第241話「相場レート」
「あぁ、何も知らない。……真っ白な世界へ行きたい……」
フラクトライトキューブのコピー……ではなく【オリジン】から声がする。
『もう飽きたのか、速いな』
「速くない、普通だ。むしろ頑張ったほうだと思う……」
神道社社長の、のじゃロリ。天上院咲の姉、天上院姫は現在。自身の2人部屋で2人そろって寝っ転がっている。妹はVR機を起動して夢の中。もう片方は何もせずに、文字通り天井を見つめている。
ベットの上で寝っ転がり、見た目は怠惰に過ごしている。そう、見た目だけは……。
フラクトライトキューブは現実でも仮想でも、この姉妹と対話をしてくれるナビ役として。大いに活躍してくれている。
「ところでお前の名前は何て言えば良い? 【かやば】」
『シアンでいい、だがさらっとメタで呼ばないでくれないかね? 姫君』
「……、ふん。そっかーシアンか、うん。そっか~……」
本人疲れている、実際疲れているのであろう。ツッコミをする気力もない。色々なことが起こった、起き過ぎた……。【大本命は変わってない】と解っていても、疲れるものは疲れるのだ……。
『疲れているなら、休めばいい』
「休めるものか……。今この時だって、私以上の天才が、この世界を全力で。私の作った世界を攻略しようとしている……。放置したはずのアノ城で、何年も、何年も、諦めずに挑む。……【あんなもの】みせられて黙ってられるはずないだろう」
あんなものをきちんと説明するのは、それこそ野暮なので説明はせず。2人だけの秘密である。
『それは執念か? 信念か? ……それとも憧れか?』
「……憧れだな、ラスボス。……今風に言えば、悪役令嬢がこんなザマじゃ、みっともない……」
地に枕、空に天井をみつめて。少女は独りごとを言う……。
「ポチっと設定を変えれば。最上階なんてすぐなんだよ……、でもそれじゃあ【筋が通らない】……まいったな」
『義理と人情の世界と言う事か……』
「……そんなもんだよ」
『いつもツンツンしてるキミが、しおらしくなってるのは珍しいな』
「言葉攻めの攻略じゃなく、単純に寝てないから疲れてるだけだけどな」
『これはこれは、失敬』
「すう~……、はぁ~……」
深い深い深呼吸が、場を温める……。
『……ロマンを永遠に求めるのも結構だが、落としどころはキミが決めろ。君にしか、その決定権は与えられていない』
「第100層の真のオチ、か……」
『それを決めない限り、彼らは永遠にあの城の中だ。それこそ無責任だろう?』
「そうだな、そうして初めて。皆が、プロフェッショナルが手を動かす原動力になる。皆を照らす光になってくれる」
『やれやれ、ラスボスも楽ではないな』
「あぁ、ホントにな。こんなはずじゃなかったんだけどなあ……、もっと楽な仕事だと思ってたよ。ラスボスって……」
『それに関しては同意だよ』
「ふふ……。んじゃ、寝る、おやすみシアン」
『ああ、お休み』
少女は布団の中で、ただただ眠る。ハッピーエンドを待ち望んで眠るのでもなく。バットエンドを避けるために寝るのでもなく。ただただ今を懸命に生きた報酬として、ただただ眠った……。
◆
カチチチチ……。
《平均相場レート 1ウォーン金貨:15ペルス銀貨:60ジング銅貨:1400人民元:20000ドル:20000円:40000A1ファン》
「やっぱ金貨で世界は動いてるってのは全国共通なのね……」
『「黄金の夢」ってのもあるかもしれないが。桃花の世界観も「金髪・金眼」など、色的にも物語的にも重要なファクターを持つ。中心価格に持ってくっるのはやっぱりココっきゃないだろう。第50層チケットを中心価格に持ってくるのはあまりに危険だ』
「ふうむ、まあ仮想通貨。電子通貨が安いのは仕方ないですけど、まだ何とかなりそうですね」
『あぁ』
「ふうむ、でも今の状態でも120万A1ファンは【日本円で60万円】ですか……」
『それを高いとみるか、安いと観るかはお前しだいだな』
「ちょっと高いかな……。現実のセミプロのお給料が月8万円で、実質自由に使えるお金は3万円。今、3万円課金したら6万A1ファンになる。……いくら仮想通貨だとしても高すぎますA1ファン」
『ゲームだからか?』
「はい、ゲームだから。しかもデスゲームじゃなくログアウト可能なゲームでですよ? 今は倍率2倍ですが、4倍でも良いはずです」
『愛の値段が下がっても?』
「と言っても、アノチケットはその気になれば。桃花さんが発行すれば無限に出てきますから、出せば出すほど価格は下がるはずです。本人も今、変金したら現金60万円なんて望んでないと思います」
『ふむ』
「なのでここは、円の2倍じゃなく。円の4倍です!」
カチチチチ……。
《平均相場レート 1ウォーン金貨:15ペルス銀貨:60ジング銅貨:1400人民元:20000ドル:20000円:80000A1ファン》
これで今。ヤエザキの120万A1ファンは、現実世界の【日本円で30万円】になった。
「これくらいなら、まあ」
『でもお前……、【チケットあと12枚】持ってるよな?』
「……そ! そこは今は言わないから価値が高いって事にしましょう! ……あとは、金貨・銀貨・銅貨がよくわかりませんね。昔より加工技術は優れてるから。中世通貨<現代通貨になるはずなんですけど……」
『だな、まあそのうち変わるだろ』
カチチチチ……。ズドン!
「?」
《ウォーン金貨、ペルス銀貨、ジング銅貨、人民元、ドルが死にました。残ったのは。物々交換と、月々1500円の利用料のみです》
「……私のログには何にもないな……(白目」
『よくみろ、ログは残ってる』
「……、ファンって言う通貨は生きてるの?」
『NPCのみに通用する金になったな』
「て、てことは。120万ファンはギリギリ紙クズになることは避けられたのね……(白目」
『ああ、避けられたな』
「よ、よかった。一瞬、チケットも、見つめる眼も、桃花さんの愛も、120万ファンも。0円の紙クズになったと想像してしまったわ……」
『そうだな。この世界は一応守られたよ、想像するだけならタダだ』
「ふーやっぱ数字はおっかないわね」
『だがここのボス戦は1億ファン無いとダメってルールだ。今後は中世ヨーロッパのNPCの世界で1億ファンを稼ぐしかないな』
「そうよね、まだゲームは続行可能! やるわよ!」
『ああ、まだ何もやってないけどな。観てただけで』
「ぐふ!」
ヤエザキとマゼンタのマネーゲーム漫才は、まだ始まったばかりだ。




