第280話「同じリングで戦う」■☆
西暦2035年07月06日。
仮想世界、エレメンタルワールド・オンライン2。十字の墓場。
「ほら、ピンクスズちゃん。おきて」
元スズちゃん、もとい。普通のデフォルメ状態の黄色い髪をしたスズちゃんは囁くように、その色の名を口にする。
「ん、んん……ここは……、え。なにこれ? どうなってんの?」
ピンク色の髪と、右目を包帯で隠した……、塞がれた女性は困惑する。
観ると、そこには十字の通路を別とした剣・剣・剣。突き刺さる剣の山、その多さから、ここで何かしらの戦闘が行われ。皆勇敢に死んだ、まるで墓場のようだった。
世にここを『十字の墓場』と呼ぶ。
「私達はさ、助けられたのよ」
蒼色の服にモチモチしたモンスターを頭の上に乗っけて、貴重なショタっ子は「もう安全だよ」と言う。
ピンクスズは状況を整理するので頭の中が手いっぱいだった。
「誰に? 何で? どうやって?」
元スズが単的に短く、答えだけを言う。
「皆が。好きだから。時を止めてくれてた。……かな」
答えだけ言われても、そこに至る工程や数学式が解らない……。
そしてピンクスズは、自身に巻かれていた包帯を。まるで封印を解くかのようにほどいてゆく……。
スルスルと包帯の布が擦れる音だけが聞こえた、ピンクスズは取った包帯と、己の瞼が無事だったことを確認する。
剣士、黒の剣士の男性は。あんどしたように、状況確認をし異変が無いかを気にする。
「……大丈夫そうだな」
と、その時。北側から視覚出来ない概念領域から、視覚出来る実体を持って。最長文学少女、天上院咲/ヤエザキが現れ、こちら。中央へ向かって歩いてくる。
「追いついた」
「――」
驚きの表情半分、来たかと警戒するの半分。で風と共に彼女を向かえる。
「ブロード、いえ。将護三ツ矢さん。ちょっと2人でお話でもさせてくれませんか?」おこ
「あぁ、いいぜ。好きなだけ付き合ってやるよ」
顔はニッコリ愛想笑いで首を斜めに傾けているが、内心怒っているヤエザキ。それに対して、どこからでも来いと言わんばかりの自信に満ち溢れた表情で三ツ矢は言った。
あまりにも長すぎるため話し合った内容を省略……。
ちなみに咲は中学2年生で、三ツ矢は高校1年生。咲は激怒した。
「結論から言いますと! 私は三ツ矢さんのせいで散々な目にあったという事です!! 数えきれない程にこの世の闇を観ましたし!!」激おこ
「それについては謝る。それもこれも、全部俺の『罪と罰』のせいだ……ッ!」
過程や行程をふっ飛ばして、結論から言っているので。何の事を言っているのか解らないかもしれないが。これには深いわけがあるのだ。深い闇があるのだ。
それと彼にとってはあらぬ方向へルートが飛ぶ。
「あと! 私はあなたのハーレムメンバーには入りませんからね!! どっちかというとマイナス印象しかねーし! うわ~マジね~わ~!」駄犬を観るような目で
「それについては誤解だ!! てゆーかそもそもハーレムのつもりで旅してなかったしッ!!」
ヤエザキと三ツ矢、被害者と加害者。簡単だがといういう構図だ、しかもこれまた不自然なくらいに悪意は無い。
「……、それについては理解してます。【偶然の選択】という形で、今があることも……」半閉じの瞳で見つめる眼
「いやだからホントスマンッ……」
ヤエザキに見せた悪夢については、三ツ矢は土下座したほうが良いくらいの。最大限の謝罪をした方が良いかもしれない。
「はぁ……、『知らなかった』に『偶然の選択』に、そして最後に。『善意で動いた結果』、ハーレムになってしまいました……。とか、マジでアホじゃないですか。お人好し過ぎて私が泣いてしまいます」
「何であなた様が泣くのでしょうか?」
「自分を映し鏡でみたら、こんなフヌケだと思うと。落胆するという意味です。……色々な実力は除いて」
「……俺に対する評価低すぎませんかね?」
低評価をそのままに、話を続けるヤエザキ。
「んで? あと残った問題は何ですか? 【蒼竜エルフの青年さん】の件ですか?」
「あぁ、そうだな。……蒼葉君を成長させるには、時が癒してくれるのを待つしかない。いや、俺達は【任せて・待って・休む】しか方法が無い……」
自分達が頑張れば頑張るほど、蒼スズ。蒼葉君の成長スピードは遅くなるという。なんともはがゆい状況になっていた。
「ふむ~……。こればっかりはしょうがないですね、『替えや代行も効かない』し……了解です」
ということで、なんとか三ツ矢自身の誤解と危機は回避できた。
そしてヤエザキは三ツ矢に釘を刺す。
「良いですか三ツ矢さん、これから先は。同じ土俵で戦います。同じリングで戦います。【ファイト・オン・ザ・セーム・リング】ですからね? ここからが本当の勝負です、今の今まではハンデ戦。文字通り、片目を瞑って戦ってたようなもんなんですから!」
「あぁ、それは十分理解してる……」
「解れば良いんです、では。皆さんの所に戻りましょう」
そうして二人だけの会話は終わり、皆の所へ帰って行った。
◆
状況を説明されても、全くピンと来ないピンクスズ。ただ、自分で理解していくしかないのだ。
「ちょっと待って……話が回りくどくて解かりずらい……つまりどういうこと?」
「ん~そうだね~新しい時計をどっかに置けば良いんじゃないかな~と思うよ?」
蒼スズは言う。どうしてそう言うことになるかは本人もわかってない。
元スズは困った風にお茶を濁す。
「時計を置く場所はまあ、後で決めるとして……アレ? その場合誰がソウルのみで誰が肉体が有るのかしら?」
「……、ゲームマスターお姉ちゃん」
〈咲/ヤエザキ〉が〈姫/農林水サン〉に助け舟を求める。全てを見通す眼でもって、世界全体を上から目線でフカンする。
「いや、そこまで考えてなかったし。……作品ジャンル違うし……、ん~この場合。故郷に帰すのが一番だと思うから。ピンクと蒼はファンタジー世界に帰すのが一番だと思う」
元スズはやりきれなさを言葉で紡ぐ。
「で、私は現実世界へってこと? ん~……」
「やり切れない気持ちはわかるが。デ〇ケイド風に言えばここは『天上院咲の世界』だ。VRゲームに適応できないと何処かで破綻する。先人のVRゲームを参考にするのが吉と言えるだろう」
ヤエザキはまとめる。
「えーっと、そうなってくると~……」
咲のブレスレットの人工フラクトライトから、マゼンタが声を響かせた。
『俺の管理下ってことか』
マゼンタは将護三ツ矢の魂がコピーされた人格だ。ややこしさに、ややこしさがブレンドされたが。
最高責任者のゲームマスター、天上院姫がジャッジする。
「うん、まあ時計塔を何処に置くかは置いておいて。この、EMO2のデジタル世界の管理をマゼンタに任せ。その中の住民としてピンクスズと蒼スズは暮らす。という形だろうな。最善とは言い難いが、デジタル世界の統率としてはそれが一番だろう」
デジタル世界はある意味ゲームマスターの得意分野だが、問題は現実世界だ。
「んじゃ、神道社社長の天上院姫は。現実世界で日本とアメリカ相手に話し合うよ。そっちの方が重要そうじゃ。んじゃ咲、時計塔の設置場所は任せた」
そう言うことで、今後の方針を会議し。固めるために天上院姫はログアウトした。
「……、任せたって言われてもなあ……」
一応セミプロだけど、『無制限世界観改造』の権限とかはない……。運営としてあるのは『無制限ゴールド』と『無制限課金』の権限だけだ。しかも一度しか使ったことが無い。
とりあえず皆の視線を一身に集め、やり場に困ったヤエザキは……。
「とりあえず、みんな。場所変えよっか?」
場所が墓場なので、と言うにとどめた。
TIPS
・十字の墓場
古の聖剣使いの心から離れたおびただしい程の剣の残骸が十字路を形成するように荒野に刺さっている。
調査によると、吸血鬼大戦の傷跡と思われる。
・吸血鬼大戦
真夜中に起こった吸血鬼勢力同士の衝突。湘南桃花も思いっきり関わっている。
桃花いわく遠回りの寄り道でこうなったらしい、いい迷惑である。
戦争規模は過去最大、厄介にもほどがあり。今でもその余波が、時々桃花を襲う。




