第230話「極大魔法1」
極大演唱呪文魔法シリーズ。通称ロマン砲。極大魔法とも呼ばれる。
そのあまりにも長ったらしい演唱呪文による大火力は、一発で大戦局をひっくり返すほどの威力を持つ。と言われている。
つまり、発動できれば勝ち確定。失敗すれば、最初から呪文やり直しな。かなりリスキーな呪文なのだ。
現在ゲーム中に確認されているのは、極大火属性魔法『スーパーフレア・フルバースト』のみで。それ以外の属性は何故か見当たらない。目下調査中、検証中となっている。
では、その極大魔法を改めて紹介しておこう。
《空想庭園、獄帝の竜王! その覇道を貫きしは漆黒の灯!》
《混沌世界の概念を浄土と化し、黄昏の日の元に壊滅せよ!》
《絶対の焔よ、円廻の理より還るは覚醒成る両翼!》
《大いなる破局を我が神眼に示せ!》
《森羅万象、誓約の名の下に、あまねく魂に悠久の炎を!》
極大火属性魔法『スーパーフレア・フルバースト!』
これら、極大演唱呪文魔法シリーズの習得条件は。特にこれと言って難しいわけではない。
単に演唱呪文の長さで威力が増えてゆくだけだ。ぶっちゃけ初心者でも撃てる。
火属性魔術師を極限まで極めて初めて使える魔法、ではない。
レア装備アイテムによるスキル習得、でもない。
もちろん、装備アイテムによって威力は変わったりするが。極大魔法は誰でも撃てる。
一句あればいいものを、二句や三句と長々と演唱を行えば撃てる。
現在、『EMO』、『FRO』、『HFO』のゲームの中では五句以上の連歌を組むと発動できるということになっている。
その五句・呪文内容は、プレイヤー自身で決めることができ。句の内容によって威力や姿形が変化する。
同じ『スパーフレア・フルバースト』であっても、術者の句・精神状態・装備品やパーティ内容によって多種多様に変化する。
故に、同じ『フルバースト』でも。全く同じ『フルバースト』を発動するのは至難の技である。
火の色・火力・煙の量・熱さ・反動・消費量・密度・射程範囲・大きさ・何よりも句の質。
これら細かく上げだしたら霧が無い。
極大魔法シリーズを撃つプレイヤーは居るには居るが、あまりに実戦向きではないため。攻略組ガチ勢の中では少数派に属する。要するにお荷物で当てにならない。そんなロマンにあふれた魔法なので、総じてロマン砲と呼ばれるわけだ。
仮想世界、HFO。西暦2035年04月22日、ギルド雑談広場。
「というわけで、極大演唱呪文魔法シリーズを考えようぜって話だ! ちなみに火属性意外な!」
放課後クラブ二期生ナンバー2、流水寺導/ミチビキが提案してきた。ちなみに二期生は今の所彼一人。
放課後クラブ一期生1:最終決戦エンジョイ勢、ヤエザキ。
放課後クラブ一期生2:神道社社長、農林水サン。
放課後クラブ一期生3:攻略組ガチ勢の廃人、エンペラー。
放課後クラブ一期生4:出番が来ない生産職、遊牧生。
放課後クラブ一期生5:愛すべき貴重なショタっ子、ナナナ・カルメル。
放課後クラブ一期生6:素早さ極振り、グリゴロス。
放課後クラブ一期生7:最高人工知能、天命アリス=スズ
放課後クラブ一期生8:コワモテな装甲飛竜、飛焔。
放課後クラブ二期生1:ロマン砲を撃ちたい黒魔導師、ミチビキ。
今の所こうなっている。
「ふーん、で。何属性が良いの? ちなみに氷だと〈エボリューション・白〉の私と被る、雷も〈雷速鼠動〉と被る」
ヤエザキ自分の都合をミチビキに向かってうなずく。ミチビキは続ける。
「てことは火と氷と雷は除外かー。あとは水・土・風・光・闇ねえ~」
闇も良いけど、ありきたりだ。ここは自分の好みで考えようと思うミチビキ。
「じゃあ、風の極大魔法をカスタムしようかな」
そういうことでミチビキの演唱呪文の試作が始まった。
《荒れ狂う暴君の弾丸よ》
《天変天災の花嵐よ》
《運と縁と恩を天秤に賭け》
《我タダここに吹きすさぶモノ》
《汝に全てを与え》
《全てを委ねる幕の名は》
極大風属性魔法『マグナム・ジェットストリーム』
「どうだろうか?」
「良いんじゃない? あとは実戦でどんな姿形になるか実験ね」
「姿形?」
「風力とか、色とか質とか反動とか規模とか。実際に撃ってみないと解らないことが多すぎるわ」
「なるほど、そうだな。じゃあ行ってみよう。おお、黒魔導師っぽくなって来たぜ!」
ヤエザキとミチビキはそんなこんなで、試し打ちをするためにギルド雑談広場から出て。モンスターの居るフィールドマップに出ることにした。




