第243話「一撃1000万ファン」
ハイファンタジー・オンライン、運営管理室。
歴史上の時代や年代を紐解けば、過去の教訓から今に繋がり学んでいくことが出来る。ゲームマスター、ヒメとシアンは話を続ける。
「桃花がゲームクリアしたのいつだっけ? シアン」
『シナリオ的には1週間の出来事で、具体的な年代は記載されていない。【いつかの未来としか】だが【メタ世界では2010年11月18日としっかり明記されている】もっとも。それで行くと今回も同様の事が言えるが……』
それを聞いて、同じ失敗を繰り返さない。までも【その歴史から学びたい】と思っているヒメはこう続ける。
「この浮遊城シナリオは何年のだ? 【上書きする】」
『リアルタイムだと2010年12月10日、シナリオ的には〈〇銃〉の頃だ』
「その4ヶ月後に〈マザ〇ズ・ロザリオ〉か……クッ!」
そこにはもう、後悔と残念と悔しさしか無かった。もっとも、この歴史を通らなければ。今のヒメも無いわけなのだが……。
『君たちの為にやったのにそれは無いだろう』
「わかってるよ。いや、今わかった。少なくともシアンがこのフラクトライトキューブに成ることは、【約7年前から決まってた】ということがな」
前情報でアリス編は7年前から聞いていた。関係者から、これは紛れもない真実だ。だから巡り巡って、またヒメのような状況がこの先7年後に起こることも考えられる。
「例えば『無職転生』とかな、知らんけど……」
今歴史が分かったからと言って、過去の化石を現代で知るようなものだ。だから、ヒメが今出来ることは。
「グダグダ言ったが、結局は今を懸命に生きるしかないということか……」
『君はただ、同じバナナを同じ場所で二回踏まなければ良い』
「何だよその例えはw まあわかったよ」
言って、ゲームマスターヒメはゲーム内のシステムを上書きする。
「未来を創るために戦わせてもらうぞヤエザキ! 相手は【現代最強の数字使い】だ!!」
『知能の低いモンスターではないんだな』
「わたしはテ〇ルズが好きなんだよ、本ボスは生身が良い」
《ボスモンスター、『数字絶対主義者のアイン』。そのソウルを起動します……。》
現代最強が動き出す。
◆
第2層 マネーゲーム フロアボス部屋。
最前線攻略組が、今度は30人ぐらい集まっていた。皆、マスター承認試験の二人組を待っていたのだ。
「お、来たかヤエザキ。ちょうど会ったな」
そこにボス部屋前に居たのは戦空だった。なぜか自然とキョトンとするヤエザキだが。
「……ふふ、やっぱりあんたは前に居るほうがしっくりくるわね」
「ん? 何のことだ?」
「いや……なんでもないわよ。んじゃ、ボス戦行きましょ」
「おう!」
そして、ステータスのポップアップが浮かび上がる。
《この戦闘はマスター承認試験用の難易度です》
《※注意※ この戦闘では一撃1000万ファンを消費します、消費したらそのファンは帰って来ません。それでも戦闘を開始しますか?》
「てことは、私は31回しか殴れないって事か……」
攻略組が威勢よく言う。
「なあに! 俺らが居るんだ! 問題ないぜ!」
「でも気をつけろ、ベータテストの時とも。正規版とも違う。マスター承認試験用のボス戦に切り替わってる」
「前情報だが、このボス戦。一撃でHP1しか食らわないぞ!」
戦空は「ごたくはイイ! ポチイ!」と《はい》のボタンを押した。
「前準備ぐらいさせろ!」
「まあ、お前と一緒に居たらそうなるわなあ」
と、皆さん慣れたご様子。ヤエザキはあんまり会ってないので慣れていない。
ギイイイイイ……!
「待ってたよ【2人とも】、さあ。お前たちがあのバケモノ達と渡り合えるかどうか。今度こそ! 本当に! 試してやる! はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ゴウン! と衝撃波が迸る! 他の攻略組は眼中に無いご様子。
アイン HP150
3・2・1・ピー! と戦闘開始音が鳴り響く。
《数字絶対主義アイン、戦闘を開始します!》
「てことは、この1戦で15億ファンのお金が飛ぶわけか……!」
ヤエザキのお金の計算だけは速かった。
「こういう敵には数撃てば当たるんだ! 銃撃隊撃てー!」
ズドドドドド!!!!
一発1000万ファンの弾丸が毎分900発飛ぶ自動機関銃が唸りを上げる。値段にして毎分90億ファンが飛ぶ。
チュン! カン! コン! キン!
当たったり外したりかすったりしながらアインのHPは120まで削れた、次はアインのターン。持ってるブーメランを飛ばしてくる。飛ばしたブーメランは分身し50枚の壁となって立ちふさがる。
「回避! 回避ー!」
だが、健闘虚しく30人居たプレイヤー中5人はチリと消えた。
そこで戦空とヤエザキが前へでる。
「せいやあー!」
「でいやー!」
2人の連続攻撃でHPを90まで削れた。戦空が20撃、ヤエザキは10撃。現在の所持金2億1440万ファン。
(あと21回しか攻撃できない、確実に当てなきゃ!)
対する戦空は今ので所持金6億4000万ファン。あと64回攻撃できる、が接近戦の分。当たったり外れたりする。
この2人、次なんて考えてない。この一戦だけでケリをつけるつもりだ。だが、二人合わせても85回しか攻撃できない。残り35回、3億5000万ファン分は何とかして攻略組が減らしてくれないと計算が合わない。
「撃てウテウテウテー!!」
弾丸が高速で飛ぶ、腕の良い攻略組はこの瞬間だけで一気にHPを45減らしてくれた。4億5000万ファンが消費されて、攻略組の仕事は終わった。
アインのHPは残り45。マスター2人組は85回。射程範囲に入った。
「何をしてやりましょうか? 私が100人増える? ブーメランが100個増える? はたまた攻撃力を10億まで増やす?」
と余裕をこいているアインに対して、戦空は10発打撃を与えた。
「な!?」
「お前には何もさせねえ!!」
残りHP35。
「はぁあー! 〈森羅万象のワルツ2〉!」
8連続8属性攻撃が唸りを上げる。4連撃食らって、もう4連撃は防がれた。
ヤエザキの残り所持金、1億3440万ファン。アインのHP31。
「ク! さすが……!?」
「〈森羅万象のワルツ2〉!」
再びヤエザキは全撃叩き込む。今度は8連撃クリーンヒット。
《1億3000万ファン消費しました、これ以上攻撃できません。》
アインのHP23
ヤエザキ所持金440万ファン。
戦空の所持金2億2000万ファン。
あと一撃分のファンが足りない。
「多連撃!」
22連撃が宙を舞う。
《2億2000万ファン消費しました、これ以上攻撃できません。》
「く! この私が! 何も出来ずに……!?」
攻略組の長は銃を構える。
「悪いなお二人さん、ラストアタックは頂くぜ!」
「バカな! こんな簡単に……!」
タアーン!
アインHP0。
「てめえは俺らを舐めすぎだ」
ピー!
《第2層 マネーゲーム フロアボス戦 クリアしました。》
「なら……行ってみるがいい。バケモノ達の巣窟に……!」
ボスキャラクターアインは、ポリゴン片となって消えていった……。
「勝った……」
「おう! やったな!」
ヤエザキと戦空は第2層を突破した。




