第217話「四重奏の帰還とVSブロード」
オーバーリミッツが居なくなった頃、外が何やらガヤガヤと騒がしくなっていた。
四重奏。
男2人、女2人で構成されている。4人組、Sランクなのにこの少数精鋭で構成されている、異例のチームになっている。その彼らがギルド受付嬢の所まで帰還したというわけだ。
ガイガイワラワラと騒がしい4人組が受付嬢・湘南桃花の所までやってくる。
「相変わらずそうでなによりね」
謎肉を食いながら喋ってくる少年は、今日も元気そうに叫ぶ。のがリスク。
「おい桃花先生! 今回の敵がすげえ弱かったぞ! もっと強い敵とうち戦いてえ!」
可憐に凛々しくキレのあるツッコミを入れるのが、通称ツンデレ美少女スズ。
「あんたいつもソレばっかりじゃない! 他のパターンはないわけ!?」
四重奏リーダーは涼やかに、爽やかに落ち着いたトーンで飾らないでキメる。ブロード。
「ったく。お前らいつも喧嘩ばっかりじゃないか……」
明るく大らかに、場を和ませようと明後日の方に話題を持って行こうとして失敗する天然巨乳。レイシャ。
「まあまあ! それより今日の天気はいい感じだねえ~」
それぞれ4人には歩く二つ名は多々あれど、実際に固定された名称は今のところ無い。
リスクは、戦闘王、竜殺し、光風の戦士など。
スズは、知略王、頭お花畑、闇火の戦士など。
ブロードは、騎士王、王子様、神の護衛など。
レイシャは、神聖王、ド天然娘、神の巫女など。
噂は噂を呼び。伝説は伝説を呼び。半ば話題が一人歩きをしてしまった伝説の4人組。どこかの国では暦の名前の源流になってしまったとか、ならなかったとか。誠しやかな話題まで飛び出ている。
そんな4人に湘南桃花はVS放課後クラブの話題を持って行く。
「マジか!? サキと戦えるのか!? うちわくわくしてきたぞ!」
「サキさんって一番最初のイフリート戦以来じゃない?」
「そうだな、最初の最初に8人ぐらいでボスモンスターを倒して以来だ」
「サキちゃんかー! 懐かしいー! きっと前より可愛くなってるよ!」
4人とも会いたいな、という想いとともに。快くイベントのOKをくれた。
「というか、俺たちの許可得ないでスタンバイしたのかよ」
「どうせあんたらなら断らないでしょ」
桃花とブロードの何気ない会話も、表だっては初めて何じゃないか? というくらい新鮮味があった。ギルド集会所の間の嵐の目、桃花が相殺されるほどの存在感だった。
「まあ桃花さんのお願いじゃなあ」
ちなみにブロードは12歳ぐらい、桃花は25歳ぐらいの年の差だったきがする。噂だと。
そんな中。
「おい四重奏だぞ」
「生で観るの初めてだ」
「なんかオーラあるっていうか」
「かっこいい」
そんな声が聞こえてきたので湘南桃花が茶化す。
「ずいぶん有名人になったねーお姉さん鼻が高いよ」
「それは桃花先生の手腕のおかげだぜ」
と四重奏は皆、うんうんとうなずいて同意する。リスクが話を戻す。
「サキとはいつ戦えるんだ?」
「一週間後、あんたたちが強すぎて準備しなきゃいけないのよ」
「これまたご愁傷様」
「それ、ブロードさんも入ってますよ?」
「はわわわわ! 私は特に何もやってないはずだよね? ね?」
ちょっと懐かしすぎてお互い齟齬が有るような気がした桃花は。「雑談会でも開く?」と提案してみる。
「戦いか!」
「同窓会ね」
「試合前に話し合いっていいのか?」
「良いじゃん! 減るもんじゃないし」
と、ワイワイと受付の前でしんぼくを深めていると。「おい」と冒険者が声をかけてきた。
「俺の名はモブタロウ、Aランク冒険者だ。ぜひブロードさんと決闘をさせてほしい! 頼む!」
指名されたブロードはクールに返事をする。
「いいぞ、久々のウオーミングアップだ。武器はどうする?片手剣、二刀流、剣と銃」
「ぜ! ぜひ二刀流で頼む!」
「懐かしいな……体ナマってなきゃ良いが……オーケーわかった」
受付嬢・桃花が「ちょっと、戦うなら外でやってよね」と外へ誘導する。
「では、ルールは時間無制限。どちらかが1撃、決定打を入れられたら勝ちとする! ブロード! 3分ぐらいでケリをつけなさい!」
「了解桃花姉さん」
「腕を借りるつもりでお相手よろしくお願いします!」
相手も二刀流で勝負するつもりらしい。観客も自然と集まってきた。
試合のゴングが鳴る。
「ではハジメ!」
ブロードVSモブタロウ
「いくぞ」
「はい!」
風が来る、ブロードは1本の剣を風に浮かせて。もう一本の剣は右手の片手剣という貞操で、まずはその状態で構える。
片や相手は普通に両手で剣を持つ。前のめりの高速で間合いを詰めてきた。瞬間、遠距離操作による風の剣で行く手を阻む、障壁となっって風の剣が立ちはだかってきた。
まずは軽くいなして懐に……、そう思っていたが。……が。
その風の剣がこれまた想像以上に、否。これ以上ないくらいにズシン! と重かった。周辺に突風が吹き荒れる。
何だこれは!? 象に踏みつぶされてるような感覚だぞ!? 風圧でこの重量なのか!?
思った瞬間にはもうブロードはモブタロウの間合いに詰め寄っていた。
虚を突かれた。
あ、終わったと思ったモブタロウ。だが、何も出来ずには終われない!
「まだだ!」
瞬間、両腕がドラゴンの豪腕筋肉のようにムキイ! と膨れ上がり。象のような風の剣をいなす。
地面に風の剣が落ちた瞬間、ズドン! と地震と共に地割れが発生する。が、これも当初のモブタロウの予想通りジャブのパンチ。本命は片手で持っている剣。否、ドリル。
「ドリル!?」
モブタロウが見間違えたのは、風圧により圧縮された螺旋の牙突。ただの風だ。それがハリネズミの進入も許さない聖域を守護するための聖なる剣と化していた。
避けたい! 否、この攻撃を受け止めたい! 肌で体感しておきたい。コンマ0.1秒あるか無いかの判断で、受け止める! を選択。そして受け止めた感想は、重いでも軽いでも速いでも無く。
「……自由」
ただ、縦横無尽・変幻自在に飛び回れる。何でも出来る、全てが可能だと言わんばかりの。爽快な自由な風の牙突だった。
「これが、風の剣士……」
「風神爆破!!」
自由な風が、ただ自由なまま、何のシガラミもなく。吹きすさぶ。
ガードして、受け止めて、感触を確かめて、反動を味わいたかった。
ただそれだけが、それだけが出来なかった。
モブタロウは、ただ、飛んだ。
飛んで、重力に逆らえず。落下して地面に倒れ伏した。
「がはあ!?」
審判である湘南桃花が勝負を止める。
「勝負あり! 2撃目でブロードの勝ち!」
そんな、こんな。攻撃も防御も素早さも確かめられず。何の成果も得られない。感触がない戦いがあって良いのか!?
ただ自由になっただけの感触だけでいいのか!?
戦いとは、もっとこう。こう……!
「まいりました」
「おう。ありがとう、久々にナマリも取れた。流石Aランク冒険者だな」
お互いがお互いを賞賛する、互いに良い勝負だと思える理想の勝敗が決した。
桃花が、リスクとスズとレイシャに感想を聞く。
「どう思った?」
「悪くないかな」
「久々に見たけど、昔より磨きがかかったんじゃないかしら」
「風が気持ちいいねえ~」
持ち上げもせず、下げもしなかった。そういう評価ということだろう。
ブロードが仕切る。
「んじゃ、雑談タイムにもどるか」
緊張の糸が再び和んだ。




