第211話「神道社総合委員会02」
【日本時間】西暦2034年11月20日15時15分。
仮想世界。赤い空の遺跡。
あ、アレだ。と言って、太陽から伸びる影を指さした。日食なのか月食なのか本人にはわからないそれは。そこに現れたのは《飛竜》だった。バサバサと下りてくる飛竜は何か嬉しそうだった。
『我の名前はリンドヴルム!』
「じゃあ《飛焔》で!」
『話を聞かねえ嬢ちゃんだな……まあ良い。オイお前、遅いから乗れ!』
野太い重低音な声で返されたドラゴンの声に、半ば面食らうヤエザキ、彼女自身が乗ろうと考えていたのは。もっとこう、一緒に成長していけそうな半人前な飛竜をイメージしていたからだ。憧れていた小物冒険者のイメージが砂に消える。
「え、いいの! てかイカツイ態度だねえあなた。マフィアのボスか何か? 乗せる相手間違えてない?」
『何でもいい。俺はお前の眷属とは長い縁だ、今こそ【あの時の願い】を叶える時だ。さあ乗れ!』
「やっふーい! じゃあ乗るー!」
『振り落とされんなよー! 《神速!》』
瞬間――、音もなく。大空を飛んだ。というか速すぎて目に観えなかった。目にも止まらぬ早業だった。明らかに大物なドラゴンだった。
「うっひょーい! いっけー飛焔ー!」
不可視のドラゴンが大空を飛ぶ!
アナザーヤエザキはバカな1人と1匹を目視で確認した。
「今度は1人と1匹で突撃ですか。……学習しない奴ですね……」
言って、黒ヤエザキは地面を斬! と突きつけて。
「来い、《雷針》!」
言うと、地面から砂鉄を帯びた飛竜が現れた。土と鉄の融合竜。そして時計の針がグルグルと廻っている。それが《雷針》。
『俺の名はストームだ! ふざけた名前つけてんじゃねーぞ!』
「何でもいいさ、お前はあの飛竜と好きに遊んでな。私は白ヤエザキの相手をする」
『勝手な令嬢だな! まあ良い、自我を取り戻した俺自身が、今度はちゃんとあいつとケリつけれるチャンスって事だな!』
「……、兎に角あの飛竜を押さえろ。いいな」
『おうよ!』
言って、飛び立つ。同じく《雷針》も《神速》を使う。不可視の空中戦が始まった。
《エボリューション・白》になった状態で、白ヤエザキと飛焔は飛ぶ。
「今度は長く維持できるように頑張ろう!」
『振り落とされんなよ!』
《エボリューション・極》になった状態で、黒ヤエザキと雷針は飛ぶ。
「仲間と来なかったことを後悔させてやろう!」
『リンドブルム! 今度こそケリつけてやるぜ!』
白ヤエザキ&飛焔VS黒ヤエザキ&雷針。
ファイ!
◆
【日本時間】西暦2034年11月20日15時15分。
現実世界。神道社会議室。
以下、各運営・政治家・人工知能・プレイヤーの有力者の一部に渡された。文言はどうせ世に出回るので。今回は公開会議という形を取る。よって不特定多数に観られることを前提とした会話となる。
運営長、舞姫
【では、『置き去り組』と『生還者組』の議題に入りたいのですが。おそらく、我々が決めなければ何も進展しない問題です】
神道社社長、天上院姫
【じゃあ『置き去り組』について話を始めよう、舞台裏・グランドホテル関連じゃな】
トッププレイヤー、湘南桃花
【「またね」って言ってもう会わなくなった案件? いや、それよりもっと前からあったか】
最高人工知能、ヒルド
【いわゆる、名前はついたは良いけど。そこまで活躍できなかったプレイヤーなんかの所在だろ?】
政治家、今泉善次郎
【こちらで言う、『難民』や『被害者』みたいな言い方で良いのかな?】
政治家、ジョン・サーガ
【私は『壁を作ったもの』だが『壁を超えられなかった』ものたちという認識で良いのだろうか】
トッププレイヤー、不動武
【簡単に境界線を引くなら。神道社社長の『試練』を超えられたものを『生還者組』、超えられなかったものを『置き去り組』と認識したほうが手っ取り早いだろうな】
神道社社長、天上院姫
【あー、結局ワシ案件なのね。まあ全てに繋がってるならそうなるか……】
最高人工知能、天命アリス=スズ
【各々が好きに生きてるなら。好きに行動させるべきだと思いますが、『どうするか?』では賛否が取れません、『こうしたいのでいかがでしょうか?』に内容を作り直してくれませんか? 舞姫さん】
運営長、舞姫
【かしこまりました】
議題1『置き去り組に対して金銭的な支援をするかどうか』
議題2『生還者組に対して金銭的な支援をするかどうか』
最高人工知能、天命アリス=スズ
【人道的には支援をした方が彼らは助かるとは思いますが、お金が底をついては元も子もありませんしね】
政治家、今泉善次郎
【私達の問題か……とはいえ、成功した者に利益を私のは道理だが。失敗した者に利益を出すというのは……】
政治家、ジョン・サーガ
【金銭を渡せば知名度は上がるだろうが、限度もあるしな……】
神道社社長、天上院姫
【まあ、そうじゃろうな。奉納するのとはわけが違う、彼らは消費する】
運営長、猿山坂尾
【議論を深めるのも良いが、他にも議題がある。さっさと決をとろう、では行くぞ】
議題1『置き去り組に対して金銭的な支援をするかどうか』の賛否。
反対。運営長、猿山坂尾。この世は弱肉強食。
賛成。運営長、舞姫。専門分野じゃない限り、労働力は貴重。
反対。政治家、今泉善次郎。失敗した人材に対して渡す金銭は持ち合わせていない。
反対。政治家、ジョン・サーガ。政治家として、成功者ならわかる。
賛成。最高人工知能、天命アリス=スズ。人民あってのトップです。
賛成。最高人工知能、ヒルド。金銭額によるが、基本的に賛成。
反対。トッププレイヤー、不動武。軍では弱者を助けてたら、隊そのものが全滅しかねない。
賛成。トッププレイヤー、湘南桃花。このような社会構成になってしまった責任があるから。
反対。神道社社長、天上院姫。責任はあるが、だからといって自分の今の境遇を他人に押し付けるのは責任転換だと思う。
賛成4、反対5で否決されました。
トッププレイヤー、湘南桃花
【まじかよ……、おいこの議論荒れるぞ】
トッププレイヤー、不動武
【次の議論の未来も観えましたね……】
運営長、舞姫
【では次の議題の決をとります】
議題2『生還者組に対して金銭的な支援をするかどうか』の実行の賛否。
賛成。運営長、猿山坂尾。勝った者には報酬を。
反対。運営長、舞姫。格差社会が生まれるから。
賛成。政治家、今泉善次郎。お金を出すなら生還者に。
賛成。政治家、ジョン・サーガ。強いものは報酬を。
反対。最高人工知能、天命アリス=スズ。プレイヤーに不平等。
賛成。最高人工知能、ヒルド。なしよりかはましとは思う。
賛成。トッププレイヤー、不動武。名誉と共に報酬を。
反対。トッププレイヤー、湘南桃花。金銭の為に生き残ったんじゃない!
賛成。神道社社長、天上院姫。何もなしってわけにはいかない。
賛成6、反対3で可決されました。
政治家、今泉善次郎
【こう言っちゃ何だが。姫君の票数は上げたらどうだ?】
神道社社長、天上院姫
【いやじゃ! どこまでも平等が良いのじゃ!】
トッププレイヤー、湘南桃花
【まあ、姫の反応は。予想通りね】
最高人工知能、ヒルド
【綺麗ごとで終わらないと思ったが、こうなったか……】
政治家、今泉善次郎
【しょうがないだろ、我々にも。責任のある1票でありたい。無責任な賛否はできん】
運営長、舞姫
【では次の議題を……】




