第221話「四重奏VS放課後クラブ2」
西陣形側:スズVS前衛・ヤエザキ【飛竜】&後衛・ナナナ・カルメル【ロボット】
前衛のヤエザキは装甲飛竜・飛焔に乗って竜騎士と化していた。後衛のナナナ・カルメルは、機動戦機ノア2号に乗りガ〇ダム戦士と化していた。
対する四重奏のスズは木刀一本のみ。普通に考えたら理不尽なほどに放課後クラブの方が優勢であろう、しかし違った。そうではなかった。
初手、スズ。太陽と月が4つ合わさり日食と月食を作り出す。湾曲を絵描いて重量級の2つの巨体が後ろへ吹き飛ぶ。
「喰令!!!!」
輝かしい令和の時代を煌めき喰らう、人ならざる神業がヤエザキとカルメルを襲う! しかしそれだけでは止まらない。日食と月食が合わさり、阿弥陀の後光を背負うような聖なる光を纏った後。繰り出されるのは。極光。
大きな巨体が倒される、1度ならず2度までも。二度も起こるのならそれは奇跡ではなく当然。実況と解説の闘魂が燃え上がる。
『ヘイ! 解説桃花! 俺には10歳の少女が2体の鉄の塊を投げ倒してるようにしか見えないぜ! しかも何度も何度も!』
『そうね、木刀一本で翻弄し薙ぎ倒し圧勝してる。どう考えても人間業じゃない。彼女は人間をやめている! 化物にとって乗り物は、カモがネギしょってやってきた風にしか見えてないわね!』
ロボットが巨腕を振り下ろし、飛竜が火炎放射を放つ、しかしそれもSランク冒険者はため息一つ。ロボットは青天井でひっくり返り、飛竜は彼方へと衝撃波で後方へ吹き飛ばされる。力の差は歴然だった。
「これでわかった? あたしが上で、あんたらが下ってことが」
勝負になっていない、それが最初の感想だった。遊ばれている、竜とロボットのおもちゃを手に子供が遊んでいる風にしか見えなかった。これほどなのか、これほどまでに彼女は強いのか。格上なのか。
「まだよ! まだ始まったばっかりなんだから!」
「そうだよ! お姉ちゃんに勝つのは僕たちだよ!」
お互い、初手は様子見。ここからが試合なのだ。可憐で美しくそして優雅。スズの剣技にはそれが全て備わっていた。
「じゃあちょと本気出すよ……『絶無加速思考』、展開!」
敵や周辺情報をラーニングすることで結論予測を行う。それによって導き出された【2兆通り】もの攻撃や回避のパターンから【約0.01秒】で最適解を見つけ出して適合者に伝える。
この空間だけ時が静止したかのように止まってしまった。
北陣形側:ブロードVS前衛・オーバーリミッツ&後衛・農林水サン
「強いと解ってるなら初めから全力だ。俺は剣と銃を使う」
「久しいわね、もっともあなたに恨みはないけど」
「神々のコンビに勝てると思うなよ! じゃ!」
拳銃とサテライトレーザー銃が空を舞う。炎刀がそれらの攻撃を見事に弾き、運営社長はジャストパリィを繰り出す。
『へい解説嬢ちゃん! 少しは冷静になってきたかい!?』
『ええ、そうね。でも実況と解説ってこの試合の熱量をちゃんと観客に伝えるのが仕事だと思うの。だから伝えるわ! その熱量を! おーっとブロード選手がゴール! ゴール! ゴゴゴゴゴゴール!! ゴオオオオオオオオッルルルルル―――――――!!!!』
その時、風が来た。吹きすさぶ風が、やがてサイクロンを巻き起こす!
農林水サンはジャストパリィでそれを相殺する。が……。
ジャストパリィ! ジャストパリィ! ジャスト! ジャスト! ジャジャジャジャシャ! JJJJJJJJ!?!?
相手の攻撃が速すぎる、タイミングを合わせる暇もなく、ついに……!
パリィン!!!!
あの、ゲームマスターの神速パリィを実力で突破したブロードの姿があった。
「ち! やっぱ技術だけじゃどうにもならんか! オーバーリミッツ! やるぞ!」
「え、いいの農林ちゃん」
「ブロード相手に全力出さない方が失礼だ! いくぞ! 【可変式神威】!!」
――カッ!!
「!?」
名前:オーバークォーツァー・レベル2
容姿:トラのような黄金色に炎を燃やす長く美しい髪に、紅蓮の瞳。創造神と天罰神のベストマッチした姿。
「「いくよブロード! 『真空豪嵐』!!!!」」
オーバーリミッツと農林水サンの全力。――――瞬間、灼熱の熱波が北陣形側を【極楽浄土】と化した。
ブロードはその波動に、ただ。あるがままの風のように身を託した。「風になる」彼はそう呟いた。
そうして、文法を突破し、防御障壁を突破し、HPを全損し、体を燃やし、魂を命を燃やし、肉体は消滅し、骨も燃やし、灰も残さず消えた――。
決着がついた……【はずもなく】、当然のようにブロードは再蘇生する。どうして? なんて野暮なことは対戦相手である2人は聞かない。
「心が繋がっている限り! 俺は負けない!!」
「「……!?」」
「それに俺達はまだ全力を出してない、忘れんなよ。俺達はまだ、独奏でしか歌ってねぇ!」
その意味を知るには、あともう一人の前奏曲を聞いてからでないと、始まらない。
四重奏の演奏は、まだ始まってすらいないのだ――。




