第30話「モンスター図鑑」
「AIのおかげなのか自分からこっちの家に来るもんなんだな。てっきりこっちから動かなきゃ会えないキャラだと思ってたよ」
武器の捻子を回しながらエンペラーはあるがまま、思ったままをフェイに口にする。
「なんか……エンペラー君って意外と冷たい人?」
場が若干険悪な空気になって来た。
「今更気づいたのかい? 君だってNPCだ、色々あってお涙ちょうだいな事があったとしても同情なんかしない。さっさとイベントを見て、スタンプを押して、それでサヨナラさ」
フェイがカメラを落として愕然とする、涙を一杯にため顔を真っ赤にして激情した。
「ひどい! そんなのってないよ! あんまりだよ!友達だと思ってたのに! 友達だと思ってたのは私だけだったの? そんなのってないよ!」
フェイは全力疾走でその場を後にした、その一部始終を全部見ていたヒルドはエンペラーに尋ねる。
「お前……悪党か?」
何を言っているんだ?っと思ったエンペラーだったが冒険者として、ゲームをクリアしようとしているものとして答える答えはたった一つだった。
「僕は正義だ」ドカン!
次の瞬間風の爆風が巻き起こる、ヒルドによる風の付加を付けた爆風だ。エンペラーはその不意打ち攻撃をもろに受ける。
「何しやがんだ……」
「しらん、むかつくからぶっ飛ばしただけだ」
「………ッ……いいぜ…やるんだったらとことんまでやってやろうじゃないか……」
と…遠くの方でどさりと物音が聞こえた。場所は浮遊戦ノアの家の玄関前。ヒルドが慌ててフェイの元まで駆け寄る。エンペラーはその場から動こうとしない。
「……ったく何がどうなってるんだ」
そこへステータスバーから赤い表示が飛び出る。【ゲームオーバー】
「は?」
慌てて、エンペラーはフェイの所まで駆け寄る、フェイは…。
「息してない……おい! フェイ! フェイ! フェイ!」
「は?」
二度目の疑問を口にするエンペラー、何がどうなってるのか全く分からなかった。
続いて画面全体が暗くなり、あたりは漆黒の闇に包まれた。
「おはようございまーすサキちゃんいますか~?」
「………、………は?」
エンペラーにとっては3度目の疑問文、何が起こってるかわからず頭が混乱する。
まず一度目と二度目のバットエンドで会話の始まりの場所が違う…きっとそれは自分たちが飛空艇ノアで寝泊まりしてゲームがオートセーブしたからだと悟った。
このゲームは基本オートセーブでセーブポイントという物がそもそも無い。
「?」
とりあえずエンペラーはあたりさわりのない会話をすることにした。つまり、本音ではなく建て前で話すことにした。
「あ…ああ、サキか、サキなら居ないよ。学校があって放課後の3時か4時までログインしてこない」
「あらら~そうなのですか~居ないのですか~、しょうがないですね~、じゃあ夕方3時に出直してきます」
フェイは笑顔でバイバイをする、ヒルドも笑顔でバイバイをする。
二人が去ったあと、当事者のエンペラーは茫然となった。
「………何が………起こったんだ………」
◆
授業中に携帯のバイブレイションが鳴る。黒板に背を向けていた先生が何事かとぬるりと咲の方を見る。
「お~い咲~授業中は携帯の電源を切っとけって言ったろ~」
「ひゃ……! ふぁい!」
奇天烈な返事をした後咲をおもむろにメールの内容を読んだ。
〈ごめん、一回ゲームオーバーになった〉
前後の文脈が無いので一瞬武器強化に失敗して一回ゲームオーバーになったと言う意味だと錯覚したが、咲はそれは無いだろうと自分を否定した。咲は授業中だが先生にばれないように遊歩にメールを返す。
〈どゆこと?〉
今度は一度バイブレーションしたがすぐさまボタンを押し、先生に気付かれないようにメールの中身を確認する。
〈かいつまんで説明するとフェイを泣かした、ヒルドと喧嘩した、フェイが倒れた。だ。〉
〈………は?〉
〈とにかく細かい説明はあとで説明する、勝手に話を進めてすまない。〉
〈ううんそれはいいよ、とにかく放課後、またあとでね〉
「……と、言う事があったんだ」
飛空艇ノアの上、サキが到着しエンペラーの話を詳しく聞いた。
文脈が追いずらく中々理解に苦しむ内容を、サキは懸命に理解しようとした。
「ん~…要するに、ヒルドと喧嘩したらフェイが倒れた…と…」
「まあ……そうなる」
「まあ……何でそうなったかはとりあえず置いといて喧嘩することは回避しなきゃね。これからはヒルドと喧嘩しないこと、わかった?」
「お…おう、善処する」
そう話し終わって早速フェイとヒルドが現れた。
「よかった~二人に会えて~じゃあ早速記念撮影しよう! 思い出にするんだ!」
フェイは張り切っている。空中にカメラを固定し、飛空艇ノアを背景に水平線が見え、景色ばっちりの所で4人は写真を撮った。取ってすぐに複製して3人に渡した。
「ありがとう! 大切にするね! じゃあ今日は何をする?」
フェイは元気はきはきと返事をするとエンペラーは冷静に淡々と話す。
「やっぱり聞き込み調査じゃないかな、基本だし、この街の事が色々とわかる」
サキもその話に乗っかる。
「そうだね、じゃあバラバラになって迷子になるのもアレだし、4人で一緒に街の中を探検してみよう」
「いや……そうしたいのは山々なんだが……」
「?」
サキは疑問に思う、どうしてエンペラーが4人で行くのに渋っているのか。実際はそうじゃない、行きたくても行けないのだ。
「ごめん、生活管理ミスった、そのあとずっと武器強化に熱中してて寝てないんだ、悪いけど二人で行ってきてくれ」
「え? ヒルドも?」
「ああ、俺も武器強化につき合わされて寝てないんだ、てわけでお休み~」
(なんだ、仲悪くなるどころかその後一緒に武器強化の手伝いまでやってたんだ)
と咲は思った、仲が良いと言うか一つの事に一緒に集中しているだけのようにも見えるが。
とにかく、こうしてサキとフェイの二人だけでの探索が始まった。
◆
村人の話を片っ端から聞きまくる
「スタンプ? さぁ、このへんにスタンプラリーなんてやってる所あったかな~?」
「ここはフェニックスに守護されてるから災害なんてほとんどないんじゃ、嵐もやってこない」
「〈風守りのマント〉はいらんかね?お安くしておくよ」
「トンボはよくドラゴンに食われてしまうが繁殖力が高くそう簡単には絶滅しないんだよ」
「ママーフェイ姫様だー」
「あら~本当ね、ご無沙汰しております、姫もお体に気負つけて下さいね」
どれもこれといって変化のない、重要そうではない世間話だった、スタンプについても、それに関連しそうな珍しいイベントやら、盗賊が出てきて退治して欲しいとか。
それっぽいものは出てこなかった、もうそろそろ諦めようかと思ったその時。
「おや? それはモンスター図鑑ではないか、全部とは言わん20匹ほど見せてはくれぬか? この年では冒険に行きたくても行けない。よろしく頼むぞい」
データとして実体化してないのに咲がモンスター図鑑を持ってることを言い当てた、どうやらモンスター図鑑を持っていたら自動的に話が進むものらしい。
まあ、モンスター図鑑なんてゲームを始めたプレイヤー全員が持ってるわけだから参加プレイヤー全員この老人に行きつくという事なのだろう。
「え? このモンスター図鑑ですか?」
咲は改めてモンスター図鑑を取り出し再確認すると。
「おお、そうじゃそうじゃそれじゃ、その図鑑は今何匹図鑑に登録しておるのかな?」
咲はモンスター図鑑の中をみる、写真を撮る必要はないのか、会ったモンスターは自動で更新されていた。すなわち スライム、うっぴー、 イフリート。
「えっと……3匹です……」
よくよく見てみたら前回会ったスカイドラゴンの図鑑も更新されていない、データが一定の所でリセットさえてしまったのだろう。 少ない……一ヵ月でうっぴーばっかり狩ってたからモンスターにもう沢山会ったのだろうと思っていたが本当に少ない…、というか始まりの街でうっぴーとスライム以外出てこないのもどうかと思う…。 ふむ、どうやらモンスター図鑑を30匹集めて見せれば情報を教えてくれるらしい、ここにきてモンスター図鑑か…そういえば最近やってなかったからちょうどいいかな?そんな面倒なことせず脅迫なりな物々交換なりなんなりして情報を聞き出せばいいのに律儀にモンスター図鑑を集める事に頭をシフトする、こういう事はゲームを沢山やって来た現代っ子なのだろうと自分で思ってしまった。
「これってここらへんに居る、雲の王国ピュリア周辺に居るモンスターを片っ端から遭遇すればいいんだよね」
「そうだね」
そうだった、私が姉の姫とモンスターを見つけた時も写真を取って記録したことになったんだっけか、もうずいぶん昔の事のように思われてしまう。 それとついでに姉から言われた言葉もよみがえってくる。
『ちなみに設定を変えればすれ違っただけでもモンスターは自動登録されるぞ』
なんという時代、いちいち見つけて、図鑑を手に取って、写真を撮らなくても自動更新される機能があったんだった。 今回はきっちり写真を取ってるモンスターのみが更新されたようだ、偶然すれ違っていたモンスターの記録はなし、残念。