第32話「フェザーソード」
「旅か~まあ私だってモンスター図鑑集めとついでにゲームクリアを目的にしてるけど、そのついでで冒険をしてるって節があるからね~」
(何より姉が作ったゲームだ、そのゲームを隅々まで遊びつくしたいという思いはある。しかし人口AIは冒険の仲間に果たしてなれるのか?それはなんだか地雷のような気がするが本人に聞いてみなければわからない)
「旅……できるかな……?」
「ん~よくわかんないけど出来るよきっと」
「はあ~……でも国民皆を置いていくわけにはいかないし……」
(おっとそっち方面の悩みか)
「ん~そっちはフェイが必死になって考えなさい、冒険者は流れ者、ずっと同じ場所にはいられないからさ」
用が済んだら次の街へ、それが冒険者だ。
「うん……」
そんな緩やかな時を過ごしている中事件は起きた、突然雲の王国ピュリアの方で爆発音が聞こえた。
「なに!?」
「なんの騒ぎだろう……行ってみよう」
禍々しい力と共にピュリアに現れたのは漆黒の闇、人々は爆発音が聞こえた個所に何事かと近づいたがその後危険を察知し一目散に逃げ惑う。
「フフフフ…帰って来たぞ…やっと帰って来たぞ…このケンチャ様が帰って来たぞー!」
「あ! ちょっと待って」
走ってる途中にフェイに止まるように話しかける、呼び止める。騒動の方向へトンボを乗り継いで停泊場に置き走っていたがその途中で例のモンスター図鑑を20匹見せてほしいという老人に出会った。本来騒動が起こった方へ一目散で行くはずなのだが先に老人の話を聞いてからにしようと思った、騒動と関係ないかもしれないが、関係あったらもしかしたら一定時間以内に20匹集められなかったから騒動が起こった…。なんてことだったら早くおじいさんに図鑑を見せるべきなのだ、そんな当たってるのか当たってないのかわからないカンを働かせて老人に図鑑を見せた。
「おじいちゃんこれ20匹の図鑑集まったよ」
「ほうほうそうかそうかよく見つけてくれたよありがとう」
パラパラパラとまるで速読でもしてるんじゃないか?と思うほどのスピードでページをめくる老人は見終わった事を確認してお礼の品を差し出してくれた。
フェザーソード無属性特技が風属性になる。
ただの武器だった、もっと特別な何かだと咲は思っていた。例えばフェイがよく死ぬ原因だとか、スタンプだとか、そんなのだ。というかその2通りしか考え付かなかった。そこえ来て普通の武器である、咲は眉を八の字にして困惑したが武器が新しくなるのは嬉しい…。
(もらえて嬉しいけど…エンペラーが一晩中強化していた武器と、新しくもらった武器…どちらが強いんだろう…?)
そんな割とどうでもいい思考を巡らせながら老人にお礼を言わなければならないという思考を咲は巡らせる。
「あ……ど……どうもありがとうございました」
「ええってええって、図鑑を見せてくれたお礼じゃ」
そう言って咲は足早に騒動の方へ行くのだった、騒動の音が聞こえたのは飛空艇ノアのある方向、……嫌な予感がする。もくもくと上がる煙がそれを体現していた。
燃えていた。結論から先に言うと家が燃えていた。木端微塵に形は残しつつ燃えていた。中で寝ていたエンペラーとヒルドは焼け焦げた死体となって発見される。…なんて嫌な思いを脳裏に思い描いてしまった、最悪の結末を咲は思い描いてしまった。本来咲はそんな事を考えるような子ではない、むしろその逆、ポジティブに実は生きてました、なんて楽観的な事を考える子だ。しかし咲は最悪の場合が起こった場合に備えて冷静に動くある意味本能と言うべきものが備わっている。危機管理能力、その能力は漫画やアニメやゲームを常日頃からやっている日本特有の現代っ子が疑似体験を積み重ねてシュミレートしているからにほかならない。
そんな事が『リアルで起こるはずがない』とか思っていた、実際はこの世界はゲームで起こってもおかしくない環境ではあるのだが、今まで築いて来た日常が一気に非日常に変わった気がした。が、エンペラーとヒルドは無事だった、実際にはケンチャとエンペラーとヒルドの3人で住民の避難が終わるのまでの時間稼ぎをしているような形になっていた。エンペラーは二丁拳銃を構え、ヒルドは風の能力を使わず温存しているのだった。いや、温存していると言うより使えなかった、ケンチャがヒルドに『アルこと』を吹き込んだおかげで風が使えなくなったのだ。そんな中、サキとフェイは二人の後ろの方に集まる。
「エンペラー!」
「ヒルド!」
サキはエンペラーを、ヒルドはフェイを心配する声を発していた。
「キッヒッヒッヒ来たか…フェイ王女、と、誰だ?知らない奴がまた増えやがった」
エレメンタルにより覚醒後、体がメキメキになっているケンチャが不気味に話しかけてくる。
「フェイ来るな!」
「サキ、来たか。どうやらボス戦らしいぜ戦えるか」
雲の王国ピュリアを上から見て北東の方角で戦闘が発生している、ちなみに南西の方角でレンタルトンボをおろし、走って北東のほうへやって来た、ちょうど反対方向である。
「うん! 戦えるよ!」
「その剣は?」
「あ、これ? さっきおじいさんからもらったんだ」
文面から理解しずらい言葉がっせられたが今はそれどころではないのでエンペラーはスルーする。
「……、ならその剣で戦え。冒険者の剣はあの家の中で燃えてるよ」
「まじっすか……」
(火が鎮火したら自分の愛刀は鉄の塊になりドロドロになってるか…そのまま生きてるか…っていうかこんな火事な状況まですごくリアルなんですけど…こんな所をリアルにしなくても良いと思うんだけどお姉ちゃん…)
咲はしょうがないなと思いながらフェザーソードを手に取る。
「折角強化してもらったのに……」
「今度はその武器を強化してやるさ」
「本当!?」
「最初の街よりか攻撃力はあるだろう、そっちを強化した方が後々有利だ」
何を持って有利なんだ?何と戦ってるんだ?と咲は思ったがそれはこの場で言う事でもないのでその思考はどこかにそっとしまっておく。
「うん、わかった」
「じゃあヒルドはフェイを護ってくれ、足手まといだ」
「なんだと!」
「ちょっとそれどういう意味?」
激情するヒルドにわけがわからない咲、エンペラーは状況が混乱しないように冷静に咲に答える。
「さっきケンチャから聞いた、ヒルドは風の能力を使い続けるとフェイの寿命を削るんだ」
「へ? 何それ? だってフェイは涙を流せばヒルドの風は回復するはずでしょ?」
「それプラス寿命も削るらしいんだ、ケンチャが古文書にそう書いてあったと言っている。それに何度もフェイが死んでる所を見てる俺達はヒルドが風を使った後にフェイが死んでるのを見てる……!」
さらにややこしい事にその言葉にフェイが割って入って来た。
「何それ……何度も見てるって……そういう事?」
(まずい、今まで隠してたことが…!)
サキとエンペラーはフェイが動転しないように何故か死んでしまうこの怪事件のことはフェイには内緒にしておこうと決めていた、言えば混乱するし、原因がわからない以上教えない方が良い。そう判断して二人は喋らなかった、が、最悪な事にこの状態で自分が何度も死んでる事をフェイが知る、数々の終わった世界でフェイは安らかな傷一つない死を遂げているのだ。
ケンチャは4人の話が終わるのを待っていた、状況整理も大事だし何より謎の二人組の情報が欲しかったからだ。




