第253話「生きる伝説の英雄×2」
ハイファンタジー・オンライン。A1エリア、プレイヤー街。
不確かな道をグラつきながら歩いていると、二人組の男性と出会った。
少女ヤエザキは尋ねる。
「あ、あなた達は確か……」
「ギルド『非理法権天』の秘十席群だ、湘南桃花と腐れ縁って言えばわかりやすいか?」
「ギルド『四重奏』のブロードだ。今は将護三ッ矢って名乗ってる。久しぶりだな、サキ。イフリート戦と豪華客船以来かな?」
男性2人に挟まれるヤエザキ、若干きょどる。
「おお、流石に久しぶりすぎて忘れてました。イフリート戦ってほぼ1年前ですしね」
そりゃそうだと、笑う男子2人組。片方は大学卒業の社会人と、高校2年生ぐらいの学生だ。ヤエザキは中学2年生。
「お互い色々あったな」
「何だかんだであっという間だったよ」
ヤエザキは「そうですね」と言ってから。
「そうだ! 3人でお茶しませんか! スッゴイ話したいことがあるし!」
大らかに明るく振る舞っているが、三ッ矢には【おみとおし】だ。
「それはそのキューブの話題か?」
動揺と共に、きょどるヤエザキ。
「あ……! えっとその!?」
『……』
フラクトライトキューブのマゼンタはダンマリである。
表舞台に出て来た群は言う。
「お前ら喧嘩すんなよ?」
「わかってるよ、ことが複雑だってことぐらい」
男性2人と和気あいあいとお茶の間トークという夢の花を考えていたヤエザキだったが、どうやら状況整理の方に花が枯らされそうだ。
夢み心地のふわふわ足が、現実色に塗り替えられるヤエザキ。
「え、何? シリアス系やるんですか?」
「クール系2人じゃ場も冷えるわな」
「ムードメーカーは戦空が担当だったからな」
戦闘狂なあの疲れる男性がムードメーカー……。
「え、あの子がムードメーカー? ただのガキじゃないですか」
そうヤエザキに言われるが、クール系2人にとっては評価が違うらしい。
「あいつは俺達にとっては光だ」
「変わらねえよなあ、良くも悪くも」
ヤエザキは知らない、戦空がこの2人の闇を晴らしてくれた光だということも。
「むう~……?」
汚れ始めたヤエザキは知らない。男2人にしかわからないような歩調で、2人は言う。
「お互い綺麗になったな」
「ホントにな」
「なんのお話ですか?」
「バカは変わってもバカだったって話。ちゃんと説明すると【裏の裏は表だった】って話さ」
「?」
お互い笑いあう2人。どうやらヤエザキとマゼンタと同じように、秘十席群と将護三ッ矢との間にも。軽くはない、大きな溝があって。埋めねばならない感情と自覚してるらしい。
ヤエザキは知らない、この男2人の素顔も。
マスター試験のライバル、戦空の真の実力も。
データと化したマゼンタは知っている、そこにはもうどうしようもない壁があることも。
その壁を軽々と超えてしまう戦空の実力も。
◆
レストラン屋。
パンケーキ、ミルクシェイク、ピザにお茶、そしてエビ天の乗ったそば。
「俺はカニと牛丼な、他に何食う?」
「フライドチキン、肉まん、チョコに、あーあとお団子だな。ヤエザキは何食う?」
「えーっと~……う、鳥龍茶?」
「遠慮するな、食える時に食っとけ」
「や、だってココ。ゲームの中だし……」
群と三ツ矢にとっては、割とどうでもいい。些細な差らしい。
「一応言っておくと、味はあるぞ?」
「そうそう、本物より薄味だけど。あ! すみませんポテトもください!」
もはや普通に会食だった。ヤエザキは本当にオシャレにお茶! と言う感じが良かったのだが、ガッツガツ食う。遠慮なんて無かった。男飯と言う感じのラインナップに困るヤエザキ。
「飯が無いと会話も進まないぜ?」
男子と会話はしたいヤエザキ、それも普通の男子じゃない。モブでもない、英雄と呼ばれた男性だ。
「じゃあ……話題いいですか?」
「どうぞどうぞ」
「ハムッ」
美味しそうに食べる2人をしり目に、鳥龍茶だけで勝負に出るヤエザキ。
「えっと、まず。三ツ矢さんは『マスター』なんですよね? 群さんは……称号とかあるんですか?」
群から先に話し出す。
「俺は桃花と同じ一般人だ、顔は広いが秘密主義で表舞台じゃ何にも話さないでやって来た男。て所だろう」
三ツ矢は「何やったかなー?」と頭に疑問文を浮かべながら答える。
「俺はログに残らない所で色々活躍した感じかなあ~」
「ログに残らない?」
その単語に〈エボリューション・白〉を思い浮かべたが、どうやら毛色が違うらしい。
「何て言えば良いのかな……、そう【オフラインゲーム】をやってたんだよ。だから噂的なログには何も残ってないし、非公開なデータの中でしか俺の記録は残ってないから。新しいPCに買い替えるときに一緒に捨てた。だからデータは残ってない」
「それで何で初代マスターなんですか?」
「う~ん。上手く言いにくいんだが、オフラインだけどリアルの公式大会で優勝した。と想っといてくれ」
「なるほど、とりあえずオンラインイベントではないんですね」
「そう、オンラインじゃないんだよ。俺はな」
ヤエザキの右手に装着されているフラクトライトキューブを観て言った。マゼンタはここで口を開く。
『お前の、いや。三ツ矢の隠しデータを元に、俺がオンラインでゲームをしてたのは。そう、紛れもない真実だ』
マゼンタは自分の現状を正確に白状した。ヤエザキは薄々感じていた違和感を口に出す。
「じゃあ三ツ矢さんのコピーAIがマゼンタさんなんですね……」
三ツ矢がそれに補足する。
「たぶん、【俺より俺してる俺】って感じなんだと思うぜ。今は、もはや別の人生を歩んでるが」
『そこは否定しない、俺はオリジナルよりも精神年齢的には長く生きてる』
群はブチリとフライドチキンを食う。そしてメタ的に言う。
「別にキャラが分岐して別人格になって、勝手に動き出すなんて事象は今までもあっただろ? そこまで深く考え込むこと無いと思うぜ」
三ツ矢が食い下がる。
「群さんはそれで良いかもしれないが。俺は目の前に俺のデータがあることに、違和感しか覚えないよ」
「つっても。人格が生まれちまったもんは生まれちまったんだ。今更削除なんて出来ないだろ、イヤ。出来たとしてもするべきじゃないし、したくない。そうだろ?」
『綺麗に片づけないならその考えで間違ってない』
ヤエザキが持ち出した会話だったが、やっぱりつついたらドえらい回答のが出て来た。
はてさて、どうしたものか。
「……、……」
群が援護射撃をする。
「とりあえずヤエザキ」
「はい?」
「俺達が居ない間、よく頑張ったな。よく耐え忍んだと思うよ」
「いえいえ、私は好きでお姉ちゃんのゲームを遊んでるわけですから。それでどうします? ……お姉ちゃんと会いますか?」
どうやら三ツ矢が最も話したい相手の名前はお見通しなようだ。
「この機会を逃したらまたいつ話せるかわからない。……頼めるか?」
「わかりました、では呼び出します」
こうして、男子2人・女子2人とAI型男子2人になったレストランのテーブル一角だった。
と、しようと思ったが。
「え!? 来れない!? 大統領とお話し中!? そっかー、うんわかった。はーい」
と、なって中々ヤエザキの思う通りにはいかなかった。




