第234話「難易度Bクエスト2」
現実世界。神道社。
ビルの屋上から。空を見上げる天上院姫は、休息の合間に呟く。
「形は見えた。視認も出来た……、そして。言葉が観えた」
一拍間を置き。――風が来る。
「こっからが本当の勝負じゃぞ……、空!」
◆
仮想世界。ハイファンタジー・オンライン。ギルド冒険者広場の前。
ギルドの広場から出るときに、ギルド『四重奏』とすれ違った。
四重奏は攻略組ガチ勢に再度合流したようだ。詳細はよくわからないが、ヤエザキはスズに胸をコツかれて。笑顔で何も言わずその場を去って行った。
彼らは彼らの道を行く、いつかまた交わる時が来るだろう。そう遠くない未来に……。
「私も私の道を行こう」
そう気を改めた。
◆
《クエスト名:NPCの霊魂の行方を追え!》
《難易度:B》
《条件:冥界の霊魂のいく末を見送り、現世へ辿り着かせる。》
《目的地:彼岸花の冥界》
《依頼主:ギルド受付嬢・湘南桃花》
《報酬:ハイファンタジー・オンライン辞典》
《内容:NPCとかAIが死んだ後の魂って何処に行くんだろうね? と言うわけで、今回はカルマタイプ『極悪』。自分のことを「新世界の神だ!」て言い切った大量殺人者の魂を追ってね! 彼は地獄に落ちるのかな? 正義のルール執行人になるのかな? はたまた転生して赤ちゃんになるのかな? 冥界からスタートして現世がゴールだよ。彼の行く末を見守ってあげてね。》
ヤエザキは彼岸花の冥界へ飛ばされる。
「開幕がいきなり冥界に行けるのは、何か急にゲームっぽくなったわね。私の体はどうなってるのかしら? 生きてる? 死んでる?」
そこには彼岸花が辺り一面咲き誇って、中心には枯れ木が一本生えていた。そこには形のない黄色の霊魂が何をするでもなく遊泳していた。
「ここがスタート地点ね、間違えるはずがない」
そしてその名も知らぬ霊魂に話しかける。
『僕は……新世界の……神……』
《名も知らぬ霊魂を追いますか? はい/いいえ》
「ゲームするために来たんだから、はい。で」
そしてゲームがスタートした。
霊魂が西へゆっくり、ゆっくりと浮遊してゆく。と、途端に姿が消えた。
「む? スキル〈魂眼〉発動」
すると、辺り一面黄色の霊魂が線となり。巡り流れる川が数多に漂っていた。すると再び、〈名も知らぬ霊魂〉を発見。視認できた。
「これでついていけばいいのね?」
その後、地面に潜られ逃げられたり。大気圏を突破され逃げられたり。光速で巡廻をされて見失ったり。クエストが何度も失敗されると、再び枯れ木の場所に戻される。
その繰り返しを十数回続けるうちに、体や眼も慣れていった。覚えゲーみたいである。〈名も知らぬ霊魂〉最後に、霊山の頂上らしき場所までヤエザキを連れていき。そこからジャンプして雲の下へ落っこちた。
追うのが目標なので、仕方なく自分もジャンプして落っこちる。
すると曇天の先は雨、雲の中は雨水だらけだった。そのまま落っこちる、ここが現世かな? と思っていた矢先。〈名も知らぬ霊魂〉は大河の川の中へ一直線に吸い込まれてゆく。
そして現世へ降り立ったヤエザキは、大河の中に〈霊魂〉が川の奥へ奥へと沈んでゆき。仲間の霊魂と共に、遠く遠くへ消えゆくのを見た。
「現世の転生先は大河か……、魚にでも転生するのかな? いや、その前にプランクトン? エビに転生したら美味しくいただきますけども……」
何にしても無事に現世には降り立った。ヤエザキのミニクエストはこれで終了だ。
『僕は……新世界の……神……』
《NPCの霊魂の行方を追え! クリア!》
一応廻り巡廻してゆく世界を追体験出来たので、ギルド受付嬢・湘南桃花の依頼は達成となった。
その後は、報酬のハイファンタジー・オンライン辞典と。ほんの少しのお金をもらって、今回はログアウトすることにする。
《ログアウトします、お疲れさまでした》
ログアウトし終わり、現実に戻って来た咲は特に意味は無いがお腹がすいた。
「エビ食べたくなってきちゃった……」
特に意味は無いが、空腹だけが残った。
特に意味は無いが、ツナ缶だけ食べて空腹を満たした。
本命の海老はまたの機会に食べようと思った。




