第249話「第3層は終わってない」
15分ほどの死闘は、手に汗握る展開だった。
だが、自分のことで精いっぱいだったヤエザキと戦空は。その場その場を、場当たり的にだが何とかしのぎ切った。
とても全部を描写するのは叶わなかった。
唯一描写できる点と言えば。『数に任せて囲んで戦った』と言うことだけだろう。
「回転斬りい!」
「「ギョワアアアア!?」」
ヤエザキは背後から襲ってきた敵の〈かげうち〉を、〈回転斬り〉で薙ぎ倒した。同時に、親衛隊の牙さんも中山羊を殲滅する。
「やっちゃってください! 今度はこっちのターンです!」
「うん! 安らかに眠れ。光魔法〈鎮魂歌〉!」
永遠に続く怨念を、光の祠を媒体に入れて魂を沈めた。
《電車型の大山羊『ネオ・ゴーストドライブ』は怪異現象を発動した! 攻略組は混乱した!》
「あー……やっぱ、一筋縄じゃ行かないか……。タダじゃない、というか現金というか……。……戦空!」
「ん? 何だ?」
戦空は避けることしか出来なかった。それこそ〈神避〉ぐらいしか出来なかった。攻撃が当たらないのだ。
「私が【小手先の技】を使う、だからあんたは【大技】を今からお見舞いしなさい! 呼吸の終着点、隙は私が作る!」
「おう! 任せろ! うおおおおおおおお!! 〈圧縮〉!!!!」
〈極点〉の前段階、〈チャージ〉が発動する。いつもの、と言えばわかる人には解るけど。普通はわからない。
説明しよう!
〈極点〉は恐ろしくタイミングがシビアで。相手の呼吸のタイミング、自分の呼吸のタイミングがクリティカルヒットしていないと決まらない。故に〈点〉なのだ。
更に今回は困ったことに、相手が大山羊の形をしているとはいえ。性質は幽霊の電車である。普通の格闘技は効果が無い。
よって、幽霊の『呼吸の終着点』を狙い。更にはその『呼吸の波動』が終わったタイミング。山があって谷があるように、その谷の一番底の〈点〉を狙わないといけないのだ。
ゆえに〈極点〉、むしろ戦空にはこの攻撃手段しかない。
ドクン! と空気圧が圧縮し。
ゴクン! と空気圧が圧縮し。
ガクン! と空気圧が圧縮された。
まだまだ行く――。
「ボオオオオオオ!?」
ヤバイと思ったのだろう大山羊は、手を伸ばして攻撃してきた。永遠に疲れないエネルギーを消費しながら、永遠に疲れない体をもって。永遠に攻撃してくる。
かに思えた。
「待っていたよ……使わせてもらうわ。小手先の技! 闇魔法〈無限ループ攻撃〉!!」
「ボオオ!?!?」
バリアによって大山羊の攻撃は防がれた。
「このバリアは、自分の攻撃エネルギーを2倍にして相手に跳ね返す! 倍返しだ!!」
「ボオオオオ!?!?」
「まだバトルは終わってない! 相手は体力エネルギーが尽きるまで! 強制的に攻撃し続けねばならない! あんたの場合、体力エネルギーは無限! つまり永遠に攻撃し続ければならない!! 無限ループよ!!」
「ボオオオオオ!?!?」
ガトリングガンのような連打がバリアに当たり、続ける。
ドンドンドンドン!!!! とまるで百裂拳をし続けている。
永遠に、永遠に……。
「ゼイ! ゼイ! ゼイ……!」
大山羊の呼吸が荒くなった、深呼吸が見て取れる。呼吸の『山と谷』が見て取れる。
「今よ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「大山羊! あんたの敗因はただ一つ! 私達の未来を! 信じなかったことよ!!」
「〈極・点〉!!!!」
針を通すような点から線が大山羊を貫き。そして……。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
遠雷の魔神も避けて通る、極上の正拳が場を支配した。
シュウウウウウウ……。
《電車型の大山羊『ネオ・ゴーストドライブ』は倒されました、第4層への扉が開きます》
「か、勝った……。」
「勝ったぞ――――!!!!」
「やったあああああ!!!!」
「ついに! この第3層を抜けられる!」
「やっべ! 泣きそう!」
「待って、泣く!」
ヤエザキが攻略組の労力を労う。察して、労う。
「皆さん、お疲れ。今日、この時。この場所を持って、【概念系の第3階層】の完璧クリアを。ここに宣言します!」
「や……!」
『やったあああああああ!!!!』
戦空は、この時。どれだけの人々が、この概念系を攻略したかったかを知らない。でもその内説明されるだろう。
いつかまた、このマスター承認試験組の中で。
そして、1つの文字だけがステータス画面に浮かび上がるのだった。
誰もが待ち望んだ、その文字を。
《ゲームクリア!》




