第279話「最終回。ヤエザキ杯:咲VS戦空」
モブ看護師に「全回復させます」と言われて。ステータスが初期状態に戻った。
実況者ジャンプはVS桃花の事を説明するのも忘れ。次の戦場へ切り替える。
『さー! 泣いても笑ってもこれが最後だ――! 最終戦は天上院姫VS浮遊戦空です! 選手入場――――ッ! レディイ――! ファイト!!!!』
「大丈夫、大丈夫……。いつものように最終決戦のつもりでいけば。勝機は……、可能性はまだある……!」
「…………」
――瞬間、葉っぱが1枚フィールドに舞って来た。その葉が咲と戦空の間に映る。その瞬間――。
チッ ドゴン
え? 何が起こった? 咲が? 宙を舞って? 殴った? 誰を? 戦空が咲を? 激闘は? 終わり? てことは? 一撃? ワンパン? あの姫と桃花に勝った咲が? 一撃? もっとあるでしょ? 手に汗握る何かが? え? 無いの? 終わり? 完結? ジエンド? HP0だ? え? ……え?
背景が白く発光する中。少年は立ち、少女は倒れていた。一瞬で数多の死闘があったわけでは無い。ただの一撃。それで終わったのだ。咲と戦空の心と心のぶつかり合いが。勝敗は戦空の心が強く、咲の心が弱い。その結果だけが、闘技場に映っている。それだけだった、それが全てだった。
「――…………!?」
咲の身体が地べたに張って動かない、瞳の中のハイライトだけがかろうじて動く程度の虫の息。
(私の心が、今の攻撃で……折れた……?)
「根性は認める。正直負けてやろうかと思った」
「?!」
動かない体を必死に振るわせて、気絶寸前の魂でそれを聞く。
「けど『やめたくない』、て想ってる奴が『やめたい』て言うのは。
(やめて、それ以上は。そこから先は言わないで……)
心で思っても、体が、口が震えて動かない。
「やっぱ、良くない」
(あ、あ、あ……)
力が、心が脱力した。
「誰も言わないならうちが言う。ゲーム、やってて良いんだよ。続けてて良いんだよ。遊んで良いんだよ。人気? 知るか。うちもお前もそんなの本当は求めてないだろ。欲しいのは、この知らない世界を隅々まで遊び回りたい。て心だけが『大事』なんだ」
「あ……。」
天上院咲の『理解者』が今ここに現れた。
「本気の戦い! 楽しかったぜ! へへ! またゲーム誘ってくれよな! んじゃ今日はうちもう帰るわ。じゃあな!」
言って、観客の視線何て気にも止めずに。彼は光の粒となって消えた。
《浮遊戦空がログアウトしました。》
◆
――終わった。
――プレイヤーそれぞれが、それぞれの想いを胸に終幕した闘技場を後にする。
――彼らは彼らのプレイが待っている。
――そんな中、闘技場へ駆け寄る天上院姫が天上院咲の上体を起こす。
そして姫は言う。
「あいつは、最強の壁として。君臨し続ける。そういう存在であり続けることを、選んだってことなんじゃないかな」
「お姉ちゃん……」
「他のプレイヤーはともかく。私や桃花や、戦空の想いは。伝わってくれたかな?」
姫は咲の手と手を握り住めて言う。
「うん、伝わったよ。全力の3人の想いや。強さってやつが……」
――生かされた。それが正しい。
――だから彼女、咲の物語は終わらない。
――皆がいる限り、終わることは無い。
――そう受け取った。
「あぁ、楽しい……」
「そうか、それはよかった」
ちょっとはエンジョイプレイを貫いた甲斐があったというものだ。と、思った。
◆
現実世界。西暦2035年7月4日 放課後。
「さーて! 今日もログインするぞー! こっからはEXステージだ! もうちっとじゃけ続くんじゃ!!」
俺達の戦いは続く。で、終わっちゃったけど。まあいいか。
私達の旅は、終わらないんだ。
これからもずっと続いて行くんだ――。
少女は異世界ゲームで名を上げる。
――完結。




