第203話「アナザーヤエザキ」
一つ注意するところと言えば。『アナザーサキ』ではなく『アナザーヤエザキ』である。
ステータスは全て9999だった。HPも9999だった。MPも9999だった。
数字上もうこれ以上は無いと言うほどの攻撃だった。
物理上その攻撃は今後二度とないと言うほどの咆哮を上げた。
その力は誰も見た事が無いと言うほどの圧倒的な力だけがそこにはあった。
その脚力はもはや誰も追いつけないほどの唯一無二の速度を持っていた。
その命中率は1km先の標的を射止めるほどの命中率を持っていた。
その魔力は大魔術師が一生を賭けても到底及ばないほどの圧倒的な魔力が備わっていた。
その体力はマラソンのように惑星アナクシマンドロスを何十、何百、何万週走ってもしても疲れないほどの無尽蔵の体力を持っていた。
その知力はEMOの全ての専門用語を正確に理解できるほどの完全記憶能力を持っていた。
その運は0.001%の砂金を見つけられるほどの豪運を持っていた。
剣を一振りすれば地面が割れ、真空波が飛ぶ。
走れば光を追い越し。
必殺技を放てば隙が大きくなるのでもはや通常攻撃の方が強いという領域に達し。
魔法は上級技を打ち放題、演唱時間も0.1秒、威力もすべて9999ダメージのマックス。
自然回復も1秒でHP9999回復するので実質死なない無敵状態。
宝箱を開ければ全て一つしか手に入らないレアアイテムを手に入れてしまいそうな気がした。
神に祝福されたような天性の才能を持ったような。
全ての重りを外されたような。
ゲーム上許された最大級の富を得たような。そんな感覚に包まれる。スペックは最大級。
『だから』
『だから……』
『だから私は……!』
《ピピピ……。》
《思考管理能力。――冷静。》
《認識誤差――了承。》
《アップデート。アップデート。アップデート。》
《ゲーム内で実現可能か――――可能。》
《安全性、危険であるが制御可能範囲。――問題なし》
《『アナザーヤエザキ』……フィールドに出現させます》
突如、【天上からそれは舞い降りる】そして。それは英雄の剣士と湘南桃花の狭間に出現した。そこにはヤエザキが居る。ヤエザキの目の前に現れる、地図を作る余裕はこれで無くなった。
「な……!」
湘南桃花がマム姉貴を抑えながら言う。
「来たか、まあどの道。倒さなきゃならん敵だよな」
同時に全プレイヤーにログが表示される。
《難易度SSS。イベント『ザ・エンドオブ・アリスストーリー』、エレメンタルマスター・オンラインの【真のラスボス】が出現しました》
◆
『アナザーヤエザキ』難易度SSS
攻撃力:MAX
防御力:MAX
素早さ:MAX
賢さ:MAX
その他:MAX
特殊能力:認識した上限のMAXに常時自動アップデート。
◆
『だから私は、こう言うんだ』
冷静と情熱の間に挟まれた、低温の声が。緊張感と共にヤエザキの背筋に悪寒が走る。
『言葉は不要、剣を交えれば。お前の【弱さ】と私の【強さ】、どっちが【優秀】か解る』
それは、最高でもなければ最低でもないし。後だろうが先だろうかという、上下左右前後の問題ではない。
知ってしまった私達の、知らなかったころに戻れない私達の。課せられた宿題。
強さとは。王とは。神とは。最果てとは。巧みさとは。螺旋とは。因果とは。環境とは。小手先とは。廻るとは。愛とは。結局それらは何だったのか。
こいつと剣を交えれば解る。
だから天上院咲は【剣】を取る。
「誰かに負けるのは良い、でも自分にだけは負けられない!」
そしてアナザーヤエザキはこう切り出す。
『一番強かったころだ』
「いいえ、一番――! バカだったころよ!!!!」
お姉ちゃんはコレに、互角に戦って。そして負けたんだ。
演出だったかもしれない。偽善だったかもしれない。最高最善の悪役を演じられたのかもしれない。
でも。
「お前にだけは負けられない!!!!」
心と心。影と影。魂と魂。命と命を賭けた戦いだった。
これは紛れもない聖戦だ。




