第198話「5+α日目2」
俺、Sランク冒険者A。これでも立派な廃人だ。心の底から立派な廃人よ、愚かしくもあり賢くもある。
俺は迷わずに遺跡へと歩を進めた。俺は知っていたからだ、そこが戦場になると。一目散に加勢しなければならないと。
俺は知っていた。地神と太陽神と創造神のアカウントがこのゲームをクリアしたら手に入ると。だからそれに相対する、アナザー的な敵を倒せばいいと。
勝つためには先頭だ。前に居なければならない。
言葉など不要、ただ言わず。実行に移して結果を残すのみ。
「スキル発動!『大車輪』!!」
瞬く間に、赤と青色ののゴブリン2体が倒される。
次の敵は不知火色の飛竜だ、竜尾と審判の眼を持った竜が俺に襲い掛かってくる。
俺はそれに対して付加価値を付けたオリジナルスキル『夢想剣』で相対する、相手の攻撃を絶無とするこのスキルで俺は苦労もなく倒して。竜尾と審判のスキルをバトル&ゲットする。
ポケットの中の飴玉を舐める。『三ツ矢の塩味』という怪異的な味を堪能して、脳内をリセットさせる。
「悪いな空飛ぶ飛竜、お前と同じ失敗はしない」
するわけにもいかないしな、それこそ本物の愚か者だ。次は喋るAI搭載のゴブリンだった。
「疾風迅雷! 質実剛健! 神出鬼没!」
言葉だけ並べられても、面白くも何ともない。
「ギャ――――!」
ゴブリンは極彩色のポリゴン片となって綺麗に消えた。
「美しく散らせるのがせめてもの情けか」
次のゴブリンは赤色の短剣を右手に持ち、ひるんだ所を左手に持ち替えて。仰け反らせる。
咆哮による空気砲を放ってきたので、楽しさ半分。辛さ半分の感情を混ぜて。無手による真空波で空気砲もゴブリンも倒した。
ドロップアイテムはSレアばかり、流石にここまで行くと高級なのがドロップするな。
「最高だぜ……!」
思わずクスリとそう呟く、おれはこれでもSランクギルド『最果ての軍勢』を追放された身だ。実力は有るのに何故ダメだったのか判らない。理解に苦しむ。正解を教えて欲しいものだ。
まあ、そんな愚痴はいい。
遺跡についたところで一休みをする。過程は重要だ。
案外ちょろいもんだな、そう俺は思った。だが、その思惑は次の行動によりかき消される。
先の道を軽業と共に進む。何でもできる、そんな気がした。――と、その瞬間。青色の線が入った仮面木人と霧森が場所は遺跡なのに出現。その中から姿を現した。
「お前じゃない」
言うとその木人は得体の知れないカードを取り出す。
《アタックバースト 桃花!》
「絶剣!」
そのカードの効果が発動された瞬間――。
時系列と言う名のルートそのものが断絶された。
瞬き一つしたした時には、俺はもうスタート地点に死に戻りしていた。
何だったんだ今のは、攻撃をした動作も無かった。攻撃をされた動作も無かった。まるで初めから何もしていないかのように、微動だにせず立っていただけのような結果だけが残った。
《『ザ・エンドオブ・アリスストーリー』を開催いたします! 皆様ふるってご参加してください! ご武運を!》
始まりのゴングが再び鳴る、こんな所で折れてたまるか! 必ず攻略してやる!
◆
【α忘却】の断片、または過去話。
《ドアの世界》の《大広間》、天上院姫/農林水サンは青い仮面木人ザナドゥを相手に苦戦していた。
《アタックバースト フューチャーカード Sランク冒険者A!》
瞬間、黒渦からのダイレクトパンチが彼女の顔面に当たった。
「な! 何じゃこれ!? 先の時間に行っても戻される!?」
時間が逆転し、何度も何度も殴られる。「こんなかんじ」が「じんかなんこ」みたいな感じに逆再生され戻ってくる。
青い仮面木人はやり過ぎたかな? と思ったが、これくらいが彼女相手にはちょうどいい。
『転生ごときで逃げられると思っているのか? ゲームマスターよ』
「お姉ちゃん!」
天上院咲/ヤエザキは、前方にいる姉の方に気が集中してしまっていた。
赤い仮面木人シェイクはあたりの無数部屋の気配を感知して、こう述べる。
『人の心とは愉快なものだな、言葉を足さずとも本能で【誰】を倒すべきか読み取ってるように見える。主に最前線組はな』
試されたような気がした最後尾組のヤエザキは皆の気持ちを代弁する。
「人間はそこまで弱くない! あなたの想像なんて! 簡単に超えてやるわ!」
『で、お前は【剣】を取らないのか?』
「こ、これからよこれから! ちょっと集中力が散漫になっちゃってるだけだから。やっぱ前線の行動って目立つし……」
『いいわけはそれだけか?』
「……、あなたみたいな【借り物】の力に負けたりなんかしない!」
そこは本音だった。だから、有名な名言と共に言い返す。自分の言葉じゃないのが悔しいが。
「一つの【強さ】を極限まで使いこなす道を選ばなかった半端者に、負けるわけにはいかない!!」
『モノは言いよう……。なるほど、【らしい】な。なら、その強さに溺れて死ね!!』
意地と意地のぶつかり合いがここから始まった。




