第206話「15+α日目」★
『社長、ちょっと気になる声がありました』
「ん? 何じゃ?」
エレメンタルマスター・オンラインのゲーム内にダイブしていた、天上院姫/農林水サンは。運営側との電話でその声が伝えられた。
『Bランク以下のプレイヤーがついて行けてないそうです、今回のSSSイベントは期間も長いですし。軽めのイベントを用意してはいかがでしょうか?』
「なるほど、確かにそうじゃな。……じゃあ今からイベント作るから、それを『世界樹シスターブレス』に組み込んで変換してバラまいてくれ」
『かしこまりました』
言うと農林水サンはカタカタとデジタルのキーボードを打ち込んで、イベントを生成する。
【アヒル隊長と温泉に入ろう!】難易度E
《温泉旅館イイユダナ》で、アヒルのおもちゃと温泉に入ろう!
ルールは簡単、アヒルのおもちゃと一緒に温泉に入るだけ!
温泉卵も食べられるよ!
「はい、これで送信。っと」
簡単に済ませたこのイベントで、どんなドラマが待っているのかはプレイヤーのみぞ知ることとなる。
「Bランク以上の奇天烈な動きは楽しませてもらってるが。ゲームに参加できないのは死活問題だからな~」
『社長がα忘却なんてトラップ作ったからですよ』
「それは舞台裏や非公開シナリオまで組み込む輩がいるからじゃろーが! まあ難易度を上げたのは事実じゃが……」
実際、この前もSランククエストを作っておきながら。その存在をすっかり忘れていたサン社長。
「んじゃ、引き続き面倒な雑務を頼む」
『かしこまりました』
運営と社長との通信はここで切れた。
◆
仮想世界。
【日本時間】11月15日22時00分。
「いったん引け―! 隊列を立て直せー!」
「後衛で地図が出来たらしいぞ! 陣形を組み直せ!」
「やっと今戦ってる場所が解るのか、ありがてー」
どこかで誰かの声がした、人の波とは自分では制御できないほど無力で滑稽である。その流れに身を任せないと戦場では死を意味するので、勿論、その他B~Sランクの冒険者もそうする。
そして1時間もすれば、全てのプレイヤーないしNPCは。各々の布陣に身を固めた。
英雄の村、ギルド長会議室。
会議と言っても【あまりにも人数が多すぎるので】ギルド長の中から更に選ばれた。【長の中の長】の4名に集まってもらった。最も、今回のみの例外も居る。
ギルド『放課後クラブ』ギルドマスター、ヤエザキ。
ギルド『最果ての軍勢』ギルドマスター、不動武。
ギルド『カイガイ』ギルドマスター、メダル。
ギルド『非理法権天』ギルドマスター、湘南桃花。
あとついでに、ゲームマスターである農林水サンは見守る立場でそばにいる。後ろで壁に腰かけている。
ギルマス桃花は考える「さて、何処から話したものか……」と長すぎる話を他のギルドメンバーから聞いた後に。「なるほど、そういうことね」と、ほぼさっき自分の中で整理できた状況である。
「まず、この戦争は【もう終わってる】のよ。だから……」
「【終わってない】」
不動武が、世界をフカンしながら言う。
「いや終わってる」
「まだ終わってない」
「……」
「……」
重たい空気が流れる。
ヤエザキは自分の状況を言う。
「えっと、私はこの戦争を見守りに来ただけで。別に戦いに来たわけじゃ」
「んなこと言ったって、ラスボスお前じゃないか。ラスボスの情報を教えてくれよ」
メダルが「当然だろ?」とばかりに言う。
「いやそんなこと言われたって本気で困るんですけど……しかも何気に主軸の配置にされてるし」
4人が4人問題が山済みで、各々勝手に主張する。
「まずマム姉貴とカイ兄貴が!」
「死の戻り」
「崖谷で!」
「温泉旅館!」
「ラスボスの情報!」
「英雄の剣士!」
「飛竜や空母!」
ワイのワイの言ってても全然話が前に進まないので、ヤエザキが音を上げた。
「お姉ちゃん。いや、ゲームマスター。頼むから進行指揮して! 全然進まない!」
仕方がないので、ゲームマスターの農林水サンが妹のお願いと言うことで。口を挟むことにした。
「しょうがない。じゃあ勝利条件だけ言おう」
4人が静寂の中見守る。
「勝利条件は、アナザーヤエザキの撃破。あとは自由、以上。」
単的で短く結論を述べた。桃花がシリアスなツッコミを入れる。
「……作戦は?」
「どうせ作戦作ってもお前ら破るから意味ない」
全ての結論が集約されていた。
でもそれだけでは不安なので武が続ける。
「わかった。それでも良いが、この戦争……イベント中は折角連絡がすぐ取れるんだ。連絡は密に取って欲しい」
そこは全員同意出来た。ゲームマスターが最後に気の抜けた号令を出す。
「はい、んじゃ皆自由にぶっ倒せ。解散~」
会議に意味があったか無かったのかはわからないが、一応認識の齟齬は確認できた。




