第226話「四重奏VS放課後クラブ7」
初手。ヤエザキの飛竜〈飛焔〉一撃で倒される。
「極黒!〈雷速鼠動〉! 駆けッ! 抜けるッ!」
ヤエザキの黒雷の稲妻がブロードめがけて襲う。ジグザグに動く、その瞬間移動による雷撃斬は。ブロードを圧倒、しない! むしろ全く逆! ここまで来て互角。
ブロードは右手に四季の剣、左手に四奏の剣、右翼に四神の剣、左翼に四論の剣を構える。
四神の剣による第3の瞳は正確に相手の位置情報・動作を補足し持ち主へ伝える。
四季の剣と星剣『朝過夕改』がぶつかり合い、火花を散らす。
「風神爆破!」
その攻撃をモロに食らうが、ヤエザキの聖服『鏡花水月』は、それをもろともしない。
兎靴『足跡追及』が地面を蹴る。
「速い!?」
どちらも、武器も優秀、技術も優秀、心も優秀。
なら、勝敗はどうやって決する?
「手数を増やそう、4倍! 8倍! 12倍! 16倍!」
「!?」
その手数の多さにヤエザキは反応できない、ここは姉である農林水サンを頼る。信じる! 防ぎきれると信じる!
パリィ! パリィ! パリィ!
パパパパパパパパパパパパパパパ!!!!
ppppppppppppppp!!!!
普通の防御ではない、相手の攻撃に合わせて。反動を誘発させることで
普通の防御より高い破壊不能の防御力が備わるのがパリィだ。それを何十回とタイミングを合わせて全てを無力化する、もはや人間業ではない。かといって人間に出来ないわけではない。
「防御は任せろ! サキは攻撃に専念しろ!」
「うん! わかった!」
ヤエザキと農林水サンの阿吽の呼吸は、もはや今に始まったことではない。でも強敵相手の共闘は初めてかもしれない。日々の会話で積み重ねていた絆が、より強固な意思によって強化される。
ブロードも、もはや余裕はなかった。だから吠える
「負ける! もんかぁー!!」
「今じゃ!」
ジャストパリィ!!
「!?」
油断、ではない。コンマ0.02秒の隙。防御だけではなく、相手を仰け反らせて大きな隙を作るジャストパリィ。ヤエザキの反撃の時が来た。
「はあぁー!! 〈森羅万象のワルツ・2〉!!!!」
格上の相手に対して幸運・大幅ボーナスの8連撃・8属性攻撃が縦横無尽に舞う!!
そして、ようやく雷速鼠動のガード不可能な鼠動攻撃が遅れてやってくる!
『チュー!』 ズドン!
「ぐ!」
HPは4分の1まで減った。ブロードは先に農林水サンを倒すことを決意する。相手の神速の風神がサンを襲うが。
「!?」
ブロードに対して、ありえないことが起こった。
農林水サンの体をすり抜けて、ヤエザキの星剣が襲ってきたのだ。
〈エボリューション・2、極白〉に切り替え。それによるステータスオールゼロの透明化・幽霊化である。都合の良いことに、すり抜けた後。念じた剣先だけ実体化させ星剣が防ぐ。
二人の姉妹のコンビネームションは抜群だ。
だがしかし、それでも風は自由だ。
「波動弾!」
小さな風の銃弾が、サンの脳天にヘッドショットされる。初見であり、あまりの速さで反応が遅れた。弾速は拳銃のそれと変わらない威力と速さ。結果、致命傷。農林水サンのHPは1になる1だけ耐える。そして好都合とばかりニヤリと言う。
「覚えたぞ!」
「!?」
二発目の弾丸が飛ぶ。
何もチートなのはブロードだけではない。
農林水サンは自力で。認識した上限のMAXに常時自動アップデートした。システムによる自動防御ではない。手動による速度上限アップの防御だ。
もう同じ速度の波動弾は〈パリィ〉できる。同じ手は通用しない。
「森羅万象のワルツ・2!!」
ワルツに回数制限はない、またもブロードに決定打を与える。HPが半分まで削れた。残り半分。
「認めよう、お前等は強い!」
だからこそ、敬意をもってブロードの最強の技をもって迎え撃つ!
四季の剣・四神の剣・四奏の剣・四論の剣の同時牙突攻撃が、……くる!
「四獅竜閃!」
空中トライアングルの剣線と、片手剣右手から放たれる。信頼された四季の剣。これらによる全力を当然のように……。
パリィ! からの!
「四獅竜閃!!」
パリィは突き破られた! ここに来て痛恨のミス! 農林水サンのHPは0になる。からの!
「サキ! 今じゃ!」
「うおおおおおお!」
「四獅竜閃!!!!」
「極黒!〈雷速鼠動〉!!」
前方から、さらに前方に体当たりし。ブロードを後ろに仰け反らせる! 近すぎて剣の射程範囲から逃れた。
「しま!?」
今こそヤエザキは。勝負の切り札を、最後までとっておいた。秘奥義を使う!
「秘奥義! 殺劇・森羅万象のワルツ2!!!!」
〈斬空剣〉!
真空の飛ぶ斬撃が複数飛ぶ。
〈古今無双〉!
横薙に広がる広範囲の扇形の瞬撃。
〈太陽・大回転〉!
3回転して太陽の軌道上を回る。
〈超天元突破・巨神殺し〉!
ドリルを巨大化し螺旋を描く、竜巻の牙突。
〈雷速鼠動〉!
雷速の体当たりと、遅れてくる鼠動の不可避の体当たり。
〈エボリューション・極〉!
後にも先にも二度とない、純白の花騎士に変わり。
〈森羅万象のワルツ〉!
自由自在の8連撃・8属性の乱舞。
「たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ブロードは大きく吹き飛び。大壁にぶつかった。衝撃波で壁が粉々に割れる。
《ブロード戦闘不能、ヤエザキ選手の勝利。放課後クラブの勝利です》
「やった。勝った、勝ったよおー!!!!」
間なんて無かった、条件反射で喜びを爆発させる。飛ぶ跳ねる。嘘みたいとか、実感がないとかではない。確かにここにある実力。
『『『『うおあああああああ!!!!』』』』
観客席の大喝采と共に、このEXイベントの試合は終了した。
◆
実況のジャンプと解説の湘南桃花も、言葉を忘れるぐらいに見入っていた。
ので試合の中継を遅ればせながら解説する。
『ゲームセットォー!! やべえ! 一生に一度見れるかどうかの試合を生で視ちまった感じだぜー! 桃花嬢ちゃん! 解説頼む!』
『えぇ、まず驚くべきことに。ここまでチート級なテクニックを連発しているのに、肝心要の本当のチート。システム外スキルを使ってないことです』
『知ってるし出来るぜ! 代表例は〈ポリゴン破壊〉とかだよな!』
『ええ、ちゃんとゲームの中。ゲームの中でゲームしてることに対して私は驚きました』
『流れやタイミングに逆らわず、上手~くゲームしてたよな!』
『一度瀕死になったら蘇生させない。別に死者蘇生のスキルはゲーム違反じゃないのに、それもしない。というか回復アイテムは使用禁止でもないのに誰も使わない。変化球なアイテムも誰も使っていない、その上での幕引き』
『アレだろ。ランダムに出て来るアイテムや、地形も真っ平で真剣勝負をする楽しさみたいな奴だな!』
『そうですね、運要素を極力省いて。今までの実力で出来る範囲でしかバトルをしていない。本当に見どころがありましたよ』
『派手な大技が出るでも無し、イヤ! 一応フィニッシュも派手だったが。そこまでの過程も納得できる形で落とし込んでるからチートじゃない』
『まあ俺ツエエというか、ヤエザキちゃんツエエには入るでしょうけど。それでも遥か格上に対して、ここまで出来るんだなと。びっくりしました』
『運も良かったよなあ、序盤でリスク選手を倒せたのも大きい。最後の相手がリスクだったら、どうなってたか解んねえ』
『不動武もここまで読み切ったのも凄いですが、とても自然に放課後クラブの味を殺さなかったと思います。あのまま居続けたら、最果ての軍勢ツエエになっていたでしょう』
『そこまで読み切って棄権したってことか。まあ、結果観てから言うもんじゃないが、やっぱすげえな不動武』
『では試合自体の全体の解説を細かに説明しようと思います、まず初めに……』
そこからは、終局した盤上を検討するかのように。各々の立ち回りとか、自分だったらどうするのか? とかの検討会みたいな貞操に入って行った。
熱狂は徐々に静まり、会場は良いものを観終わったな。という解散の雰囲気になっていった。
四重奏VS放課後クラブはここに幕を閉じ、イベントと言う名の部屋の扉は再び閉ざされる。幕引きであった。




