第231話「極大魔法2」
初心者草原
初心者の初心者による初心者のための草原である。
エンジョイ勢ヤエザキと黒魔導士ミチビキはその草原に立つ、試し撃ちのためだ。
「さて、ではやろっか。何かクエストやりながらでもやる?」
「いや、変なアクシデント発生がしたら。純粋な威力が測定出来ない。ここは試し撃ちモードっぽいのを選ぼう」
「ほうほう、了解。じゃあプレイヤーのピンチに颯爽と登場。なんて初心者フィールドでよくある自慢エピソードは無しね」
新しい出会いはこの際除外して、威力の測定に専念しようということになった。
ので、目の前でのっそのっそと歩いている。デカくて、遅くて、堅そうで、強そうで、体力のありそうな。キングゴリラスライムというモンスターにターゲットを絞った。
「何にもしてないのに、自己主張の激しいゴリラね」
「じゃあいくぜ、しっかり観てろよ!」
というわけで極大魔法が始まる。
《荒れ狂う暴君の弾丸よ!》
自然にたゆたう風が、術者の方へ渦を巻き流れ来る。ヤエザキにとっては逆風。半径30メートルの風の流転が、回転し、ぐるぐるととぐろを巻く。
《天変天災の花嵐よ!》
それらの風の渦は、キングゴリラスライムにも発生し。逃げることを許さない。どこからともなく、桜の花吹雪がほのかに舞い踊り。風の弾丸を充填・装填する。
《運と縁と恩を天秤に賭け!》
天に緑色の槍が顕現する、それはまさに北欧神話の主神・軍神オーディンが持つ、揺れ動くもの。魔槍のグングニルが10メートルほどある巨大な槍を、断罪者へと向ける。キングゴリラスライムは天空を見つめる。
《我タダここに吹きすさぶモノ!》
途端、真空波動が半径30メートルを支配する。背景が白色に支配されたものは、足の行き場を失い。されるがままに空中に遊泳するしかない。
《汝に全てを与え!》
空気がキングゴリラスライムを中心に圧縮される。空気は、地面は花火の振動音のように地響きを鳴らし。あたりにあるもの全てを巻き込み縮小する。
《全てを委ねる幕の名は!》
主神の裁きのつぶてが。キングゴリラスライムに振り下ろされる。瞬間、――着火。点火、イグニッションされるように。弾丸の雨が嵐を呼ぶ! 極大風属性魔法!
『マグナム・ジェットストリーム!!!!』
風の弾丸の雨が、キングゴリラスライムに暴風雨のように。ズドドドドッ!! と雨あられのように着弾し、すでにゴリラは白目を向いている。初心者用に配置されているモンスターなのだから。上級魔法に耐えられないのは当然だ。と、思ったが。思いのほかゴリラは耐える、HPはまだ4分の1も減っていない。ヤエザキは呟く。
「タフねぇ、このゴリラ」
思って間もなく、メインっぽそうな。天空に浮かぶ、裁きのグングニルが。振り下ろされた。
ズドン! と圧縮された気圧が解放され、あたりに爆風雨が何重にも吹き荒れる。温度はないようで、周りの温度によって変化するらしい。現在は気持ちのいい草原なので、風は何処か爽やかだ。
途端に竜巻、がサイクロンとなり。嵐となる。地面から天空までを繋ぐように吹き荒れる巨大な嵐となり。周りの草木を根こそぎ持って行く。
ヤエザキは前回の守護神の件もあり、半径100メートルは離れておいたので。なんとか飛ばされずにはすんだ。
渦と竜巻と突風が一つの嵐の中へと消えてゆく、否。吸い込まれ吸収されてゆく。
そして最後に、大爆発。するかな? と思ったが、それは『スーパーフレア・フルバースト』の専売特許であったようだ。爆発し竜巻を起こして渦は徐々に力を失ってゆく。そこに立っていた一つの影がいた……。
キングゴリラスライムだ、奴は立っていた。威風堂々と立っていた。「ウッホウッホ!」言っている、思わず笑うヤエザキ。
「あはは! タフネスすぎるだろー!」
「ぐぬぬ、やはりレベル1ステータスや初期装備では。倒れてくれないということか……」
「最上級魔法もゴリラの前では形無しって! あっははははは!」
そんな臨床実験と共に今回の検証は終了となった。
検証結果、キングゴリラスライムはタフネス。
ちなみに。
キングゴリラスライムは強いのではなくて。即死攻撃を何重にもガードするゴリラなのだ。別に強くは無いのだけれど、兎に角タフネス筋肉で即死を耐え抜いただけ。
『マグナム・ジェットストリーム』は50HIT極大ダメージ、対するキングゴリラスライムは即死耐久50回でHP100。だから耐えた、初心者プレイヤーが100回ペチペチ殴れば死ぬ。




