、ライダー。
能力名『通りすがりの盗賊』
能力:時空を移動し、相手の能力をコピーし手に入れることができる。
そして、ここには今居ないが。最果ての軍勢、賢術系第1位ラフティーヌの情報も観ることが出来た。
最果ての軍勢
賢術系第1位、ラフティーヌ。
能力名『全知全能』
能力:知らないことは一つもなく、できないことは何もない。
以上が、今回倒すべき敵のスペックである。あとは自力で調べるしかない。
「なに……、これ……。こんなの、ゲームじゃ出来ない設定じゃない……」
「これが最果ての軍勢5本柱の内の1柱じゃよ、わしら放課後クラブのイベント……いや、作戦はこの5名と戦い、勝つこと。だが、ここは本物の異世界じゃ、死ぬときは死ぬ」
「相手を無力化、または意識不明にすることはできるの?」
「できる。あと、今わかった事じゃが、こっちが緊張感を持てば。相手もそれに合わせて緊張感で挑んでくることも、なんとなくわかって来たな。こっちが脱力してれば、相手も脱力してくれる」
そこは喜んで良いところなのか? と疑問に思うが、なるほど。とにかく絶望的な戦力差だという事は解った。
そして姫はとても大事なことを口にする。
「いいか? もし無理だと思ったら遠慮せずそこでログアウトしろよ。私もそこで構わずログアウトする。その時は、このイベントも魂寿命も再リセットされる。でも……、死んだらそこで終わりだ」
イベントは何度も挑戦可能、記憶は引継ぎ出来るからいわゆるループモノなのかな? ……でも、死んだら、死ぬ。本当に死ぬ。そのことだけは頭に入れておかないと本当に死ぬ。
天上院咲は早速、最速音を上げる。
「もうログアウトしたい……」
だって現実世界でビル5階からヒモ無しバンジーをしたら、落ちたら。「もう帰りたい」ってならない?
「……いや、私が言うのも何だが。せっかくこっちの世界に来たんだからもうちょっとアトラクション楽しんで行ったら?」
「……、アトラクションねぇ~……」
「もちろん、ここに住む人々にとってはアトラクションじゃない。現実だ、異世界の中の現実じゃ」
「マジで死ぬかと思った……」
現実の交通事故とかこんな感じなんだろうなと思った、唐突に。命が終わる。何の前振りも無く、前説も無く。人生が終わる。
四神の方位ならぬ、四方位陣から剣戦の音、爆炎。男達の雄叫びが聞こえる。
やっぱり私には覚悟が足らなかった、と実感する咲。
人が死ぬ、魂が食われる。死してなおゾンビになる。などなどなど、どうしようもなく理不尽と不条理が戦争でバッタバッタと命を落とす。
けが人がゾロゾロ出る。これが戦場……。
咲は体を萎縮させながら震える、怖い。それだけだった。
「まあこれで解かったろ? お前には実戦が足りないんだよ。四重奏よりも、非理法権天よりも。あいつらは【こっちの世界】で、むしろ場数しか踏んでないからな」
本物の死線、本物の疲労、本物の勝利・敗北。仲間の死。好きな人の死。……天上院咲はどうだ?
ただ横になって寝てただけじゃないか。
「これが、……本物と仮想の違いか……」
「ま、あいつらに追いつきたかったら。場数踏むしかないな。ついて来れるか? リセット可能な人生ちゃん」
きっとそこにしか、文字数じゃない。本当の〈自信と覚悟〉が手に入るのかもしれない。
姫は言う「立てるか?」……と。だから咲は言う。……全然大丈夫じゃないけど言う。
「大丈夫、立てるよ。で、どいつから戦えば良い?」
「んじゃ、最初は解りやすく。あいつから戦おうか」
言って、ゲームマスター姫は。【北】の方陣を指す。
「方位【北】、賢術系第5位、ストーン。まずはあいつで腕慣らしをしようじゃないか」
「……うん、わかった」
咲は、今現在の愛刀。星剣『朝過夕改』を、震える両手で強く握りしめる。
「行こう!」
戦場が動く。




