第274話「ヤエザキ杯:咲VS姫3」
単純に短くゲームマスター姫は言った。
「多重影分身の術」
まずはお得意の〈パリィ〉で攻撃を受け流す姫。その2人を取り囲むように。円陣に忍者姫の分身が100人現れた。
「数が増えた所で! 今の私なら全部さばき切ってみせる!」
自身と覚悟を合わせ持った咲に、恐れず迷わず進む踏み進む、……が。
単純に短くゲームマスター姫は言った。
「変身」
ポン! ポン! ポン! と100人の忍者姫が煙の中へ隠れて、そして変化・変身していた。その姿は……。
「お前の超えるべき相手は……。――――私のゲームに参加しているプレイヤー全員だ!!!!」
「え……はぁ!?!?」
この姉に冗談が通じるわけもない。
つまりだ。つまりだ。つまりだ。
こういうことになる。
100人の忍者姫がそれぞれの世界の英雄へとなり果てた。恐らく本物だろう。本物だから当然放ってくる技名はこうなる。
「ス〇ーバースト・ストリーム!!!!」「ド〇ゴ! スレイブ!!!!」「イ〇ディグネイション!!!!」「ゴ〇ゴムの! レッド・ロック!!!!」「超〇磁砲!!!!」「ワ〇パンチ!!!!」「は〇いこうせん!!!!」「だ〇ざい!!!!」「平成ラ〇ダーキック!!!!」「ス〇シュウム光線!!!!」「風〇・螺旋丸!!!!」「か〇はめ波!!!!」「内〇総辞職ビーム!!!!」「オ〇オラオラオラオラ!!!!」
ズドドドッドドドドドドドッドドドドッドドオドドドドドドドドドド!!!!
シュババババアバババババババッババババババババババババババババ!!!!
キュルビュドンガラガッシャーンキュイーンピーポーンパーンポーン!!!!
千変万化の方向と怒号と爆音が鳴り響く。
実況の筋肉と解説の太陽である2人組は言った。
『あーもー滅茶苦茶だよ――――!!?? どうやって実況すればいいんだこれ!? イヤ! ありのまま今起こってることを話すぜ! 各世界に存在している主人公クラスの英雄が、必殺技を繰り出しているぞー! それを天上院咲選手は全て文字通りさばき切っている――!? これはお姉ちゃんが妹を最強主人公キャラにおぜん立てする流れなのか!? はたまた咲選手の実力なのか!?』
『【独りアベンジャーズ】ですね、もう彼女一人で良いんじゃないかしら? ちなみにこれは〈俺ツエエ〉がやりたいわけでは無いわね。どちらかというと皆と遊びたい。全員祭りに引きずり込むつもりよ』
『神の槌を受け止める咲! 薙ぎ倒してー! 真空リニアモーター新幹線がツッコむー! 地割れが起きてー! 中から10倍の主人公達が湧き出て来るー!?』
『あーもーこれシリアスやるつもりないですね、シリアルですね。』
呆れるほどに破天荒なプレイスタイルをぶっちぎりのオーバーアクセルを踏み抜くゲームマスター姫。咲が吼える。
「あーもー! うぜえぇ――――!!!!」
ブチギレ竜巻旋風の嵐の剣技によって、囲みが吹き飛ばされた。
主人公英雄モブ達が吹き飛ぶ。
途端に赤と青、二本の苦無で剣芯を捕らえ、接近戦の連撃攻防へと雪崩れ込む姫と咲。
ガキッキキキキキキキキ!!!!
「楽しいか我が妹よ!」
「楽しいよ姉ちゃん!」
虚空を流星に染め上げ、極彩色の剣線華を散らばらせ。花火が打ちあがり螺旋が天地脈楽と駆け上がる!
「本気の本気の本気の本気のお姉ちゃんに勝ってこそ意味があるんだ!!」
「そうだぞ! こんなのまだまだ犬のエサだ! 法王のエサには程遠いぞ!!」
ガキィン――……!!!!
互いに間合いを開ける、次は何を仕掛けてくる? 何をどう答える? それを全て粉々に討ち砕いてこその勝利だと咲は確信する。
「来い! 流星のロードローラー!!!!」
「語彙力が絶対にどっかの鳥頭に電波されただろ!? むしろジャックされてんじゃねーか!?!?」
ロードローラーが雨霰のように降って来たかと思ったら、次は月の輪熊が騎馬戦組みながら群を成して突っ込んできた。
「からの〈絶集中〉!!」
最初に仕掛けた来た感覚遮断の絶無だ、咲は【ソレ】を難なく乗りこなし。
ロードローラーを跳ね返し、月の輪熊をボコボコにハネさせる。熊は快感を有頂天へ向けて飛び立つ翼を得たようにビクンビクンしている。
「行くよお姉ちゃん! タダの! 斬! 空! 剣!!!!」
プロのアシスタント絵師が3日賭けて描く超ド級モノクロド迫力線画で描写された。景色・情景が広がっていた。その圧倒的な『無駄な線』は観るものを圧倒させる。
「ぬおおおおおおお!! 3日分は辛い―! 3秒観ちゃう――――!!!!」
実況筋肉が叫ぶ。
『あぁーーっと! 天上院姫選手が闘技場の場外へ吹き飛ばされたぁ――――!!??』
解説太陽がずっと冷静に見守る。
『3日は辛かったでしょうね、アシスタントさん……』
「なんのー! 〈輪廻転生〉イイイイイイイイイイ!!!!」
サナギだった虫が羽化するかのように、天上院姫は脱皮した。地平線の最果てからムクリ、と。瓦礫の岩山から起き上がる姫……。
「こんな変ちくりんな小技で! 心が! 折れて!! たまるかぁああああ――――ッ!!!!」
『ハードルがぐんぐん上がるぞコンチクショウ!! これは超えたい! 男なら超えたい!!』
『下からくぐった方が速そうですね……』
白熱の公式世界大会はつづく。




