第263話「風操と神経とOSTC」★
『さて、風操と神経。どっちの説明から聞きたい?』
マゼンタは伝えるべきことを伝えるべく話す、場所は公園・ついでに第三者から観たら独りで会話をしている風に見える。
しかし、今さら過ぎて。初歩の初歩のどこを教えればいいのか分からないのがマゼンタの実情だ。
「じゃあ神経からで、実害? 出ちゃってるしね」
ただ、ありのままを話すヤエザキ。自分のそのピクピクによる気持ちよさと苦痛、その両方を知っているマゼンタに。これはどうすれば完治するのか? とかを聞きたいのが率直な気持ちだ。
もっとも、悪いことばかりじゃないのも自分が身に染みてわかってるのも事実。だからここは、コミュニケーションの方法を聞きたいのだ。
『ふむ、……もうわかってると思うが。その「ぴくぴく」には意志がある、つまり会話が可能なんだ。嫌だったら嫌だと願えばやめるし、好きだと願えば好きにしてくれる』
明文化すると、何ともくすぐったい文面だが。事実は事実だから仕方がない。それを乗り越えた先にしか見えない景色に、このエンジョイ勢ヤエザキと人工フラクトライトのマゼンタは辿り着きたいのだ。
本当の意味で仲良くなるために。そしてそれは、コミュニケーションを深めた先にしか存在しない。
『本来は、運動神経を良くする。反射神経を高める、などの戦闘面でのフォローが主だったが。現実世界ではヤエザキは休眠状態だ。だから、布団で横になった時に「ぴくぴく」を発生させて。と願ったのもヤエザキだ。ここまではいいな?』
「うん、合ってる。微睡み、ていうかうたた寝の時は。思考が鈍化して「寝かせて」て言いそびれて苦しむ時もあるのよね……」
なぜヤエザキが苦しむことになるのか? ここは、本人関係ないのだが。湘南桃花の過去の行いが大きく影響している。ヤエザキと桃花は別にシンクロはしてないが……。
だからと言って、全くの無関係というわけでもない。絆は、確かにあるのだ。「ぴくぴく」の用事があるのは桃花で、あとから物語に出現してきた。天上院咲には、実は用事は無いのだ。
そう、ぴくぴくの都合はそうなのだ。
「今わかってるのは、ピクピクする場所を設定し直せば。それをくみ取って会話をしてくれるってところね」
例えば、右手の甲を「イエス」。左手の甲を「ノー」と設定したら。ヤエザキが「眠い、眠らして」と心の中で念じたら「イエス」とピクリと反応してくれる。「ノー」の時もあるが……。
でも、それもこれも。過去のヤエザキが望んだことだ。少なくとも、「ぴくぴく」の設定をしだした時には存在していたので。全くの無関係で白を切るつもりは無い。マゼンタが口を開く。
『まぁ、今話してるヤエザキのその症状は。過去の行い、カルマが帰って来た。いわゆる【神経の応用】だけどな。みえない話し相手が現実に居る。程度に思ってれば害はないよ』
「結局。仲良く付き合っていくしかないってことですね。私も、その結論になったから。今の今まで誰にも相談しなかったんですけど……」
言いたいことは解る。幽霊はいる、いない。サンタクロースはいる、いない。それらの論戦を繰り広げる結果になるのは目に見えてるからだ。だから話さなかった、話す意味も無かったからだ。
しかし、【言うのを我慢していた】というのは。本当だろう、でも、人間は結構お人好しが一杯いることも【もう知っている】見妙な知見だ。
『風操の話より、ほとんど神経の話になってしまったな』
「いいわよ。何となく解るし、イメージしてソレを自在に動かす。やってることはVRゲームのフルダイブ技術でやってることだから。別に教わらなくても何となく解るわ」
風を操って空を飛ぶ。というのとはまた別の話にはなるが。それでもただ前後左右上下に移動させるだけならどうってことはない。
話を戻して、神経の話だが。結局、神経を経由して【自分の中のもう一人の自分】に、話しかけるような話し方じゃないと。まともにコミュニケーションは難しいだろう。
「ん~。よくわかんないけど、学校でもそうだけど。ちゃんと言いたいことを伝えるなら。もっと大きな声で話しかけなさい! て事なのかしら?」
『そうだな、その方が良いだろう。なにか不都合があったら【もっと大きな声で願え】てことになる、そうすれば相手も。ちゃんと聞いてくれるだろう。……こんな説明で良かったかな?』
「うん、十分理解出来たわ。他の第三者が聞いたら置いてきぼりになる感じは否めないけど……」
と、苦笑交じりに冗談に聞こえない冗談を言うヤエザキ。でも、それでいいのだ。問題はちゃんと叫ばないと、相手には伝わらない。コミュニケーションブレイクダンスは、エンタメ娯楽動画の中だけで十分だ。
相手が話の分かる相手だったら、それを理解して。信じて、そして前へ進むしかない。そうして廻り、螺旋は続いていくんだと信じながら。
数秒の間が解決策を示してくれたあと。マゼンタは準備していたソレを渡す。
ステータス画面の中にピロリン! と、新着メッセージがデータで届く。
『よし、俺の要件は以上だ。報酬としてこれをもらってくれ』
《ヤエザキは、オリジナルスキルツリーカード1・2を手に入れました!》
「これは何ですか?」
『お前が今まで歩んできたスキルをこの世界観に見合うように変換しておいた』
カードデータの中身を観ると、確かに。〈斬空剣〉が〈斬空〉だったり。〈エボリューション・極〉は〈進化〉と〈極色〉などに分かれている。原型が留まってない所はちょっと気になるが。根幹は同じだ。
OSTC。ということは、他のプレイヤーもコンバートしたらこうなるという事なのか。と、1人納得しているヤエザキ。
『今はまともに装備出来ないだろうが、メインシナリオが010まで行ったら正規版がプレイ可能だ。その時まで楽しみは取っておけばいい』
「なるほど、それまではアレ装備しようとか悩んでればいいわけね」
ゲームは技を繰り出すだけがゲームじゃない。選んで、悩んで、考えて決めるのも。ゲームであり遊びなのだ。
そうして、ヤエザキは。あれしようこれしようと考えている内に。
『じゃあ俺からの授業はここまでだ。あとは自由に遊ぶと良い』
「おっけい、あー! やっと自由だー!!」
こうして、ヤエザキのぶらりエンジョイプレイが始まった。




