第199話「7+α日目」
現実世界。西暦2034年11月7日13時00分。
「で、初見の私にどう説明してくれるのよ? 今のこの状況」
「えっと、ある時。黄色いスズが居ました。次にピンクのスズが居ました。次に蒼・白・黒・赤となり。今のAIスズが誕生しました……」
「んん~……」
何が何だか全然わからなかった。
「ごめん! 記憶してたスズちゃんと! 記録してたスズちゃんが重なって。曖昧で、全然わからない!」
姫という、説明する側が理解してないのだから説明できないのは道理である。困った咲は話を継ぐ。
「じゃあ話を噛み砕いて。今の私の置かれている状況だけでも教えてよ」
「えっと~……スズちゃんのストーリーの1時から10時まで見たから、その先の11時・12時を見届けてストーリーを1週させて終わらせて。……かな」
「そして戦いは続く?」
「そう」
解るような解らないような解説に戸惑う。
「ちなみに全ての時間の私が集まった後に、スズちゃんにアッパーカットする場面。巨大化スズちゃんも居る」
説明すればするほど、余計にわけがわからなかった。咲は混乱から抜け出すよう努力する。
「ちなみに私が最後尾なら、最前頭? は誰になるの」
「私、【らしい】……としか言えない」
「あぁ……」
これまた要領を得ない。なので話を変える。
「じゃあ。……ゴールはドコ? 巨悪はだれ?」
「私だ」
なぜか神速・即答で帰って来る。
「何それ? お姉ちゃんを倒せばゴールって事? 何故? いつ、どこから巨悪になったの? そんなことしてないのに」
「咲、一応補足しておくが。生まれる前から巨悪な人間なんていない」
まぁ、そりゃファンタジーだわなあ。と、そこは要領を得る。理解できる。どこかで自我が芽生え、何らかのエピソードがあって。その人は悪への道を進むのだ。
「私、天上院姫は。神道社社長になる寸前のところで、巨悪としての自我が【目覚めた】」
「スズちゃんの話は何処に行ったし」
話が繋がらない。次元が繋がっていない。
「咲、お前は物語が好きだったよなあ?」
「え? あぁ、うん。そうね」
「並行世界とか、多世界とか、マルチバースとか。別ジャンルの作品とか。全部繋がってますと言われて理解できるか?」
「知っている・読んで理解できているのなら。繋がってると【おぼろげに】理解は出来る。ぼーっとする感じだけど。まあ普通は理解できないと思う」
「だよなぁ」と。姫も同意する。何を躊躇してるんだろう?
「はっきり言ってよ! じゃあ目の前のゴールの巨悪の姫姉ちゃんを! 私はどうやって倒せばいいのよ!」
「お前じゃない」
「いやいやいやいや!」
話が繋がらない。
「少なくとも、【倒されたい】のはお前じゃない」
「じゃあ、誰やねん!」
「む~~~~~……」
「何で黙る!」
まずい、このままでは『第2次姉妹喧嘩』に発展しかねない。流れを変えなければ。何とかして流れを変えたい姫は、話題を変える。
「アイス食べない?」
「このめっちゃ寒い11月に? てか何でアイス?」
「お、終わる世界を食べれるから……」
意味が解らない……。
「まあ、そういうわけで。難易度SSSのイベントの最後尾で回復に専念しよう、てわけ」
「繋がってない」
「星は繋がってる」
「は?」
「ごめん、この話やめよ。咲と喧嘩したくない……ごめん」
「ガチあやまりされても困るんだけど……」
「ごめん……」
妹の咲だって、喧嘩したいから口喧嘩してるわけではない。
「ま、まあ『そういうことだから最後尾で回復に専念しよう』てのは。今ので何となく解った」
「あ! ありがとう!」
「むしろそこだけしか解らなかったのが凄いけどね」
はぁ、とため息がつく咲。
「と、というわけで。兎に角、仲直りのシルシにアイス食べよう。てことで……」
話をスッとすり替えられた気がする。はぁ、と。またため息をつく咲。ここまで繋がらないのも逆に凄い。百戦錬磨の姉もタジタジだ。
「何のアイス食べてもいいの?」
「うん!」
そこだけ元気だった。
と、その時。天上院姫はまた【面白そうなこと】を考えてしまった。天井知らずの悪だくみが始まる。
「ふむ、流石難易度SSS。それぐらいの難易度じゃなきゃな」
「?」
◆
《ようこそヤエザキ様。エレメンタルマスター・オンライン、ログインします》
《赤い空の遺跡》
「あ、どうだった? お姉ちゃんたち」
「うん、解んない事がわかった」
「んん?」
◆
仮想世界、西暦2034年
【日本時間】11月7日15時00分。
Bランクギルド、ランキング5位『カイガイ』。
編成人数3人と+α。
主に海外勢がゲームプレイしている団体で、日本人がその名をつけた。ここのゲーマー達の最大の特徴は【時差がある】ことにつきる。ヤエザキの居るギルドは『放課後クラブ』、Bランク3位である。
「このイベントだけは逃さねえ! ぜってーに上位陣に入ってやる!」
アメリカプレイヤー『メダル』
【北アメリカ、ニューヨーク時間】11月7日02時00分。日本との時差-13時間。
ゲーム内職業:空賊
「熱くなるな、まだ始まったばかりだぞ」
中国プレイヤー『リー』
【東アジア、上海時間】11月7日14時00分。日本との時差-1時間。
ゲーム内ステータス。
職業:山賊
「脳が震える―!」
イギリスプレイヤー『ステッキ』
【北ヨーロッパ、イギリス】11月7日07時00分。日本との時差-8時間。
ゲーム内ステータス。
職業:海賊
彼らは仲間内で、誰かが寝たら誰かが起き。誰かが寝たら誰かが起き。を繰り返している。つまり【活動時間が止まらない】のである。
そんな彼らは他のプレイヤーが苦戦していた、遺跡までの距離を。このアクティブ数の多さで乗り越えた。
周りには、誰が仕掛けたかわからないモブの海賊。と言うには本職がげんなりするほどの低装備だった。あのモブ達には『賊』と言う、1文字だけがお似合いだろう。
そんななか。中国プレイヤー、リーが。周りのプレイヤーを探査してステータス画面を開いていると。ある人物達を発見する。
「おい、俺達と同じBランクギルド『放課後クラブ』が居るぞ」
アメリカプレイヤーメダルが吠える。
「マジか! 会いてえなあ! 戦いてえなあー!」
イギリスプレイヤーステッキがそれをなだめる。
「PVPか? やめとけ。それより目の前の敵は目下あのふざけた賊だ。遺跡に侵入しようとするNPCの敵軍を倒して貢献度を稼ぐ」
メダルは残念そうに鳴く。
「そっかー直接対決は無理かあ~。そりゃそうだよなぁ、この乱戦じゃなぁ。解ってる、解ってるよ~」
リーは「しょうがないだろ」とメダルを制する。
「今回は異例中の異例の難易度SSSイベントだ、他人と遊んでる余裕なんてねーよ」
ステッキもそれには同意する。
「何せガチリアルタイムイベントだ、精々自分の国益に叶う。自国のことを第1に考えるのが我が身の為だと思うぜ」
国が違えば考え方も違う。というかまず言語が違う。そんな中でも育まれてきたこのオンラインゲームだ。
ステッキが追加する。
「〇ッキーマウス見つけて拝んで、遠目から写真を撮るぐらいにしとけ。解ってないかもしれないが、俺達は国の代表だ。日本人に我が国の良さをアピールして帰るぐらいにしとけ」
リーがメダルに言う。
「メダル、マジで変な事するなよ? ステッキにも迷惑がかかる。戦闘したいなら日本人を妨害してる連中をやれ」
「たーく! 会っても居ないのに接待プレイかよ! ……まあ難易度SSSだからここまで来るだけでもヘトヘトだけどな……」
何故かリーが指揮をとる。
「解ったら、まずは遺跡の地上に降りて。日本人助けながら貢献度稼ぎだ!」
「放課後クラブ! 今日の所はこれぐらいにしといてやる!」
「まだ何もしてねーだろ!」
「おっしゃー! 野郎ども! 最前線に出るぞー!」
『おォ――――!!!!』
熱い男ガチプレイヤー3人衆とその他が、危険な戦場を駆けて行った。




