第256話「真の光・浮遊戦空」
ピロリ♪
湘南桃花にメールが届いた。
「ん? 戦空から? 何だろう」
『浮遊戦空:逃げるな、戦え。』
「はあ、やっぱアイツならこうなるか……。仕方ない、オーバーリミッツ。ケリつけてくる」
「いってらっしゃい」
そう言って、湘南桃花は再びログインした。
◆
「さて、戦空くん。改めて用事って何か――」
ピッ。と決定ボタンを押す。
《ゲーム開始、第50層マスター承認試験。フロアボス『湘南桃花』、戦空は『決闘をする』を選択。マスター承認試験、続行を確認しました。》
「ノータイムかよ……」
戦空の気力に気おされる桃花。
「良いの? 私が負けたら死ぬんだけど」
戦空は真面目に答える。
「難しいことはわかんねえし、そんなこと勝ってから決める!」
「はあ、だから……」
「仮にさ、ちょっと頑張って考えるとさ……」
「?」
「お前、自分は死ぬ覚悟があるから強いと思ってるみたいだけど。うちのことも、ここに居る全員の事も。ましてやヤエザキのことも……。
真剣な顔で言う。
「なめすぎだ!!!! 死ねば強い!? ナマ言ってんじゃねーぞ!! そんな甘っちょろい考えはウチは大っ嫌いだ!! 仮に桃花! お前が死んだとしたら」
「死んだとしたら?」
「死んだあと考える! 助ける! 救う! 絶対にハッピーエンドを掴み取るまで諦めねえ! でもその前に」
「その前に?」
「殴って! 死んで! 救って! 罪を償って! また一緒に遊ぶんだ! 俺はそのために戦う!! そのハッピーエンドのために戦う!!!!」
「そんな非科学的な理由で……」
「とりあえずさあお前」
一拍大きく空気を吸い込んで、そして叫ぶ。
「一回死ね!!!!」
煽り耐性のある方だと思った桃花でも、この粋な計らいに。笑わずにはいられなかった。
「上等じゃん! その覚悟! そっくりそのままお前に返してお前を殺す!!」
◆
現実世界。
泣きじゃくるのをやめた咲となだめる姫は、その第50層フロアボスの会場を。生放送ライブで見ていた。
「これが……戦空……」
「そうじゃ、これが皆を光で照らす。真の希望じゃ、まあ面白くない所にしか顔を出さないのが欠点じゃが……」
これが真の強さなのかと、咲は初めて知る。初めて見る。純然たる強さの塊。無理を通せば道理が引っ込む。不倒不屈の……。
その時、風が来た。
「これが、風神……」
◆
「細かいことは全クリ攻略組に任せた! ウチは! このふぬけた根性のコイツを! ぶっ飛ばす!!!!」
全クリ攻略組は答える。
「おう! 任せとけ!」
「科学だろうが魔術だろうが、何が何でも最高の環境を整えてやる!」
「だから戦空! 必ず勝て!」
「いっけー! ぶきかませー!!」
「やるぞ! 俺達も続け―!!」
「辞められねえよな! ヤエザキっちのためにも!!」
戦空と桃花は構える。
「行くぞ! 桃花!」
「そうね、第2ラウンドだ!」
ピー!
《第50層マスター承認試験、開始します。》
「よし、じゃあまず。この『速度の剣』と『技術の剣』でお相手を……」
「〈スターバースト! ストリーム!!〉」
バリン! 山羊型のそれを一撃目で粉々に粉砕する!
「な!?」
「本気で来い! お前の本気を粉々に討ち砕いてやる!!」
「なら『速度の剣』と『技術の剣』うさぎとねこの型!!」
バリン! 動物型のそれを三撃目で粉々に粉砕する!
「は!?」
「ぬりいっ……!」
距離を取って体制を立て直そうとする桃花。若干ほどの間が開く。
「くっ! 〈黄金!〉〈真紅!〉」
ボゴン! 紅蓮色の爆発を六撃目で粉々に粉砕する!
「〈秘宝!〉」
ショゴン! 自身を隔離する絶対防御で守ろうとしたが、それも速攻で看破され。密室が破壊される。
そこにはもう【奥の手】を使うしかない追い詰められた桃花の姿があった。
(長引かせるつもりはないってことか……)
「奥義! 〈無償の愛!!〉」
シュパン!
コンマ数秒の流星のような打撃が飛んで来る。流石にコレは全てをさばき切ることは出来なかった戦空。
これでお互いの『策』は無くなった。
「じゃあ。本物、行くぞ!! まだ、まだまだまだまだ!」
空気が圧縮されてゆく、世界が縮小されてゆく。
「ふん、そのなもの遠くへ逃げればドンドン当たる確率は下がっていくわ! え……!?」
が、今回は違った。
……部屋が、空間が圧縮されてゆく。【戦闘出来る範囲ごと圧縮されてゆく】、まるで風船の空気がゆっくりと抜かれてゆくように、破裂ではない。
逃げれる範囲そのものが……。
「な! そんな!? こんなの今まで観たこと……」
ない。
と言う間に【戦闘空間はゼロ距離】になっていた、ここまで来れば確率は必中の一撃必殺。
「ゼロ・ビックバンバースト!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
瞬間、世界創世のビックバンが。湘南桃花に腹パンとして襲い掛かる!
桃花は宙を舞い、空回りし。自由落下し。そして。
そして……。
どすん。
鈍い音と共に。重力に支配され、地面に倒れふっした。
空気の圧縮ではなく、空間の圧縮。戦空がやったのはそれだった。
生身の彼女にとっては一撃で致命傷だった。
というかこの技で生き残れる存在は今のところ誰も居ない。
ピ――――!
《第50層マスター承認試験。フロアボス『湘南桃花』、戦闘不能。プレイヤー浮遊戦空の勝利》
一瞬だった。
たった2つの技だけで勝ってしまった。
「負けた……」
「勝った。だから一回死んでまた出直してこい!」
「あぁ、そうだな。なんか今回の命は凄く軽いものに感じるよ。アリンコみたいだ」
「何でも良い。でもそれが終わったら、寝て起きたらまた遊ぼうな!」
桃花に対して、にっこりとした笑顔で戦空はそう言う。
「ったく、ほんとにあんたは遊びの天才だね」
変わらないなあ~……。と思いながら自身の子供時代を思い出して、目を瞑って。そしてポリゴン片となって消えた。
第51層への扉が開いた。
◆
現実世界、天上院家で姉妹はライブ映像を見ていた。今さっきまでそんな策など無かったし、誰も見たことも考えたことも無かった。
天上院咲は小さく呟く。
「これが、戦空……。」
呪縛から解き放たれ、助けられた少女の姿がそこにはあった。




