第250話「浮遊城の夢・Q&A」
現実世界。西暦2035年4月27日、放課後。
仮想世界【世界樹ホーム:ヒメの部屋、2号室『世界樹シスターブレス』】
第3層を突破してから丸1日が過ぎた。
マスター承認試験の途中である、ヤエザキと戦空は神道社社長の姫に呼び出された。ヒメの世界樹ホームに集合と言うことで招待された。
改めて。
世界樹ホームは『全てのゲームデータ』が集まる場所である。
そこには世界樹が1本だけ生えており、あとは全部一面草原の丘だった。今回ネットの世界で呼び出した理由は。戦空は神奈川県以外の所からのログインと言うことで。とても直接会って話せる距離ではなかったからだ。
「それでお姉ちゃん、何で私達2人組を呼び出したの?」
「今回は戦闘じゃないのか?」
ヒメは世界樹を見つめながら言う。
「今回私がお前たち2人を呼んだのは他でもない、動機についてだ。……しかしだ、私も入社して途中から知った出来事なので自分でもあやふやなのだ。だからこういうゲームはどうじゃ? Q&Aゲーム。今なら何でも答えてやろう」
「それ、ゲームってつける意味がわからないんだけど……」
「何でもって何でもか?」
ヒメはコクリとうなずく。
「ああ、VRゲームの事から私の体重まで。ありとあらゆることの質問に答えよう。説明不足だったからな」
2人とも体重には興味が無いのでツッコまない。この場にはやはりツッコミ役が不在のようだ。
3人は、草原に座る。ヒメが言う。
「2人とも、各々冒険に出て色々なことを知ったじゃろ? じゃけどこうも感じたはずじゃ他のプレイヤー達は『運営の話は出て来るが、運営長や。ましてや社長の話題が出てこない』と……」
ヤエザキと戦空は答える。
「確かに、違和感があるわ」
「言われてみれば全く話題が出てこなかったな」
ヒメはニッコリと笑う。
「じゃあ最初のQ&Aタイムじゃ!」
Q、何故、社長の話題が出てこないんですか?
A、社長である、天上院姫も知らないから。
「ん?」
「どゆこと?」
当然その反応になる。
「そこで私はある仮説を立てた」
Q、ヒメが立てた仮説とは何ですか?
A、この世界の空は全て繋がっていて、社長でありラスボスであり唯一神と謳っている私は。この世で1人しか居ないから。
「ん? 何だ? 難しい話か?」
「これは難しそうな話ね……」
ヒメはうなずいて、話を元に戻す。
「というわけで、何故私の話題が出てこないかと言うと。【私が話題にしないから】と言うことになる」
ヒメが自分の話題を話さないから、噂は広まらず。ヒメ本人にも響いて来ない。
「他に質問あるか?」
「じゃあはい」と、ヤエザキが手を挙げる。
Q、何故、ネットの世界に『世界樹の種』を無料でばら撒き。VRの世界を皆で共有できるようにしたんですか?
A、ぶっちゃけ忘れました、記憶にございません。
「あうん?」
「話が繋がらないぞ?」
当然そうなる。
「厳密に覚えてるのは、0から1を生み出す能力。無から有、つまりタンポポの種のように飛んでったらいいな~って。【ゲーム内で超能力設定をしたらそうなった】」
「……え?」
「夢を願ったら叶ったってことか?」
「そゆこと」
「じゃあ今度はウチから質問」
Q、超能力は実在するんですか?
A、実在しないと説明がつかないので実在します。
「え? じゃあ……」
ヤエザキは食いつく。
Q、VR機を装備しなくても、超能力は使えるんですか?
A、使えませんが、意志疎通は出来ると考えています。
Q、それはいつからあったのでしょうか?
A、ずっと前からあったっぽいです。
おかしい、何かがおかしい。
Q、そのおかしさを、誰かが追いかけることは想定していますか?
A、想定してるっぽいです。
「んんん???」
Q、そのぽい。と言うのは誰のことですか?
A、誰でも無いです、ただ。神の観えざる手、かもしれません。つまり私自身?
「なのでつまりじゃ~……」
「ちょっと待てちょっと待って!?」
「う~んうちにはさっぱりだ」
ヤエザキは直感で対応する。
「それってつまり、VR機もゲームも機械も全く関係ないじゃない!? お姉ちゃん何やってるの?」
「ん~」
Q、天上院姫は何をやっているのですか?
A、たぶん唯一神をやってるって事になるのかなあ~? ほら、巫女とか神様とかって機械や電気を使わないし。
「…………????」
Q、何でそうなったの?
A、わからん
ということで……。
「な? 言っても解らんじゃろ?」
ヤエザキと戦空は腕を組む。
「確かにわからないけど……」
「神様の能力はできるんだよな?」
「できてるような錯覚はあるが。たぶん、そんな力は持たないと思う」
「……? あーじゃあこういう質問はどうかな?」
Q、それを知れるものはあるのですか?
A、あるけど、まだ全部は観れてないです。
「それだ!」
Q、何であるの?
A、知らないのじゃ。
「ただ」
「……ただ?」
「その本は、外部隠蔽工作をする特殊能力があるらしい」
「……、外側から隠して作り変える?」
「そう、どう考えても。桃花っちのほうに戻ってしまうのじゃ」
「え?」
Q、なぜそこで桃花さんが出て来るんですか?
A、よく知っている身重の女性だから?
流れを掴んだヤエザキは、そこでようやく流れを把握する。
「なるほどね、とりあえずこの話題を避けてた理由がよくわかったわ」
「おお、そうか。すまんのう」
「誰を殴ったら解決するんだ?」
「たぶんわし。……おっと今日はこの辺にしよう」
この話題は根が深そうだ。
「んじゃ、話題変えるか」
何でも聞いていいと言ったのに、話題を変えて欲しいと言われた。
「お前らの場合、攻略の糸口とかそんなところを聞かれると思ったが……」
「いや、と言っても初っ端の答えから意味不明だったし……」
ヒメはポンと、手を添えて言う。
「ま、若者はリアルのことなど気にせず自由に遊んでればいいんじゃよ」
「いきなりジジ臭い事を言われましても……」
「まーでもアレなんだよな」
戦空が言う。
「冒険って、答えがわかんねーから冒険で。答えを知ったら終わりなんだよ、きっと」
ヤエザキとヒメはキョトンとする。
「ま、一理あるかな。全てを知ってる人が全ての答えを今すぐ言ったって、真の価値が分からなければ意味が無い」
そう言う、なが~い間を取ってからヒメが改めて。
「お前らにはまだ速すぎた話って事じゃ、『私もお前らも含めて』な……また語るべき時になったら語らせてもらおう。まだ【たったの第3層をクリアしただけ】じゃ、そうじゃな。今度の質問コーナーは第10層クリアの時まで、お預けにしておこう」
世界の真実なんて、今知ったところでどうしようもない。少なくともまだ【開戦】もしていない。と、思ってる人もいるかもしれない。あるいはもう【終わった】とも、そんな事今の若者には知る術もないのだ。
「じゃあ、もう用事はすんだ?」
「うちらは、もう冒険を続けていいのか?」
「ああ、わしの不安材料は。まだまだ速すぎたってことで心の決着はついたよ。好きにすればいい」
そういうわけでマスター承認試験の2人は。各々の道をゆく。
「咲」
「ん?」
そこにはラスボス特有の、あるいは盤上の対戦相手としての。挑発的な笑みを浮かべていた。
「覚悟していけよ? 覚悟なきものは去れ」
ちょっとその威圧に気おされてから。挫けず気持ちを持ち直す。ヤエザキも戦空も。
「今さらよ。望むところだわ!」
「おう! 本気見せろよ! 生ぬるい冒険なんて願い下げだぜ!」
「ふふ、言ったな?」
言って。
「なら、今度は『過去からの亡霊』じゃない。偶然じゃない、『未来の果て』を見せてやろう。ここからが私の【本気のゲーム】じゃ!」
言って、3人は別々の場所へ行く。
「ではまたてきとうな日に会おう」
《ヒメはログアウトしました。》
《戦空はハイファンタジー・オンラインに移動しました。》
《ヤエザキは自身の世界樹ホームへ移動しました。》




