第201話「10+α日目」
目下何とかしなければならいのは【α忘却】のダメージの大きさだと知ったギルド『放課後クラブ』は3人で対策を優先することに決めた。遺跡の地上に降りたいけれど、それより優先すべきはこの記憶の齟齬の爆発をいかにして乗り切るかにかかっていたからだ。
「このα忘却ってさあ、何とかならないの?」
「呪いの攻撃を受けて、相手はもう死んでるみたいな状態だから。肉体的に『おいこの状態異常を解け』ってのはちょっと無理だ。いや、出来なくも無いけど」
「ん? できるの」
「ちょっと机上の空論になるけど一例をあげるぞ」
1:まず、時間を操るレアアイテムを取る。
2:ゲーム内の時間を巻き戻して仮面木人の所まで戻る。
3:木人の自爆攻撃を受ける前に自爆行為を解除して不発に終わらせる。
ヤエザキが「うーん」とうなる。
「ちょっと現実的じゃないわね」
「じゃろ? しかしこの状態異常は逆に私達を守っているとも言える。ダメージ量はまぁ、運営側の調整ミスかもしれんが」
「どゆこと?」
農林水サンが話す。
「この攻撃は未来で起こる私達にとっての『不都合』を過去に居る木人達が行ったことにして処理するものだ」
「ん? また難しい話?」
「そうでもない。仕方ない、ゲームマスター権限で具体例を見せてやろう」
そう農林水サンは言うと。「システムコール、ID、天上院姫」と言ってから。
「まず特に意味は無いが、この蒼い短剣を咲の脇腹に刺すとする」
グサリ!
「グフ!」
いきなりの殺害行為に驚く妹。ダメージは1だったが絵ずらがよくない。農林水サンが続ける。
「システムコール、仮面木人に命令。【ヤエザキのダメージを仮面木人がやったことにせよ】を実行!」
そう言うと、またあのログが出て来た。
《時間です。状態異常【α忘却】による、未来からの小爆発【の一部】を受けます》
『『我らは守護神! 聖域を脅かすものを討ち滅ぼす者なり!!!!』』
大爆発が小爆発になってたが、目の前で爆発が起こる。
プスン。
変な空気砲みたいな音が鳴ってから、ヤエザキは脇腹を観てみたら。刺さっていた蒼い短剣ごと無くなっていた。いや、刺した事実すら【無かったことにされた】。
同時に記憶が改ざんされる。
「今、ヤエザキは私から蒼い短剣で刺された記憶は無い。【仮面木人が蒼い短剣でヤエザキの脇腹を刺した】に記憶が改ざんされている」
「え、え~……。それじゃあ私にはわからないじゃない。無自覚よ」
横で観ていたメイちゃんには解る。
「第三者から観なければ解らないわね、これ」
「そこで記憶の混乱だ。こうやって説明しないと理解できない」
「……なるほど……混乱することだけは解った。その後に仮面木人に勝った記憶もある、でも何で爆破?」
そこはちょっと笑いながら農林水サンがモブ兵士の方を指さす。
「そこは木人の悪あがきと、まあ平たく言えば。演出じゃな。モブにも被害が及んで美味しい」
いい迷惑である。「要するにだ」と農林水サンは種明かしをする。
「【全ての不都合を過去にする】ってことなのじゃ! しかも今回は【過去に戻って誤差修正】どころじゃない。【数日単位の誤差修正】じゃ」
それはやってて大丈夫なのか? と疑問に思うが、一応聞く。
「数日単位の誤差修正ってなに?」
「それ、説明しなきゃダメっすか……?」
何故か敬語になった。
「だめ」
「えっと、少なくとも1日から9日までは。仮面木人達のイベントで先のダメージを軽減できるってこと。つまり、未来の身代わりって感じじゃな。時系列がブラックボックスになってる事は前に言った通り」
「ちょっと解んないけど。この前のお姉ちゃんの話よりかはわかる」
そこはちょっと複雑な心境になる姉。
「だから、この状態異常は。爆発さえなければ成ってて損は無いんじゃよ」
「なるほど~」
「ま、まあ解ったわ……。だから守護神と高らかに宣言してるわけね。で、威力の方の対策はどうすんの?」
「防御力の高い装備を身に着けるか、一撃で死なない道具を装備するか、自動回復をするようにするか。じゃな」
記憶の混乱は防がない方がいいあたり、やはり面倒な置き土産だな。と思うヤエザキ。
頭のいい天命アリス=スズちゃん、略称メイちゃんは言う。
「回避も防御も不可能だもんね、【ダメージを受けたのは事実だから】ダメージを受けない世界線にしたら別の時間線に行っちゃう」
「そゆことじゃ、頭良いなあ~メイちゃんは」
「姫姉ちゃんの悪知恵には叶わないかもしれないけどね」
そんなこんなの談笑になった。
仮想世界、西暦2034年
【日本時間】11月10日06時00分。
「よし、一通り説明は終わったから。とりあえず遺跡を下りて地上組と合流するぞ」
「異議なし」
「あいあいさ~」
そう言って放課後クラブの3人は遺跡の地上の奥へ歩いて移動した。合流先には湘南桃花が居座っていた。
「あら? あんたたちがSランクイベントに参加してるなんて珍しいわね。どったの?」
ヤエザキは膨れ上がる。
「好きで参加してるわけじゃないです、私は見守りに来ただけなの」
「ふーん。セミプロってのも大変ね」
農林水サンは状況を聞く。
「で、現状どうなってる? わしらは何をすればいい?」
「現状。私、湘南桃花はビ〇グマムっぽいのと交戦中、最前線組はカ〇ドウっぽいのと交戦中。かな【英雄の剣士】は、まだ目覚める様子は無し」
「メタぁ!?」
「まぁ、メタっぽく言うのが私だからね。で、何をすればいいかって話だけど。この遺跡を中心に、東西南北に何があるのか、詳細な地図製作をお願い。動きにくい」
それは、周りのプレイヤーが感じていることだった。
「解った、じゃあビ〇グマムっぽいのとの交戦・防衛は桃花っちに任せる」
そこは当然、元気よく答える。
「任されよう」
こうして。
前方組は、空賊メダル&山賊リー&海賊ステッキVSカ〇ドウ、ぽいの。
中間組は、桃花先生VSビ〇グマム、ぽいの。
後方組は、英雄の剣士の目覚めを待ちながら、遺跡の地図製作に専念。
という図式になった。




