第246話「攻略組と東京駅~新宿駅」
まず、東京駅で第1のスタンプを押して。順調に品川駅まで到着した。
次に品川駅で第2のスタンプを押し、順調に新宿駅行きに乗り続けた。
本当に機関車にのって外を眺めるだけなので、特にやることも無いので。最近出始めた新しい単語。『全クリ攻略組』についてヤエザキと戦空は話をする。
『全クリ攻略組』
従来の『攻略組』や『最前線攻略組』とは一線を超える存在。むしろ上位互換。
その特性は、マップの100%完成や。図鑑のコンプリート。ヒロインの完全攻略。雑学・小ネタ・はたまた舞台裏まで。野生モンスターを狩って、肉どころか骨までしゃぶりつき、コツコツ煮込んでとんこつラーメンを作ってしまうぐらいに余すところなく、残さずネタを平らげる存在。
そこには明確な線引きがある。まず、彼らは考察班でもあり行動班でもあるだけでは飽き足らず。設定のまとめを非公式で勝手にやる。どころかそのネタを立派に育てて立派な本にしてしまうぐらいには凄い。
ある運営は「誰がそこまでやれと言った!?」とか「公式、そこまで考えてないと思うよ……」とか。運営陣の中ではよく言われる。
その、あまりの「運営よりも仕事してるんじゃね?」な活動内容は多岐にわたる。……というか考うる全部をやってしまう、ぐらいのゲーマー。
ゲームマスターがその昔。「賭けるものは人生だ」と言ったのを本当に本気にし、本当に人生を賭けてしまったりする。
確認できる範囲でなら、約7年前のゲームが100%コンプリート出来ずにいるし。運営も投げちゃってるのに。数少ない情報から、考察・検証とかやっちゃう人。
しかも無償で。近年では「仕事だから」という側面もあるが。元は無償で考察してたが、学生を卒業し社会人になってしまったから。結果的に仕事として『全クリ攻略組』として意見を交わし。生活するために? 商品にして売買をする。
もちろん、本物を売るわけではなく。あくまで偽書として売って形成を立てている。本当プレイヤーの鏡である。
まさに人生を賭けた攻略組ガチ勢。
そんな『全クリ攻略組』に朗報が入ってきたわけだ。ゲームマスターが放置していた浮遊城が今回アップデートと言う名の手を入れ始めた。ゲームマスターは『全クリ攻略組』影響・感化させられたのである。
よって、第1層から第6層。第27層、第75層、第91層以外の情報が空白だったのにも関わらず。ゲームマスターが本腰を入れて来た。まさに水を得た魚。約7年の歳月を経てようやく『全クリ攻略組』は歓喜する羽目になる。
目標は勿論、浮遊城第1層から第100層を余すことなく遊びつくすことを目的としている。したがって、ショートカットな道があったとしてもそれをするつもりは毛頭ない。
彼らは浮遊城第100層まで、どころか。ワールドマップ全体の完成、はたまた神道社が作った全てのゲームソフトの攻略。などをするまで遊びつくし、知りたがるだろう。
『攻略組』は本編クリアを目標とし。
『最前線攻略組』はまだ知らぬ未踏の地を探索し。
『全クリ攻略組』は文字通り全てをコンプリートするまで諦めない。
運営と全クリ攻略組とのイタチごっこは終わらない。エンドコンテンツ、1つのエンディングだけで終わることを想定してたのに。全キャラのエンディングを観ないと気が済まない様な。
運営は「そこまで用意してないよ!?」と悲鳴の声が上がる中、ゲームクリアするためなら重課金とか平気でやっちゃったりする人もいる。
以上の事から『全クリ攻略組』は、『攻略組』の完全上位互換である。
ガタンゴトン、ガタンゴトン……!
「……、……」
『隣の芝生は青く見えるものだ、気にするな』
「まあ、そうなんだけど……。集中力だけは持っていかれないようにするわ」
まずはメタな会話をすることから抜け出さないといけないな、と思ったヤエザキ。マゼンタは『これも試練の内だ』と論する。
《間もなく~新宿駅~♪》
ガタンゴトン、ガタンゴトン……キキキイ! と機関車が線路の途中で止まった。
「ピピピーピピピン!!」
▼電車型の大山羊『ネオ・ゴースト』が現れました!
▼電車型の大山羊は、今ある全ての持ち物をお見通しだ。
全クリ攻略組が叫びだす。
「おいちょっと待て!? こいつ正規版のフロアボスだろ!?」
「俺達の持ってる装備は対策されるってことか!?」
「てことは! 生身の筋力ステータスで!」
「バカやろう! よく観ろ! 相手ゴーストタイプだぞ!? 実体ねえよ!!」
ここは驚くところなはずなのに、のんのんびよりしていたら。ヤエザキは、イマジネーションが現実と共鳴して強化されたモンスターを観ているのに。どこか上の空でスロースタートする。
「ぼお~~~~……」
戦空が肉弾戦で「だりゃりゃりゃりゃ!!」と〈多段撃〉を放つが全部。
▼効果が無いようだ……。
で、終わってしまう。
全クリ攻略組が叫びだす。
「ゴーストタイプに効くのはゴーストかあくタイプだ!」
「だけどシステムを超越した〈何か〉も効くはずだぞ!」
「何かって何だよ!?」
ヤエザキはというと。
(どうせ自分が何とかしなくても誰かが何とかしてくれるでしょ……私より優秀な人たくさんいるし……)
と、やる気が脱力して呆けてしまっていた。
「「「ヤエザキー!?」」」
大山羊の巨大な剛腕が蒸気機関車を襲う。
「ぼ~……。へ?」
▼全滅しました、東京駅からやり直しになります。
プレイヤーは手厚く助けてくれたのに、ゲームシステムの方は甘くはなかった。
「戦空は勇敢に戦ってくれたのに……」
「ヤエザキは怠けてただけだった……」
「いくらエンジョイ勢だからって……」
ヤエザキの絶好調な油断は、ヤエザキ派。数にして4分の1。味方が離れてゆく結果となってしまった。
ここに来てヤエザキは鈍く、肌で感じてくる。「あれ、……これやばい……?」と……。2つの意味で危機感を感じた。




