第222話「四重奏VS放課後クラブ3」
南陣形側:レイシャVS前衛・エンペラー【ロボット】&後衛・ミチビキ【空母】
レイシャは四重奏の三人を見てからハシャいでしまっている。
「いやー皆のっけからハシャいじゃってるねー。無理もない、一週間待ってたわけだからね。この瞬間を」
アレやろうコレやろうね、と皆で予行練習したのが楽しかったらしい。
それほどまでに、今回の一戦は特別なのだ。
そんな格下である、放課後クラブのエンペラーとミチビキだったが。
「ただのおまけ、だと思ってもらっちゃ困る」
「俺たちはクリスタルウォーズと、ブルーマウンテン・オンラインのランキング1位だってこと教えてやろうぜ」
「と、言われても」とも思うレイシャ。
「片方はロボット乗ってて、もう片方は空母に乗って武装しちゃってるのは。男の子としてはどうなの? 主に正々堂々な精神的に」
片方はロボットをウイーンガシャンと動かして、もう片方は空母の主砲っぽいものが産声を上げている。
「お前達の凄さを、正当に評価した結果がコレなんだから仕方ないだろ」
「諦めて勝たせてくれたら、こんなに苦労はしねーよ」
四重奏の他の3人は、速くもバトルに突入しているのに。ここの三人はスローペース、むしろ雑談に入らないで戦闘に入った3人組の方が異常なのだが、ここでは割愛しておく。
特にリスクとスズはペース配分などは考えない質なので、言っても意味ないことは解っている。
相談する間もあるし、相手は言い方は悪いがマヌケだ。今のうちに作戦を練っておこうと話す放課後クラブの男子二人。
「どうする? 先に攻撃するか?」
「いや、どう見ても他の3人組のペースが異常だ。ここは情報収集の機会にしよう」
ふたりはコクリと顔をうなずき合うことで合意した。彼女から好機の糸口を探る。
「ぶっちゃけお前等の弱点は何なんだ?」
「このゲームでは弱点の設定が無いプレイヤーは違法ってことになってるが?」
レイシャは、「むしろ弱点ばっかりの冒険だったけどなあ~」と。聞こえるか聞こえないか微妙な声色で呟く。
ここはちょっと、ちょっかいを出すことにするレイシャ。
「むしろ弱点がないと勝ったことが無いプレイヤーさんなのかな? 贅沢だねー、ランキング1位さんは。βテスターさんなんて弱点無くても【ここまで】上り詰めて来たよ?」
それがSランクの条件だとばかりに。煽ってきた。どうしようもなくタゲられるレイシャ。敵意がレイシャに向けられる。当然向こうは向かって来るのだろう。【これまでの定石通り】ならば。
天然ボケは、天然ボケらしく。定石通りにはいかない。タゲられているのに、他の組の戦場を観る。そして短く単的に一言。
「ま、モブの相手はいいや」
カチンという憤怒感と、ヤバイ! マズイ! という焦燥感と危機感が漂う。
「ヤエザキちゃーん、あーそーぼー!」
神の巫女たるレイシャは神速を使える。西陣形側へ敵の歩が進んだ。
スズとレイシャの二重奏が始まる。
――定石が崩れた。
――同時にレイシャの時間の流れにそった『一撃必殺・マジ殴り』がヤエザキを襲う!
(強……! 速… 避…… 無理!! 受け止める 無事で!? 出来る!? 否 死)
それともう一つ思考する。
(エボ白…… 回避… 可能! でも1回! 今使う!? でき… 手遅れ 死)
――その刹那に割って入って来た人物が一人居た。
素早さにステータスを極振りしたグリゴロスだ。
――チュドン!!!!
はるかから、こなたまで体が吹き飛ぶ。紙同然、紙一重でヤエザキの命を繋いだ。壁にぶつかり地面に倒れるグリゴロス。
「!? グリゴロス!?」
「仲間を守るための速さだ……! 当たって本望!」
(神速と同等の素早さ極振りなんて、最高じゃないか。ファンタジアリアリティ・オンラインも無駄じゃなかったんだって。本気で思えるぜ……)
ヤエザキが驚愕の声を上げる。彼のHPが全損、0になった。
《グリゴロス戦闘不能、退場します》
消えゆくポリゴンの中で、グリゴロスはヤエザキに言う。
「仲間を頼れよ、なぁ、大将……!」
ポリゴン片は四散して消滅した――。
「グリゴロス――――!!!!」
スズの『絶無加速思考』はこれらの結論を正確に予測出来ていた。それなのに何故行動に移さなかったかと言うと。
彼の行動が、偉大だったからだ。
西陣形側。スズとレイシャがこう着した場を仕切り直す。
「さて、まずは1人ね」
「んじゃ、始めようか」
両者阿吽の呼吸で構え直す。凛として花のごとく。
「「私達の二重奏を!!」」
エンペラーとミチビキは自分達の行いのせいだと悟り悔いた。
オーバーリミッツと農林水サンは。プッツン怒りに任せて暴れようとするが、自分でそれを鎮静化する。
守られたヤエザキはというと。グリゴロスがやられる風景を、何度も何度もループしていた。何度も何度も脳内でフラッシュバックしていた。
「あ、あ、あ……」
声が、体が、目の前で起きたことが【理解出来て】震えが止まらない。
立ち直らせてくれるプレイヤーは、まだ居ない。




