第288話「自信と覚悟を欲す」
ある日、神道社の社長室で天上院姉妹はいた。
天上院姫は激怒した。そう、虚空へ向かって。
「あー! つまんね! つまんね! つまんねーわ!! 戦闘しよ! 戦争しよ! 殺し合いしよ!」
天上院咲は飽きれていた、それはもう冷静に。
「良かったじゃない自分の感情を制御出来て落ち着いて来たのに……」
「刺激がない! おっそい! つまんない!!!!」
「いやいや、お姉ちゃんが今作ってるイベントって。データ的には出来てるけど。素材が無い感じでしょ? 単調なのも仕方ないじゃん」
姫はそれでもふてくされる。
「それでも、あのイベントをもう一度体験したいって、思うのはそんなに無責任か……?」
「いやまあ、でもさ。凄くクオリティ高いものは、総じて予算や時間や人手が必要じゃん。膨大な予算、膨大な時間、膨大な人手。それが無いんじゃ、単調なものしか出来ないよ」
姫はそれでもふてくされる。
「それでも、それでもあの世界のデータをもっと拾っておきたいのじゃ。言うなればそう、設定出来たからそのルール上で遊びたいてきな」
「……つまり?」
姫はいつも通りの口調でニッコリと微笑ましく言う。
「テストプレイやって☆」
「またかよ!!!!」
怒りを爆発させた後の火山流みたいなドロリと流れながら咲は言う。
「そのイベントって面白いんだよね?」
「おもしろい」
「本当に?」
「誓ってもいい」
「まじか、誓ってもか……」
この世界で「誓う」という言葉は生半可な覚悟では出てこない言葉だ。
「ただし、条件がある」
「条件?」
「そう、この世界観の面白さを体験してもらうためには。無くてはならない条件がある」
「それは?」
「本物の異世界であることだ。人間も本物、天地も本物、心も命も魂も本物。本物の異世界にお前をログインさせないと、この面白さは伝わらない」
「んんん???? なんか雲行きが怪しいぞ?」
そこで一拍置いて、天上院姫は言う。
「したがって」
「したがって?」
「人工フラクトライトを使ってもいい?」にっこり
「……ダメです」
「ダメか……」
「そのまんま使うのはダメです」
「お?」
「アレはお姉ちゃんが吸血鬼大戦をやった時の、……え~と。なんというか副産物でしょ? しかも【本筋とは別の寄り道】の、今回は【王道のプロトタイプのフラクトライト】のはず……でいいんだよね?」
「えーまーうん。そうじゃ」
「それに、お姉ちゃんは私の安全のために。私の魂のコピーを使って、自分を【本物の命のつもりで動いてるAI】で。結果的に本物は安全にゲームしてもらおうって魂胆だろうけど……」
「お、……おおおおう……」
「今までの経験から察するに。お姉ちゃんさえ居れば大丈夫そうだから、こういうのはどう?」
「なに? なんかヤバい事考えてないか?」
「例えば、【今の記憶をデリートして】0歳から異世界で誕生させて。中二になるまで成長させたら、【本物の記憶を上書きするとか】……。あ、加速世界も入れてこっちでは1日ぐらいで終わるとか~」
「それ今の咲じゃないじゃん!?!? てかそれ! 本物の輪廻転生じゃん!?」
「ダメ?」
「ダメっていうか、それもう『自分を殺してくれ』って言ってるようなもんじゃから。いくらワシが極悪非道の大魔王じゃとしても、我が最愛の妹をそんな状態に置きたくないし、てかそんな状況作りたく無しい……」
「ん~そっか……」
「どうにかして、本物の魂を異世界に飛ばせないものか……科学的に。そうすれば『プロトデート戦争』を咲にも体感出来る」
「ん~どうにか。現実世界が止まっててくれれば、異世界に専念出来るんだけどなあ~」
「……! そっか、わしが神として自覚があるなら。それも可能か……」
「ん?」
「例えば『超・加速世界計画』とか言ってさ、現実世界では0秒だけど、異世界では14歳まで遊ぶ。……とか」
「ん~……魂寿命の問題はどうするの? ほら、14歳足す14歳は精神年齢28歳じゃん? 肉体は14歳のままでも」
「それもそうか……、じゃあ。異世界での時間進行も0秒にするのはどうじゃ? サザエさん時空」
「サザエさん時空……」
「【時間の経過の概念はあるが、キャラクターが年を取らない】とか」
「つまり、どういうことだってばよ?」
「現実世界、0秒。仮想世界、0秒。のディープフリーズ状態」
「……つまり、異世界で14歳から歳をとらない世界? 記憶は?」
「ここまで付き合ってもらって、いきなり記憶喪失とかやってもまたややこしいから……。たぶん2人とも記憶引継ぎの、【転生もの】じゃな。記憶を引き継いでれば2人はログアウト出来ることを覚えている」
「まってまって、ログインする時の設定をまとめよう」
◆
EXイベント『プロトデート戦争』の発生条件。
・時間設定は、現実世界も仮想世界も0秒のディープフリーズ状態。
・姉妹2人で、年齢は14歳からリスタート。記憶は引継ぎ、ログアウト可能と知っている。
・現実でも仮想でも0秒なので歳はとらない。別名『超・加速世界計画』。
・行く異世界はエレメンタルワールド。
・仮想世界で死んだら、死ぬ。
◆
「……それ大丈夫なの?」
「出来るしやっちゃいけないということは無い、そういうルールは何処にもない。あるとすれば覚悟の有無じゃ」
「覚悟……」
「カヤの外じゃなくお前も【こっちの世界に来る覚悟があるか?】ってことじゃ」
「もし、その『超・加速世界計画』で死んだら?」
「死ぬな、わしも等しく死ぬ」
「……!」
「じゃが、そこに住む世界の住民。エレメンタルワールドの人間と全く同じ条件で戦う事になる」
「!」
「全員平等じゃ、それでも来るか? こっちへ」
「……、私はもう両足突っ込んでる。て後ろ向きな理由じゃなく、そのゲームをクリアした時に手に入りそうな気がするものが。2つある」
「ん? なんじゃそれ?」
「自信と覚悟」
「……ふむ」
「自信と覚悟が欲しい! そのゲームやるわ!」
「ま、先のことなんて気にしてたら冒険できないもんな。よしやろう。運命共同体じゃ」
そう言って。
『超・加速世界計画』の世界へ、ログインした。
《ようこそ、本物の異世界へ!》




