第239日「マスター承認試験」
(この世界は、どうやら私の手のひらで操れるらしい。)
(そう自覚してから何ヶ月が経っただろうか?)
現実世界。西暦2035年4月25日、放課後。
仮想世界。ハイファンタジー・オンライン、プレイヤー街。
ちなみにゲーム内時間は等倍なのでこちらも放課後である。
天上院姫は憂鬱としていた。
そこでは4人組の女子がコラボクロスオーバーと称して、ステージの上で見事な音楽と踊りを披露していた。本当に見事な、カルテットにプレイヤーやNPCも拍手喝采。本当に凄かった。そんな中、自分が作った凄い公園で。凄い歌と踊りを披露されて。作家としてはフィールドを作った自分としては最高なのだが。その予想の最高を超えられしまった事への。嫉妬心と言うよりも何だか「やったぜ……」という脱力感の方が多かった。
「居るだけでエンターテイメントとはこういうものなのか……」
「あ! お姉ちゃんが居た!」
そこに、天上院咲が冒険の合間。偶然にも通りかかった。
「どうしたの? 凄く楽しそうなステージを観ながら落ち込んでるみたいだけど」
「ん~? ……、そうだな。もう管理しきれないのどうしよっかな~とおもってな」
「んん?」
そうして自分の手のひらを見つめる。
「この世界は、どうやら私の手のひらで操れる。そう自覚してからはや数ヶ月……。理想は真実になり。夢はものの数日で叶い。種は木になり、知らんうちに森になっていた。そんな感じじゃ。もう手入れが追いつかない」
「……、それって【一人では手入れが出来ない】ってことでしょ?」
「まあ自然放置も楽で良い感じなんじゃが……。核の部分だけでもなんとか制御できないかな? と思ったがそれも中々に難しい。まあ話し相手が居る分にはいいんじゃが」
「それって……実感がないってこと?」
「そうかな。アイスクリーム欲しい、て言ったら次の瞬間には手に入ってる。子供って、手に入らないものは手に入らないし。私から見たらお前のその手に入れた120万ファンだって、その実。無制限操作可能じゃ、それじゃつまんないじゃろ?」
「運営なんだからそこを愚痴っても……」
と苦笑をする妹をよそ眼に、憂鬱になる姉。
「楽しめばいいのに」
「感覚がマヒした、いやいい事なんじゃが」
「う~ん。嬉しい悲鳴ってことななのかな?」
「そうとも言う」
「ん~……考えすぎじゃない?」
「ん~そうかもな。誰かが全てを制御しなきゃならない。じゃなくて、あまりにも酷かったらそこだけ叩く。それでいいかな」
「結構みんな、この世界を楽しんでるし。それでいいと思うよ。何も毎日演奏を指揮しなきゃいけない。てわけでもないだろうし」
「ん~よし! じゃあしばらくの間、もう一度。自然放置してみる! ありがとな、相談にのってくれて」
「何言ってるの、姉妹じゃない」
「ふふ、それもそうか」
そう言ってから、ステータスバーが表示され。天上院姫は、『自然放置する、探さないでください。ナンバー2任せた』と運営に送った。
「ふふ、さて咲。今日はどんな冒険をする?」
▼ヒメがヤエザキのパーティーに加わりました!
◆
天上院姫が天上院咲に、意を決して言う。
「さて、んじゃやるぞ~。リスクも呼ぶからな」
「ん? 何をやるの?」
「決まってる、お前ら2人にしか出来ないことじゃよ」
ギルド中央広場、ギルド屋前。
何やら、プレイヤー第2層攻略組と第3層攻略組で華々しい喧嘩、と言う名のイザコザをやっていたのだが。素知らぬ顔で無視する。
「何があったんだろう?」
「どうせ、くだらないことだ。あいつらの気持ちにも免じて、さっさと進もう」
「?」
ギルド屋内、受付。
ギルド受付嬢の湘南桃花は「よ! 待ってたよー」と軽く大らかに言う。
そして、ちょっと前に戦った四重奏。リスクが変わらず、そこに立って居た。流石に事の重要性をよくわかっていないけど。場の空気は読めるので、真剣に、無言で立つ。
「……」
ここに。ヤエザキ、ヒメ、湘南桃花、リスクの四名が集まった。桃花が続ける。
「さてと。今回のはクエストじゃないよ~。【マスター承認試験】さ」
「……? マスターって何ですか?」
ヤエザキは当然そうなる。
「簡単に言うと、『最強の称号』ってことで理解してくれなのじゃ」
「はぁ……」
受付嬢桃花は続ける。と、その時「ちょっといいか?」とリスクは横槍を入れる。
「うち、プレイヤーネーム変えたいんだ! 戦空に! いいか!?」
本題に話が進まないのでそれを「いいよ~」と了承する桃花とヒメ。
桃花が「こほん……」と少し咳払いしてから。本題にもう少し補足する。いわゆる前振りだ。
「この試験は。過去から今までの功績が。私、ゲームマスター桃花とゲームマスターヒメに認められたから発生する試練です。では、ゲームマスターヒメちゃん、本題をどうぞ」
これまた「コホン」と、咳払いしてから。このギルド中央広場に居るプレイヤー達、だけではない。
チャット、ログ、テレビ、ラジオ、ネット、念話。あらゆる通信媒体からこの『声』が聞こえてくる。
【これより、ヤエザキと戦空がマスター承認試験へ挑む! 条件は一つ! 浮遊城ダンジョン『スターバーストストリーム』第100層をクリアすること! どちらか1人にしかマスターの称号は得られない! これは第100層の、即ち『全クリ』への達成条件である!!】
「「……」」
全世界が息を飲む。
【これらの情報によって何をするかはプレイヤー達の判断に任せる! どちらかの勢力につくもよし! 傍観するもよし! だが、今の今までお前たちが冒険に出て来たのはこのためだと言っても過言ではない! プレイヤーの血と汗と涙の結晶、そして真に理解したゲームマスターのお前たちへの挑戦状でもある! 真の支配者! 真の王を決める戦いを! お前たちの名を刻みこめ!! 二人の勇者は並び立たない!! 真のマスターを! 真のエレメンタルマスターを決める戦いが! 今こそ始まる!】
「「……」」
全世界が息を飲む。
【ゲームマスターヒメが! 正々堂々ともってここに宣誓する!】
そして、決定的な一打が刻まれる。
【開戦である!!!!】
会場のプレイヤー達、それ以外の人々も。その意味を理解した。【本当の祭りがこれから始まる】と……。
その熱意が、わけもわからないヤエザキにも大体理解し電波する。ヒメは小さく言う。
「やるな、ふたりとも」
もはや言葉は不要だった。その返事に迷いはない。
「うん!」
「ああ!」
【うん! ではこれより! マスター承認試験を開始する!!】
あとはもう、プレイヤー達の心にその声が響くほかなかった。




