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少女は異世界ゲームで名を揚げる。~ギルド『放課後クラブ』はエンジョイプレイを満喫するようです~  作者: ゆめみじ18
第9章「ザ・エンドオブ・アリスストーリー」西暦2034年11月1日

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第208話「17日目」

《時間です。状態異常【α忘却あるふぁぼうきゃく】による、未来からの大爆発を受けます》

『『我らは守護神! 聖域を脅かすものを討ち滅ぼす者なり!!!!』』


 ――瞬間――爆音――。

 だが今回は普通の爆発とは違った。

 【黒い球体】がヤエザキとアナザーヤエザキのみを包んで固まってしまったのだ。暴発も縮小もしない。時が止まったかのような空間の中に二人は取り残され。やがて……。

「ヤキ? サキー!」

 農林水サンが大声を上げる。



 仮面木人が立ち上がる。

『汝ら、共に決闘をお望みか!』

『ならばこの戦、我らが聖域での決闘を許そう!』


《マスターキーが使用されました『ドアの世界』の扉が開かれます。》


《ステージ、【心相一如しんそういちにょ終点しゅうてん】へ移動しました》


《状態異常【α忘却あるふぁぼうきゃく】の効果が切れました》



 白のヤエザキと黒のヤエザキにとって、かけがえのない思い出の場所……。心の世界……。

 彼女ら二人にとって無くてはならな所……。心理の世界……。


 それは明けない夜だった。

 それは白い雪だった。

 それは都会の現実世界だった。

 それはアマチュアの音楽だった。

 それは緑色の風だった。

 それは誰かの歌声の中だった。

 

 雪の中に埋もれているのは、無数の茶色のクマのぬいぐるみ。どこか悲しそうに眠るぬいぐるみ。

 空から光の雪が降りしきり、光は消えることが無い。どこか悔しそうにケガをした足をさすっている光。

 ビルは100階建てもあろう程の超高層ビル。遊んで遊んで遊んで、働かなかったから立派な家に住めなかった青年のどこか寂しさの残る立派なビル群。

 

 ヤエザキにとって共感できる心理と言えば、何処か寂しそうに埋もれるクマのぬいぐるみぐらいだろう。それ以外は自業自得だろうと目を背けたくなる。

 

 それと白ヤエザキと黒ヤエザキの変化がもう一つあった。

 剣だ、剣の色が変わっていた。

 赤に。

 血に。

 A型の血に。

 血のように赤いエフェクトに。

 ドロッとした今にも固まりそうなその剣先の血は、止まることなく流れ続けている。

 2人の剣の形も変わっていた。

 星剣『ミルキーウェイ』。

 天の川の意味を形作ったその剣が赤く濁っている、カサブタになりそうでなりきれない半端な固さと柔らかさ。

 それらがそっと雪の温度で包み込むように氷ついてゆく。

 白ヤエザキは。 ブン! と横に剣を振ると、剣先から血が流れ落ちて雪の白に染みつく。そして凍る。


 これらが天上院咲の今の心の中の情景なのだろう。

 夏かと言えば「違う」と答え。闇かと言えば「違う」と答える。自分の中の違う違う違うを逆説的に導き出した結果がこれだ。

 本当は昼とか、海とか、星空とかの心情にしたかったのだろう。でもそれじゃあ【彼女じゃない】と答えてしまう。

 最後に花かと質問されたら「違う!!」と答え。結果、花のないビル群だけが残ってしまった。

 残ったアクセントと言えば茶色のクマのぬいぐるみ。


 ヤエザキが言う。

「ここが、最終決戦の舞台……」

 なんか想像してた最終決戦の舞台と違うな思った、それはきっと夢の中での理想なんだなと思った。こっちが現実。

 アナザーヤエザキが言う。

『ずいぶんと寂しい場所だな』


 そして、心細い歌が聞こえる。今にも消えそうなか細い声。しかし確かにそこにあって、皆が無視して素通りしてしまいそうな。人気のない声。

「だけど、あったかい」

『うん。あったかい、ちょっとだけ』

 そう、言い終わると2人は剣を構える。

 ゆっくり、歩く。

 ゆっくり、駆ける。

 ゆっくり、走る。

 ゆっくり、飛ぶ。

 ゆっくり、面は線になり。

 ゆっくり、線は点になり。

 そして2人の赤い剣が激突し。

 血しぶきをばら撒き。


 弾けて凍った。


 瞬間――、【後回しにされた】意思のように。

 ドゴン! とあたりの地面割り、衝撃波が走り、ビル群が傾いた。


 確実に前へ進む一歩だけが2人の生きた証なんだと、前進と前進がぶつかった。

 花血で花血を洗う闘争が、彼女たちにはお似合いだった。


『エボリューション・極!!』

「エボリューション・白!!」


 方やガチ両手、方やガチ無手の闘争が始まった。だがそこには、ここには、この場所には。設定というくだらない概念は無かった。

 特殊能力はただかき消え、速すぎて1週回って普通の剣劇になるようなそんな感覚。ただただ、どっちが強いか殴り合いしようぜ。という技巧のみが先行する舞台となっていた。だからこそ解るものがある。お互いがお互いを強いと認めている。だからこそ……。

「『全力で、勝つ!!』」

 その意志に揺るぎはない。


 雪の深さは自身の膝下まで達していた、普通に雪深いこの状況では足が思うように動かない。結果、上半身だけが動く形になる。別に今の状態なら空だって飛べるし瞬間移動で宇宙にだって行ける。けどそうしない。

 ただ剣を持ち、ただ足を地に踏み、ただ阿吽の呼吸で殺しに行く。

 姉が一撃でも食らったら死ぬような殺陣を見せてくれた、今度のもそう。全力の死合で先に一撃受けたら負け、それ以外は全部おあいこ。

 力の有無、技の有無、心の有無。呼吸、心拍、空気、波動。これら偶然と必然と自然で織りなすワルツは他では観ることが出来ない。ただ2人、仮面木人だけがこの死合を見守り手出しはしない。

 回転し、牙突し、重心をずらし、タイミングを計り、隙を見て攻撃する。一撃が即死。

 デコピンだろうと、蹴りだろうと、パンチだろうと、それこそ普通の刀傷でも即死。

 命と命を天秤にかけた存在の証明。お互い、自分は死なないとは思っていない。むしろその逆。【死ぬのが怖い】だから、火事場のバカ力でそれを食い止める。お互いが最終決戦、お互いが全力。だからこそのパリィ。

 相打ち、相討ち、相撃ち。この目にも止まらぬ速さとも遅さとも呼べる極上の戦に一体どれだけ歩いて来ただろう。

 もはやステータスなど無意味、もはや特殊能力など無意味、もはや心理戦など無意味、ただあるのは剣劇のみで。剣こそがその物語を語る。右に行ったとか、左に行ったとか。速度や握力や重量が無いこの描写に。一体何の価値があるというのか。あるのは積み重ねて来た時間。想像力の中で彼女らは自由に剣劇を交わしている。

 だから、この小さな歌の前で。最大限の経緯を払って、これまでの謝罪と意義と意味と愛でもって。その存在を叩き込む。刻み付ける。

 剣を通して、相手の眼に脳に心に。

 

 【私はここにいるぞと名を刻む。】


 そして。

「うえあああああああああああああああああああああ!!!!」

 左上から右下斜めに思いっきりぶった切った。


《アナザーヤエザキ戦闘不能、勝者ヤエザキ》


「お、終わった。……勝った……」

 自分に勝てた、そう思った。しかし。


 【黒い球体】の世界が割れる。仮面木人達が告げる。

『『汝らの戦い、見事なり。さぁ! 【見事】の先へ行け!!』』

 

《マスターキーが使用されました『ドアの世界』の扉が閉じられます。》


 断絶された、切り離された世界から。アナザーヤエザキとヤエザキは帰還した。



 天上院姫/農林水サンのログには。

《状態異常【α忘却あるふぁぼうきゃく】の効果が切れました》

 としか無かった、その記憶を知る者は誰も居なかった。時間はどれくらい流れたのだろう、ほとんど一瞬。同時に、今ある戦場に体が引っ張られ。心と体がデジタル空間の地面に足を付ける。

『負けた、のか……』

「はぁ……はぁ……」

『だが、ここは戦場。1人の勝敗で戦いは決しない。時間もまだある』


《アナザーヤエザキのHP全損を確認、スタート地点へ死に戻ります》


 ギュン! っと白い光と共に天へと昇ってゆくアナザーヤエザキ。

『さぁ、第二ラウンドと行こうじゃないか』

 敵は強者でまたまだ居る、時間もたっぷりまだまだある、なのに守りたいものは一杯で……。これはチーム戦なんだと実感させられた。全部を独りで片付けちゃいけないんだと実感させられる。

「ラウンド制なんて聞いてないよ……」

 深い吐息が脈打つ。瞳の光は、まだ消えていない。

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名を上げる。ボカロBGM:最終決戦~ファイナルバトル~
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