第27話「地図」
「畜生こうなったら破れかぶれだ!お前らをぶっ飛ばして俺がこの王国を支配してやる」
火に油を注ぐような説得もむなしくそれこそRPGらしい戦いの動機付けのような前ふりをを終了して戦闘へとなだれ込む。
「ぐわあ」
今度は王様の声とは違いケンチャの部下が情けない声と言う名の悲鳴を上げながら、王宮から撤退した、全く持って雑魚敵と言わんばかりの戦闘っぷりだった。
「他愛もないな」
「二度と悪さをするんじゃないよ!」
サキとエンペラーは軽く剣と銃を振り勝利セリフを口にする、ゲーム特有のファンファーレが鳴り経験値とゴールドと特にこれと言って珍しくないアイテムが手に入る。
「うっし! 悪いやつをやっつけた!」
ヒルドも勝利セリフを言い放ち、こちらも満面の笑みである。
「ひっひィいい~!」
ケンチャの部下達は背を向けつつ逃走する、全く持って情けない姿であるが、命があるだけましだと思い王宮を後にした。
「お父さん! お母さん! 大丈夫ですか!」
涙目になりながらそう言うフェイはどこか儚げで愛らしかったが今はそれどころではない、父と母のロープを解き、家族そろっての再開を分かち合った。サキとエンペラーはフェイとヒルドから離れた所でヒソヒソ話をする。
「これで一安心だね」
「まだ終わってない、フェイの死んだ理由がわからないしこのクエストがこんな簡単に終わるとは思えない」
フェイとヒルドの物語は一旦終わりを告げ国に平和が訪れた、だがこれで終わるはずがない。終わって欲しいと言う思いはあるものの何かを見落としていると言う感覚だけが拭えなかった。
4人は大きなテーブルの上でディナーを食べている、ケンチャの部下を退治してくれた事により王様からごちそうを振る舞われたのだ。王様と王女様は一通り話を終え。あとはフェイと仲良くしてやってほしいと告げると早々にテーブルから立ち去ってくれたのである。あらかたご飯は食べ終わり、お腹も満腹になった所でフェイはプレゼントを渡す。
「こちらが惑星アナクシマンドロスの地図になります、どうぞ受け取って下さい」
フェイからお礼と言う事で地図をもらった、そういえばサキはこの世界に来てからというもの一度も地図を見ていなかった。普通のゲームだったら冒険の最初に目にするはずの地図であるが、まさかこの段階にきて地図を目にするとは思わなかった。
(これってゲームの序盤で手に入るものだよね…だとしたらあの一ヵ月は序盤にも入ってなかったのだろうか? だとしたらショックだ…)
自分の認識とゲームの常識のズレに違和感を覚えるサキ、だが地図はこの段階で受け取ることが出来た、ならそれならそれでよしと思わないと損である。サキとエンペラーは地図を互いに見る、だがそれは普通の地図とは少し違った地図だった。
「何これ? 宇宙? ってか海が丸いんですけど…」
「これは……」
地図は、外側に宇宙、その外円に海、続いて内円に陸となっている、大きく分けると海が円の形、陸も円の形、そしてその中心に日本人の咲と遊歩にとってはなじみ深い日本の地形がちょんと飾り程度に乗っているだけだった。人口AIであるフェイはすぐさま反応によるパターンを分析し(本人は分析してるとも思っていない)答えを導き出す。
「あ、あなた達ってもしかして惑星アナクシマンドロスの住人じゃないの?冒険者って色々居るからわからないのよね~」
サキはわけもわからないような反応を取った、ついでに関係ない事を思いだした。
(あ、そういえば私モンスター図鑑コンプリートを目指してたんだった。……そういややってないな~……。まーいっか)
などと短絡的な事考えつつ3人は会話を続ける。ヒルドは食事に舌鼓をしているようだった。咲はフェイの話に合わせて会話をする。
「あーまーうんそうなのよ、私たちは地球って星の住民で地球は丸いって教わったからさー」
咲は当たり前のことを当たり前のように言う、そもそも地図に宇宙なんて書かない、そもそも宇宙に都市は無いからだ。
「そうですね……色々ツッコミどころがありますが……とりあえずこの雲の王国ピュリアが今いる場所なんですね」
始まりの街ルミネと雲の王国ピュリアの現在位置を確認するだけで事足りると思ったエンペラーはピュリアの位置を確認するためにそう尋ねた。
「うん、そうだよ~。基本的にこの辺りに浮いてるだけでどこかに移動とかはしないよ。古い操縦室なんかはあるけど」
フェイは軽く告げるとサキはそれに面白いように食いつく。
「え! 操縦室があるの? ってことは未来の飛空艇やらになったりして!」
ゲーム脳のサキはすぐさまゲームの終盤で手に入る世界を行き来する自分達専用の飛行機、飛空艇を思い浮かべた。確かに国が一つ空の上に浮いていてそれが自分たちの行きたい所に連れてってくれるとなれば冒険者ならかなりワクワクするだろう。フェイは渋った顔をして申し訳なさそうにサキに告げる。
「申し訳ないけど操縦席は確かにあるけど運転手も船を動かす鍵も無いんだよね」
浮いているだけでも奇跡の国、自給自足が出来るほど広大な土地はあるので交易は不要だが始まりの街ルミネとの交流も多少なりともあると言われた。その交易を放棄してまだ見ぬ新しい街に行くのは困難と言う事なのだろう。
「う~残念!ってことはこれからの旅はやっぱり歩いていくことになるのかな…!」
「いや……それはやめておいた方が良い」
エンペラーがサキにそう諭す。
「この地図、距離が書いてないけどこの神々の国ジパングは日本と同じほどの領土と考えた方が良いだろう。ということは北海道から沖縄まで歩いて111日かかる。って…昔ネットで調べた」
唖然とするサキこの小さな神々の国ジパングと描いてある所だけで端から端まで111日かかるらしい。そう考えるとこの惑星アナクシマンドロスと言う所は相当でかい。地球の世界地図と同じくらいの大きさなのだろう。エンペラーは続ける。
「三つの大陸、エウローパ、アシアー、リュビアーはほぼ同じくらいの大きさだ、それで日本がこの小ささならロシアやアメリカ大陸が三つあると考えた方がわかり易いだろう」
「う……てことは目測だけど。時計回りに江戸都市京都に行くにはジパングの3倍…333日。反時計回りだと宇宙都市タートルかな?とりあえず宇宙にあるのは置いといて、目測でジパングの4倍……444日かかると……」
少しこの無理ゲーの片鱗を垣間見たような気がした、というかこのゲームにそこまでの容量がある事に驚きだ。エンペラーは更に続ける。
「仮に一個目のスタンプ、を押したとしても。その後次の街へ行くまでに最短で333日かかることになる乗り物が無ければ不可能だ」
(というかまだ一個もスタンプ取ってないけど)
6個のスタンプ中一個もスタンプを押してない事にほんのちょっぴり絶望するエンペラーであった、そして思う。
「そういえばスタンプはどこにあるんだ?」
はっとサキも思う、スタンプがあれば次の街へ出発することは出来るのだ。別にボスキャラが現れてそいつが持ってるかもしれない。と言う事も無きにしも非ずだがとにかく聞いてみないと始まらない。
「あのうフェイさん、スタンプってどこにあるのか知りません?」
どうか知ってますようにと言う淡い期待を打ち消すかのようにフェイはあるがままに知ってる事を話す、いや言う。
「スタンプ? 何のことです?」
全く存ぜぬと言う回答だった。
「スタンプは知りませんけどこのピュリアで祭っているモンスター、フェニックスの事ならお話できますよ」
唐突なフェニックスと言う単語、姉と一緒にモンスター図鑑を完成させようと誓ったサキにとっては大事な事だが。スタンプを集めゲームを攻略しようとしているエンペラーにとってはどうでもいい事だった。いや、何がゲームのキーになるかわからない以上話は一応聞いといた方が良いが、その内容がスタンプに直結するとは思えなかった。悩むサキとエンペラーだったが情報不足は今に始まったことではないし二人は顔を見合わせ相談する。
「どうする」
「何がスタンプに、ゲームクリアに直結するかわからない。聞くだけ聞いてみよう」
◆
ある時フェニックスが居ました、フェニックスはこの雲の王国ピュリアの守り神です。所が、神によって作られた、地上に住む中で最も巨大な怪物。ベヒモスが現れました。ベヒモスは食料の匂いにつられてピュリアまでやって来たのです。浮いていてもなおその高さに届きそうなほど巨大なベヒモスは国を襲おうとします、その時です。
フェニックスがベヒモスの行動を止めようとします、村人たちはそのあまりに巨大な二つの存在に逃げ惑うほかありません。やがてフェニックスは大きな谷、落ちては二度と戻ってこれないと言われる大きな〈死の谷〉と言う所にベヒモスと一緒に落ちました、しかし。フェニックスは飛べるのでその谷から脱出することに成功しました。こうして死の谷にベヒモスは落とされ、フェニックスは空に帰っていきましたとさ。めでたしめでたし。
◆
フェイの話を聞き終わりなるほどとうなずくサキとスタンプとは関係なさそうだなと思うエンペラー。
「なるほど、だから街のあちこちにフェニックスの像があるんだね」
サキは街のあちこちにあったフェニックスの像を思い出していた。
「スタンプはフェニックスがドロップするのかな?いやベヒモスか?あるいは死の谷か…」
ゲーム脳的に考えを巡らすエンペラー。
「えー死の谷行くのやだー!」
早速反発するサキ、エンペラーはどうどうっと馬でもなだめるかのように冷静に対処する。
「あくまで可能性の話だ」
自分達の守り神であるフェニックスの話をし終わり、きょとんと突っ立っているフェイ。ヒルドは相変わらず話に参加せず料理をバクバク食べている。 サキとエンペラーは地図をもらい
「とりあえず当面の目標が出来たな。まずスタンプを探す、次に乗り物、だ」
「うん」
そこはサキもうなずくそして二人とも思う。




