第265話「正規版メンテ」
運営管理室。
「社長、ちょっとこれ観てください。数値的にちょっと修正を入れないとまずい問題が」
天上院姫は社長として、現実世界でメインシナリオの推敲をしていたのだが……。
「おうん? どうした改まって」
運営Aに「ここが今後の基盤になるんですよ」と教えられながらその数字を観た。
そこにはプレイヤーレベルと、スキルポイントの数字が載っていた。スキルポイントがスキルを習得するのに必要な数字なのは何となくわかる。もしかしなくても数字の問題だった。
「ん? なんでMAXレベルが10なんじゃ?」
「運営陣の判断で『レベル100までいらない』という判断になったからです。スキルポイントがレベル10の段階で1024も行っちゃって。これレベル10行っちゃった人はほぼ今あるスキル全部取れちゃいますよ……」
つまり。バランスブレイカーになっている、と言いたいのだろう。
「今あるスキルの中で最強のスキルが〈全王〉なんですが、……現在かなり数値を高くしてSP128なんですよ。でも、気合とか根性とかルール無視でレベル9から10にレベルアップされちゃうと……その……〈全王〉をプレイヤー達が一杯取れちゃうんですよ」
スキル〈全王〉持ちのプレイヤーが近い将来いっぱい……?
姫は、なんかちょっと悪寒が走った。
「それは……、なんかちょっとやって欲しくないというか。考えたくないな」
運営Aがそこで提案を出してきた。
「現状、β版でレベル3をじょうげんとし。正規版の上限レベルを5とする。そして1ヶ月後に上限をレベル1ずつ増やすのがよろしいかと……」
「よろしいですかって……、ヤエザキ今レベル12だぞ!?」
「えぇ、ですからレベル12からレベル3ぐらいに修正を……」
「おォい! リアルメンテとかやめてくれよ~!」
姫はイヤな方向へ落胆した、誰も幸せにならないけど。今後のためにやっておいた方が良い。という意味でのメンテだ。
「あと、経験値以外の方法の条件を提示して。それをクリアしないとレベルアップしない風にしませんと。たぶん気合でレベルアップする人出てきますよ」
「条件って……例えばなんじゃ?」
「例えば、……社長のメインシナリオが全部推敲されて。プレイヤーがそれをクリアしたら。MAXレベル6になれるぐらいじゃないと。正直、ゲームの寿命が1ヶ月持ちませんよこれ」
やらなければならないことと。やっておかないと今後もっとめんどくさい事態になると思われる数字の問題の板挟みにハマる姫……。
実際、やっておいた方が良いのは確かだ。
「これだから数字は……。しょうがない、メンテってことで、プレイヤー全員はじき出せ」
「よろしいですか? 正規版が始まって、まだ6時間ほどですけど……」
それは、最悪を想定した。スキル〈全王〉持ちのプレイヤーが出る前に運営ルールで叩き潰す! という強行手段だった。
どの道、ヤエザキのレベルを12から3にする作業は避けられないので。やはりやるしかない。……ゲームを楽しんでたヤエザキには悪いが。
「ん~。んじゃあ、メンテ開け後の『詫び石』も準備しとけよ!」
詫び石とは、運営の不手際で起きた時間のロスとか信用を落とさないための処置で。経験値上げたり、ガチャ引けるようにしたり。要するに有料サービスをタダであげる【サービス】だ、もちろん運営は残業である。
「では社長の許可が得れた! メンテボタンをポチィ!!!!」
嬉しさと悲しさと切なさのメンテボタンが押された。
◆
《運営からのお知らせです、メンテナンスに入ります》
「……、あれ? メンテ? しょうがないか~、お姉ちゃんも頑張ってるねえ~」
その数時間後、6時間頑張ってレベル12まで上げて。スキルもセッティングして。さあ冒険だ!
という所でレベル3に下方修正されて。詫び石もらってもやりきれない気持ちになった妹が。
嬉しさと悲しさと切なさ、と。あと憤怒で。
ログアウトして、姉に文句を言いに現実世界でリアルファイトしたのは言うまでもない。
現実世界。西暦2035年6月2日、深夜。
ヤエザキ/魔法剣士レベル3 スキルポイント8
◆私服姿◆
現実世界の服装がそのまま反映される。なお半裸ではログインは出来ない。
現在詳細不明。
◆持ち物◆
現実世界の所持している持ち物を1つだけ設定して持ってこれる。
現在詳細不明。
◆所持STC◆
〈原初のSTC〉
〈ヤエザキのOSTC1〉
〈ヤエザキのOSTC2〉
◆スキルレベル◆
スキルは全部セットしなおし状態になった。
◆メモ◆
天上院姫が『エレメンタルワールド~リビルド・キーデータ~』を全部推敲し直さないと、レベル4に上限解放しない。
西暦2035年7月1日ぐらいに正規版をリリース出来たら良いな~、と運営は思っている。つまり1ヶ月の猶予が出来た。




