第278話「ヤエザキ杯:咲VS桃花2」
「〈扉の世界〉!!」
「〈峠超x〉!!」
一閃、50回倒された。とカウントされた。
残り半分。
桃花の城壁を、まるで的を破魔矢で突き破るように咲はここまで来た。
「……扉は鍵を使って開けるものだって、教わらなかったの?」
「立ちふさがる壁は全て力技で討破る、て私は桃花先生から教わったんだけど?」
教えた気は無いが、そうやって人生を生きていた気がする桃花。
……。
これでもう、障害物も無いだろう。
……。
あとには何も残らない。
……。
【わけがない!】
「認めるわ、咲は。湘南桃花と同格だと」
「……。」
「だが、それだけだ。根拠のない自信で遠吠えしただけ。覚悟も中途半端、制約と誓約も無い。電源をオフにしたら儚く消える、そんな存在が……」
この湘南桃花に届き得る『牙』となって襲って襲い掛かってくる。
「あなたって、花以外の長所って何かないの?」
「嶺上開花」
「また適当に言ってる……意味解ってる? そんな! 軽い存在ごときで! 私が倒せるか!!」
何にもない、何にも無いから憧れる。持たざる者が持ってるものを欲する。そんな強欲さだけで食い下がる。共感はされないだろう、共感は桃花のためにある言葉だ。
なら、彼女の武器は……。
「この【手】しか! 無いんだ!! 〈斬空剣〉!!」
その斬撃は速くて軽かった。
だから避けるまでも無かった。
ピクリ。
「こんなの! かすり傷よ!!」
桃花の心は強靭だ、心を折るのは不可能だろう。
「召喚! 360人の私!!」
今度は360度の天上院咲を召喚して囲みながら倒そうとした、しかし。
「しゃらくせえ――!!」
小手先の技ではまるで歯が立たない。だからと言って大技が討てるわけでもない。
何も勝てる所が無い。1対1の真剣勝負、だからヒーローが最後に助けてくれてワンパンすることも無い。
でも。
「それでも、勝つんだ……!」
もう咲は何度も重い斬撃を剣で受けてボロボロだった。
「勝てる勝てないじゃなくて! 私はここで退くわけにはいかなのよ!!」
「弱い!!!!」
信念の乗った重い一撃が咲を襲う。
「認めなさい、折れなさい。あんたは私に勝ってる所なんて。何一つ無いのよ!」
「認めてるし、折れてるし。負けてるってことなんて最初からわかってるわよ! だからって! 挑戦し続けることを私は諦めない!!」
言葉で折れてると言っても心が折れていない。
「ほんと柔軟ね……この子。厄介だわ……! でも! 私は、皆が諦めない限り! 私は戦う事をやめないのよ!!」
「なら私は! 世界中の皆が諦めたって! 私は諦めない!!」
その時。
パキン。
と、
咲の剣が折れた。
「――!」
「――!?」
やっと折れたか、桃花はそう思った。だが桃花は「油断はしない!」ともう一度言う。
「あんたの足が崩れ落ちて、気絶して絶命するまで! 油断なんかしない!!」
それは明確な殺害予告のようにも見えた、だが。
咲の瞳のハイライトはなお、震えて、振動して消えない。
桃花が振り下ろした日本刀『紗那』が、咲の左腕目がけて来たが。咲は左腕を振り上げ、左手で紗那を掴み。そして、
左手で紗那を討ち砕いた。
「な……」
「邪魔――」
50回倒された。とカウントされた。
「咲、あなた何やって……」
「歯を食いしばれよ、最強――」
「だから、借り物の力で私は倒せ……」
「私の最弱は――」
「!?」
「ちいとばっか響くぞ!!!!!」
ジュギューン!!!!
F1カーの地鳴りと空音と共に!
その場を支配した……。
湘南桃花は一瞬地面から離れて宙を浮く、それでもなお。絶命した意識が復活した。
「こんの……!?」
その瞳に映るもの。それは、天上天下。空の世界。
「これが!」
地に足を着けて戦う桃花すら知らなかった。地神からの加護の外。
「私の!」
さらには上下状態になり、重力が支配する領域。
「全力!」
さらにさらには、あの災害・ダウンバーストと同じ体制。
「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
天に拳、地に地面。狭間に桃花の顔面がメリこむ。
借り物が借り物の力で、借り物のまま勝った。
《湘南桃花の心が折れました、天上院咲の勝利です。》
明確なポップアップが現れた。
「はぁ、はぁ、はぁ。……全然、勝った気が……しない……や……」
ドサリ、と咲は。あお向けに倒れた。




