第261話「ゲームじゃない方の修行」★
《エレメンタルワールド・オンライン2、ルミネ市アドバンス地区・秋浜菊3丁目。桜ヶ丘公園へログインします。》
現実世界とうり二つな、仮想世界へとログインしたヤエザキ。
「えっと~……、これは~……」
知ってる、ここは現実世界でお姉ちゃんとアイスを食べた公園だ。他にも鬼ごっこしたり縄跳びをしたり、色々な思い出がある。
というか、これだと。現実世界で寝てて、仮想世界の現実世界で遊ぶ。という不健康極まりない遊びと化している。
「なるほど、ここが【本家】か……」
ローファンタジー、現実世界を色濃く残し。その中で超能力などを使う、いわゆる『学園異能力ファンタジー』の世界ということになる。
が、この世界にはそんな現実世界観でも。特徴的な人物達が存在した。
その代表例が【精霊】だ。
「来たわね」
最高人工知能、天命アリス=スズ。精霊タイプなので身長がヤエザキの半分くらいの大きさだ。
放課後クラブの仲間、一期生7番目の友達だ。ついでに天上院姉妹の後に生まれたので、三女にあたる。
「あ! 天スズちゃん!」
ちょっとムッと照れる天スズちゃん。
「その呼び方だと、〈天ぷらそば〉みたいで嫌なんですけど……」
「て、言っても。天命アリス=スズちゃんだと名前長いし……」
天からもらった命のアリス、だけど中身はスズちゃん。なので結局略すと「天スズちゃん」が一番なのだ。
「むう。呼び方が難しいわね……。まあ普通に『サキ姉とヒメ姉』って呼ばせてもらうわ、フン!」
あっち向いてプイ! と頬を赤らめて顔をそらした、元がスズちゃんなだけにツンデレである。姉妹だが。
どこかのラノベで「パパママ」と呼んでたりしていた人工知能の存在は知っているが、天上院家にそれは当てはまらなそうだったので。〈姉妹関係〉ということにした。
「で? ここではその恰好ってことはピクシーとか精霊ってカテゴライズになったの?」
「そんな感じヨ、ここではサキ姉のナビゲーターって立ち位置にコンバートされてる。最高人工知能なだけあって精霊でも、大精霊でもなく。女王精霊って立ち位置」
「あはは、何か変に2段ジャンプしている……」
「しょうがないでしょ! 出自がへんちくりんなんだから!!」
元々、天スズに出会うには。ゲームマスター天上院姫の、システムコマンドを使ってルートを新たに創造。
「私は何なの?」
【私の心】【私の影】【私の魂】【私の命】
選択肢が4つ出て来て……。
という、3つのルートを制覇した後に出て来る。4つ目のルート分岐シナリオを発生させ。
ボスキャラ。仮面木人ザナドゥと仮面木人シェイクとの戦闘をクリアしないと出てこない存在なので。べらぼうに難易度が高い。
のだが、今は設置してるだけなので。クリアする人はどうにかクリアするのだが。それにしたって変な方向にプレイしないと出てこないのは確かだ。
「えーっと、で。ここはどいう居場所? ログイン場所?」
「そうね、プレイヤー達が集まる広場て所かしら。家とかは、……まあ作っても良いけど。買うなら宇宙船の方が良いわよたぶん」
「それは、……今後のプレイ的にってこと?」
ヤエザキはCWでシステム外スキルを習得するために遊んだので、CWのメインシナリオ。〈原典〉シナリオは知らないのだ。
ただ、あそこの世界観が最初から宇宙船だったのもあってか。そう連想する。
「まぁ、前置きが長くなってしまったけど。ようこそ、〈異能力者達の世界〉へ!」
「あはは、なんか綺麗にまとめられたわね」
そうして、とりあえず〈桜ヶ丘公園〉に何があるのかキョロキョロ視て回るヤエザキと天スズだった。
それからしばらくして、自身のステータス画面を観る。
ヤエザキ
職業:魔法剣士 レベル6
「おろ? 確か前に聞いた話だと、今のマックスレベルってレベル10だったはず……」
「まあ、【ここまで頑張って来たので】レベル1は無いだろうって感じかしらね」
「ふむ、で。メインシナリオは。今は004まで更新中か、お姉ちゃん頑張ってるわね」
「ここでは。メインクエストという名の作品内の時間は止まってるから、気にせずサブクエストをしてればいいと思うよ」
「ほうほうほう、じゃあ適当にログインしてきた人と雑談でもしますかねぇ。じゃ、天スズちゃんまたあとで」
「あいよー」
そうして、『女王精霊天スズ』は姿を消した。
◆
「さて、と……居るんでしょ? マゼンタ」
単的に短く、天上院咲の『フラクトライトキューブ・リストバンド』の中から声が聞こえる。
『まぁ、居るけどな』
「これからどうしよっか? 私は特に予定は無いからぶらり旅をしたいけど……」
と言ったが、マゼンタの方は大いに課題が残っていた。
『一つ提案があるんだが』
「ん? 何さ改まって」
言うか言わないか迷うそぶりを振り払って、マゼンタは勇気をもって迷わず現実を突きつける。
『お前、現実世界で寝てる時。〈痛風〉とか〈神経の痙攣〉とか、体に異常をきたしてるだろ?』
ヤエザキの置かれている、隠してた事実を露呈されると。大いに困り顔をするヤエザキ。
『元々それらは。俺達、四重奏が〈風〉と〈神経〉使いの能力者だったからだ。つまり、元々細かく明文化されてないスキルのしっぺ返しをヤエザキの世代で被ってる。無関係に無視するわけにもいかない』
「ほう……で?」
『ちょうど世界観もEWO2なんだ、折角だし。こうなった責任も俺達にはある。だから〈風〉と〈神経〉の両方のスキルを習得することをオススメする、てかやってくれ』
実際、現実世界の天上院咲は。湘南桃花同様、〈痛風〉と〈神経痙攣〉で苦しんでる。桃花は100%だが、ヤエザキは30%ぐらいだろうか……。
「なるほどねぇ」
『このままそのスキルの明文化をしないと。〈風邪〉と〈神経マヒ〉は〈毒〉の効果だから〈薬〉を飲めば治る。という身もふたもないルートへ一直線だ。俺達、四重奏がそんなこと望んでるわけないだろう』
そりゃそうだ。アノ四重奏がそんな事を望んでるはずもない。よって……。
『基礎知識や記憶の齟齬を埋めるだけでも良い、頼む』
拒む理由は無かった。
「わたしはまず、この世界をぶらり旅したかったんだけどなあ~……。わかった、まずは技の修行ね。しっかし〈風〉と〈神経〉か~……どうやって使うんだろう?」
『まずは心の準備だ、10分後に始めよう』
ヤエザキはその修行を「おっけい」と、快く了承した。




