第29話「最終決戦のつもりで行くよ!」
高度な人口AIであるフェイはメタ的な話題でもさらっと参加する。エンペラーは少し戸惑ったが臨機応変に答えようとするが出来なかった。
「………ッ………ッ………ッ」
「?」
サキが察したのかエンペラーが言おうとしたことを代弁する。
「あーそんなことないよ!ログアウト中でもアバターを安全に寝床につかせることが出来るし。何よりこっちの世界でも向こうの世界でも移動できるってことはとっても便利な事だよ、速度だって車なみなんでしょこの飛空艇」
「車って言うのが何なのかわからないけど、たぶんそうなんじゃないかな?」
若干テンパリながら話すサキ。そんなことはどうでもよさそうにヒルドのほうはよそ見をして空を、夕日が沈む地平線を見ている。
「じゃあ探索はまた明日」
「また明日」
「また明日ね」
「おう」
そういって4人はそれぞれの寝床についた。
◆
「最終決戦のつもりで行くよ!」
それが彼女の口癖である、何かの勝負事をするときよくこの言葉を口にする。例えばゲームで一番最初にバトルが始まった時なんかも「最終決戦のつもりで行くよ!」っと一人で口走ったりする。とにかく勝負事はいつも最終決戦なのだ。最終決戦はいつもよりより多くの力を発揮することが出来る。秘奥義、必殺技、秘伝、とっておき。己の限界を優に超えるそれはここぞと言うときにしか使えない伝家の宝刀だ。それを常日頃の日常でやるとどうなるか?負けないのである。だが、負ける時は負ける、これは意気込みであり気合の象徴でもあるわけだ。常日頃からこの心持ちでいれば例え何が起ころうとも120%の力を発揮できる。だからこそいつも「最終決戦のつもりで行くよ!」と言う。もちろん本当に負けられない勝負事の時もそういう。要は覚悟の問題なのだ、どうしても勝ちたいと言う強い意志。この言葉が口癖になった由来はこうだ。いつも通り姉妹でゲームをしている時、これで今日は終わりだからね。っという最終決戦のそんな時、不意に「最終決戦のつもりで行くよ!」っと言ってゲームを始めた。
普段の120%ほどの力を出せた、そして姉に勝てた。だから彼女はその勝てた時の感触を忘れないように口癖にした、自覚して口癖にしたのだ。負け癖が続いたとき、よくその時の事を思い出す。勝てる自分をイメージし、勝てた時に起こっていた現象、呼吸、高揚感、その気持ちを明確に言葉で表すと「最終決戦のつもりで行くよ!」っであったのだ。だから、彼女はEMO中で初めてイフリート戦の時にその言葉を使った、マジのガチの本気の負けられない自分の力が120%発揮できる言葉を、自分を奮い立たせるために言い放った。結果的にこの言葉を聞いた皆にもその思いは伝染したが、その言葉があった時となかったときとでは戦闘能力は1%は違ったであろう。ちなみに天上院姫はこの言葉を聞くと「げ…本気モードになった」と悟ることが出来る、長年一緒に遊んできた姉妹だからこそ良く理解している。このように対戦相手も奮い立たせる効果がある事は咲はわかっていない。故にどんな勝負事でもこの口癖を言うのは、常に勝つときのイメージを忘れないため。勝率が上がるから。本当に最終決戦だったら自分はどう動く?等々のイメージを込めて発しているのである。要するにメンタルの問題だ、強いアスリートほども心を強く持っている。天上院咲もそれと同じ。だから彼女は勝負事の前にはいつも決まって言う。どんな勝負事でも決まって言う。
「最終決戦のつもりで行くよ!」
◆
飛空艇の中の家に入り男部屋と女部屋の間にある玄関口でエンペラーが一つの提案をする。
「そういえば飛空艇の名前決めてなかったな、何かいい案ないか?」
「なんで? 飛空艇でよくない?」
「それじゃあ他の飛空艇と判別できないだろ」
「そっか……それもそうか……じゃあ……ん~……あ、ほらこの世界ってエデンとかそういうのが大いいじゃない。なんて言ったかな~……」
サキはあんまり良くない頭を必死に思考回転させその単語を導き出そうとする…が、出来ない。エンペラーがサキの言いたいことを先に予想して代弁する。
「創世記か?聖書とかに出てくる」
「そうそれそれ!その中に出てくるノアの箱舟とかってあるじゃない、あんな感じで良くない?」
「ふむ…そうだな…他によさそうなのもないし…船だし…世界観にもあってる。この際船の形やら動物達を大量に収納できるかと言うとそれは出来ないが…、まぁいいんじゃないのかな?」
「うん、じゃあ決定だね。ノアか~これからよろしくね、ノア」
サキは家に向かって語り掛ける、もちろん冷たい岩肌を感じさせるだけで。ノアは黙して語ろうとはしなかった。これから一緒に長旅をともにする(予定)大切なパートナーだ。そう思うとなんだか感傷深くなる。
「じゃあお休み」
「ああ、お休み。と言っても僕はこの後武器強化をするんだけどな、サキの分もやっておくよ」
「あれ? そうなの? なんか悪いんじゃないかな?」
「ストーリーを勝手に進めるのもアレだし。銃意外の武器の強化をして遊びたいってのもあるから別にいいよ」
エンペラーにとってはこれはあくまで遊びの延長線上なのだ、そうだこれはゲームだったとハッっと気付いたサキだった。
「うん。じゃあ私の剣を渡しておくね」
そういってサキはステータスバーを出現させ、ボタンを人差し指でクリックし〈冒険者の剣〉を具現化しエンペラーに渡す。
「じゃ」
「ん、じゃ」
二人は両サイドにある男部屋と女部屋に分かれて入っていった。
サキ、エンペラー、そしてヒルドという友達が出来た、とっても嬉しい。
でもサキとエンペラーは冒険者だ、一緒についって行って冒険を楽しむのも良いかもしれないけど私は戦えない。
どう見ても足手まといだ。やっぱり無理だ、友達にはなれたけど一緒には行けない。
ヒルドはどうなんだろう?ずっと一緒に居てくれる保証はない、精霊だし、どうなるかわからない。そうだ、私はヒルドについて何一つ知らない。勝手に友達になってくれただけだ、嬉しいけど……果たしてそれでいいのだろうか?とにかく今の思い出を大切にしよう。そうだ写真!4人集まった所を写真で取れば思い出になるかもしれない、サキとエンペラーはいつスタンプを見つけて次の街に旅立ってしまうかわからない。やるなら早い方がいい、明日。4人で写真を撮ろう、そうしよう。よし、そうと決まれば今日はもう寝よう、明日朝一番で二人に会いに行こう、ヒルドも誘って。ふふふ…明日が楽しみだな…それじゃあ…おやすみなさい…。
◆
「おはようございまーすサキちゃん居ますか~?」
「ああ……サキなら居ないよ」
「え? 居ない?」
翌日、フェイはサキとエンペラーに会うために朝一番に起き、カメラを持って、ヒルドを連れて、そしてフェイのお古である飛空艇、現在は命名を飛空艇ノアまでやって来たのである。
現在朝8時。エンペラーは男部屋で武器強化、武器の錬成をやっている。
「ああ、サキには学校がある。学校が終わった放課後じゃないとログインできないんだ、だから来るのは、3時か4時かそのぐらいだ」
「へーエンペラー君は用事とかないの?」
「僕は……どうでもいいだろそんなこと……」
フェイの問いに自分の事ははぐらかすエンペラー、自分の事を知られたくなくて恥ずかしくて言えないのだ。
「それにしても意外だな」
「え?」