第275話「ヤエザキ杯:咲VS姫4」
天上院咲の感情が溢れ出す。
(あぁ、楽しいな。この何でもありのコノ戦闘……、辞めたくなくなってきちゃった。でもダメだ、それじゃあいつまでたっても成長しない)
一拍置いて天上院咲は身構える。
(最後だからこそ、永遠じゃないからこそ。儚く花が散るからこそ美しいんだ)
この戦闘を楽しむ一方、終わりを惜しむ感情が膨らんでくる。でもそれは仕方のない事。いつも通りの「VRゲームを一旦休んで充電します」じゃあ、ここまでお姉ちゃんは本気にならなかっただろう。
本気のお姉ちゃんと対戦するのなんて雲の王国ピュリア以来だ。 ※第2章の終盤です。
(他のプレイヤーに影響出ないようにしたいけど……ダメ、この躍動を抑えきれない。暴れなきゃお姉ちゃんに失礼だ)
時に共に笑い、悲しみ、ゲームテストをした記憶がありありと思い浮かばれる。その長い記録も、しなやかに超えてゆく。
◆
観客席:湘南桃花&浮遊戦空サイド。
席で座っている、桃花が戦空に質問を投げかける。
「どう思う? 戦空。私は天上院姫の戦闘スタイルは『らしいな』て感じるけど」
「咲は本気は出してる、けどまだ体が温まってねぇ。て感じる」
「姫ちゃんは芸達者な、戦法で奇襲を狙ってる。対する咲ちゃんは、まだ攻めてあぐねいてるように感じるんだよなあ~」
「この戦闘は面白いとはうちは思う、でも。【ただ面白い戦闘】をするだけなら。もう、うちも桃花も姫も出来る。問題は、どれだけ心に訴えかける? 気合いや根性や心が強いか? 響くか? だし、まだどっちが強いかはわからん」
「五分五分? いや、終わって欲しくないと強く願う。姫ちゃんの方が一歩リードかな」
「雑念を取り払う十分な環境は整ってる。だから心と心を天秤にかけて、どちらが重いかを競うゲームだから。一発逆転もあり得る」
「この試合が終わるまでに、対策を練らないとね」
「うちもそう思う」
そうして、大会のライブ映像を見守るの出った。
◆
【最強は】公式世界大会『ヤエザキ杯』実況掲示板1【誰だ!?】
【俺のノートPC、スペックが低くてカクカクに動くんだが】
【仕方ない、咲、姫、桃花、戦空は神道社の業務用PCでログインしてるんだ。高スペックPCじゃないと速すぎてまともに観れない】
【あとで公式動画も出るみたいだから。そこで、今後の事も含めて要件等だな】
【うちら、学校のPCで皆で集まってこの試合観てる。始まって数分なのにすでに面白い件について】
【現在は姫様が優勢かな、体力的には一撃くらったから。姫様減ってるけど、流れの掌握力としては。文句なく姫様の流れ】
【負荷簡易版のライブ配信場所もあるからそこに行ってみたら?】
【あれらのスキルって何処で手に入るんだ? 自分で探す系?】
【二代目世界樹『クロニクル』が全部連結と情報処理して出来た代物だから。他ゲームと他ゲームの組み合わせかもしれん】
【VRゲームの可能性を感じた】
【いや、何皆して冷静に分析してるんだよ!? どうみても興奮冷めやらない現場だぞこの戦闘】
【どちらかというと、凄すぎて唖然としてる】
【天上院姫社長は、こんだけ長く遊んどいて。まともにPVP戦するの今回で2回目じゃね?】
【もうそれだけでレア中のレアな試合について】
【しかも相手は自身の妹で、引退試合と来たもんだ】
【アメリカ・中国・ロシアあたりでも同時中継されてる件について】
【へー海外勢の反応はどんななの?】
【アメリカ:さす神! とか中国:咲の2元論最強! とかロシア:このテンションで最後までもつのか? とか、ま~色々】
【なんか俺らが思ってたこととだいたい一緒だな】
【ゲームはだいたい全国共通~】
【やべえ、とにかくやべえ……(語彙力】
【なんで月の輪熊が騎馬戦組んで出撃してるんだ?】
【ギャグを説明してはいけない】
◆
闘技場。
天上院咲は感じていた、〈絶集中〉とかで強制的に同じ土台。立場まで一気にレベルアップしたのがわかる。
「これが、対人戦の時の成長スピード? 桁違いに技術が洗練されて行くのがわかる」
手をグーパーして感触を確かめる。その瞳には燃え上がる炎が立ち込めていた。
輪廻転生して蝶々のような羽が生えて来た忍者姫は。身構える。その2秒ほどの間があってから……。
「来ないのならこっちから行くよ!」
〈エボリューション・極〉を解除する咲、次に咲が出す一手とは……。
〈スキル『妖精の羽』を発動しました〉
どうやら空中戦で挑むらしい。
「天上院咲! 飛びます!」
「ほう、じゃあ私も羽を……どれぐらい成長したかみせてもらおうか!」
最長文学少女ヤエザキの腕の見せ所である。




