第213話「受付嬢湘南桃花」
《『ハイファンタジー・オンライン』の世界へようこそ》
《キャラクターメイキングを終了します》
ヤエザキのキャラクターメイキングは、今までのイメージとほぼ同じにした。髪は黄色、服は白をメインに赤いラインの入ったコート風の魔法剣士。キャラクターメイキングは後で細かく設定するとして、まずは街の探索だ。
《『冒険者の広場』へ移動します》
ヤエザキ、農林水サン、ミチビキはそれぞれキャラクターメイキングを終えたから合流する形となっていた。その後、この異世界を一度見て回ろうということになり。皆は1時間ほど別々に自由行動をすることになった。
「へえ、この世界ってレベルやHPの数値が【観えない】のね」
攻撃力・防御力・素早さは可視化されていた。それ以外の、レベル・HP・幸運などの数値は。隠された数値として計算され。基本的に他者のパラメーターを観ると、3つしか表示されない仕組みになっていた。
今までの過去のデータをコンバートしてログインしたので、現状。Aランクレベル相当のステータスが表示されるヤエザキ。3人しか会っていないので、高いのか低いのか基準が良くわからないヤエザキ。
ヤエザキ
攻撃力4000
防御力3000
素早さ3000
農林水サン
攻撃力4000
防御力1000
素早さ5000
ミチビキ
攻撃力7000
防御力2000
素早さ1000
ステータスパラメーターは自分で振り分ける事ができ。レベルが上がれば自動で各ステータスが上がるわけではない。まず経験値を得た後に、ポイントが手に入る。その渡されたポイントをどのようにステータスに反映するかは、プレイヤーに委ねられる。
ヤエザキはオールラウンダーを自称していたので、出来るだけまんべんなく均等にステータスを分け。残りは攻撃力に振った。
そんな散策の中、ヤエザキはプレイヤーがクエストを受ける屋敷の中へ入って行った。
受付嬢とは。冒険者やギルドのクエストを受けたりするいわゆる何でも屋さん。基本的にNPCの仕事であるが、この『ハイファンタジー・オンライン』略称HFOでは。転職すればレベル1の初心者からでも、誰でも成れる。
「私休みたいし~、でも人集まっちゃうから受付嬢に転職しちゃった~」
湘南桃花とは。数々のクエストの、いや。冒険者にとって嵐の眼となってしまう特異体質を、自然と持ってしまっているので。あっちこっちに移動するとそのたびに人の流れが変わり。結果、地図を書き換えるほど面倒な出来事に発展する確率が高いプレイヤーなのだ。
「なるほど~、それだったら皆の帰る場所になりますしね」
ヤエザキは次のクエストを何にしようか? とクエスト掲示板に足を運んで悩んでいるときに、そのクエストを何かしら受ける時には桃花受付嬢の許可が居ると知り。知り合いだったので、立って雑談話になったという形だ。
何か良いクエストは無いかな? と受付嬢に聞くヤエザキだったが、桃花からは思わぬ返答が帰って来る。
「クエストじゃないけど、こんなイベントどう? PTVSPT、【四重奏VS放課後クラブ】。きっとお客さんも大勢来ると思うよ~」
四重奏はSランク2位のプレイヤーだ、対する放課後クラブはAランク3位……。明らかに格上相手の話だった。桃花から言わせるとこのイベントは面白そうとのこと。
思わず目がくらむヤエザキだったが、ログインをしてから武器の合成やら。この街の正確な地図製作やら。仲間との連繋プレーを確認しておきたいと思っていたので、時間が欲しいと提案する。
「一週間ください! それで準備しますんで!」
あまりのビッグネームに熱い汗を流すヤエザキ。心はワクワクしているが、相手が遥か格上の相手だと知っているので。どうしようもなく心が踊り焦る。
「というか、桃花さんも参戦してくださいよ。負け確定イベントとか嫌ですよ私」
まるで湘南桃花受付嬢が参戦してくれたら、勝ち確定イベントのようである。
「あーダメダメ、私はもう一回戦って負けちゃったから。またやったってつまんない。代わりにうちのギルドからお一人レンタルなんてどうでしょう?」
「?」
「ズバリ、オーバーリミッツちゃん!」
「え……えぇ――!?」
「おりょ? そういやあんたらって仲悪いんだっけ?」
「悪いって言うか、成り行きでそうなっただけで……別に二人でお茶とかしましたし……」
「あらそう。ふ~ん」
現在、ギルド放課後クラブのパーティー人数は合計で6人だ。ヤエザキ、農林水サン、エンペラー、ナナナ・カルメル、グリゴロス、ミチビキ。この6人組とレンタル組で四重奏の相手をするらしいのだが。今までの経験からして、これでは負け確定イベントだと心が感じてしまうヤエザキ。
「ん~4対7か~」
「誰かあてはありませんか?」
「あてって言ったら~あと1人しかいないな」
「その人とは?」
「最果ての軍勢のリーダーさん、不動武くん」
「……………………!?!?」
あまりの驚きに体が硬直したヤエザキ。というか湘南桃花と言う人物の人脈の広さは何なのだ。Sランク冒険者1位のリーダー、ついでに言うとSランクプレイヤー25人をまとめ上げるリーダー。世界1位だ。このゲーム世界における、世界最強のプレイヤーだ。
「ま、マジで勝つ気があるメンツだとこうなるわね。これで8人」
「ぶっちゃけ1対2の戦いですか……」
「そうなるね、そっちは空母あり、ロボットあり、飛竜ありだから。まぁいい勝負いけるんじゃない?」
「そんな他人事みたいに言われても……」
「むしろこれで勝てなかったらゲームバランスがおかしいか。四重奏プレイヤーがバグってる」
ちなみに桃花は運営側の人間ではなく、プレイヤー側の人間である。
「言い方ぁぁ!?」
「まあ打倒四重奏ってことで」
軽くクエストをやって皆とこのゲームの感覚を掴もうと、受付嬢桃花さんに相談した結果これだ。実際にやるのは大変うれしいが、緊張と重圧と威圧が同時に襲ってきた。
というか空母とロボットと飛竜を追加しても勝てるかどうかギリギリという、湘南桃花の中の戦闘力と言う名の秤はどうなっているのだろうか?
そんなこんなで、イベントを受けることとなったギルド『放課後クラブ』のリーダーヤエザキ。
西暦2035年04月15日から1週間後なので、ちょうど04月22日15時00分にイベント開催の予約をすることに決定した。
皆の了承を得ないで決まてしまったので、何て言おうかと悩むヤエザキの姿がそこにはあった。これは作戦を練らないと本気で負ける、全力で挑もうと気合を入れ直した。
「えっと~まずは武器の合成をしなきゃ……鍛冶屋はどこだろう?」
同時に、イベント開催の告知がハイファンタジー・オンラインの掲示板にデジタル的な表記で確認される。
その告知と共に他のプレイヤーに知れ渡り。このビッグカードでどっちが勝つかの噂や、賭け事が行われるような盛大な賑わいを見せるのだった。
誰かが噂をする。
「目を疑ったぜ、四重奏VS放課後クラブ!」
「古参VS新参ってかんじだな」
「どっちに賭ける?」
「やべえ、久々にあの4人がそろって戦う所を観れるのか!?」
「放課後クラブがんばえ~」
「さらっとオーバーリミッツ&不動武選手がいるんですけどそれは!」
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イベント名『四重奏VS放課後クラブ、勝つのはどっちだ!?』
場所:始まりの街の闘技場
開催時期:西暦2035年04月22日15時00分。
道具・持ち物:あり
参加プレイヤー
四重奏:リスク、スズ、ブロード、レイシャ。
放課後クラブ:ヤエザキ、農林水サン、エンペラー、ナナナ・カルメル、グリゴロス、ミチビキ、オーバーリミッツ、不動武。
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