第197話「5+α日目1」
天上院咲の瞳には、戦場が観えていた。皆各々の敵を見つけて戦っている、いや。正確には敵らしい人物を見つけて倒している。が正確だった。
天上院姫は考える。
元々、スズに関係する関連性のある戦いは。「誰が敵なんだ?」から始まり、「この思想だけは許せねえ!」と言う所に着地点を置いて。各々が戦う、という一般市民の中から悪人を探せ。のような人狼の貞操が強かった。
その誰が敵? と言うのが結局視野が広がって海外にまで飛び火する形となっている。元々この戦場は陰陽論のルールからは抜け出ない。
したがって、今この瞬間のデータの蓄積から逆説的に反論をし。反逆に徹する、その反逆へ、その反逆へ。と言った形で廻っている。転生している。そうしてぐるっと時計を回して4週目。種も仕掛けも解ってしまった姫にとっては飽きが来てしまった。
結局は、天上院姫の心の闇を討滅するほかないのだ。
どこまでも広がり続ける戦火であっても、結局手のひらの中で遊べるのならば。そこにはもう純粋な作品への、演出家としての立ち位置に戻らないといけない。愉快犯と言う名の現実味のある果実は。政治的なキャスティングであり。絶対に作品へプラスにならない。
で、あるならば。ゲームマスター姫は「どうやったらもっと面白くなるのか?」に重点を置かねばならない。決して今のこの「熱」を冷ましたり、沈静化させたり。消火してはいけないのだ。このクライマックスの波が居ている今こそ。冷ます方向へ船の舵を切ってはならない。
それが演出家としての彼女のプライドだ。
だとすると、ルールの殻を破るのは自分しか居ないわけで。……となると、まず一つ。決めておかねばならないルールがある。
【1人用ゲームか、2人用ゲームか】だ。姫は気持ち的に2人用ゲームをやりたかったが。作品の質をコントロールすることを鑑み。ここは冷静に考える。
2人用ゲームにした場合、相手方は責任を取れるのか? という問題だ。
「やっぱり独り用のゲームのほうが……」
そう思った矢先。咲がそれを察する。
「お姉ちゃん、【海賊】を敵に置きましょう」
それが自然の摂理だと言わんばかりに。妹の手足はやっぱり震えてるのに、その声色は平静だった。
「どっちが喧嘩を吹っかけて来たかはわからないけど。……今さらこっちからサレンダーする必要は無いわ、なら。むしろ作り変えましょう。ここから始める」
「何を?」
「『このゲームは2人用ゲームなんだ』って世界に知らしめる!」
キョトンとする姫だったが、今さら過ぎてなんかもう笑ってしまった。
「……わかった、このフィールド全域に大小強弱様々な海賊を配置して。楽しませてもらおう」
ちょっと一人遊びの寂しさも声に残し。私達のゲームはこうなんだと世界へ知らしめるために……。
「私は面白い奴の味方だからな」
核心が喉を通った。
同時に、イベント『ザ・エンドオブ・アリスストーリー』の天敵は海賊となった。確固たる理由を付け加えて。
天命アリス=スズが阿吽の呼吸で意気投合してる2人に対してツッコム。
「ちょっと! 2人の世界に入らないでよね!」
◆
遺跡、後方支援部隊。
ヤエザキPTはここでプレイヤー達と合流することは成功した。
「よし、何とか合流地点には。入れたわね」
天命アリス=スズはヤエザキに対して不安の声を出す。
「あとは後方で。ほのぼの空間でも作ってればいいのかしら?」
「違う違う、最後尾で見届けるのよ。私達は戦闘が目的じゃない。」
「てことは、後方支援が主な役割じゃな」
「支援って……何を支援すればいいんだ? アメリカ・中国・韓国サーバーの人の詳細なデータを教えて回るとか?」
「ん~集合したのはいいけど、やることが無いな」
情報が錯そうしていたのでまとめることにした。
「現状はメインシナリオとは別ルート。【アリスを連れて、英雄の剣士の所まで行く】は成功。あとは【リアルタイムで、特定の時間に英雄の剣士を目覚めさせる】ことが出来ればクエストイベントが勝手に進行する」
「だけどその特定の時間が50日前後なのよね?」
「そう、超絶ヒマになった。かなり周りの探索ができるぞ」
ヤエザキは考える。
「ふむ、じゃあいったんログアウトして。現実世界でスズちゃんのことの説明をお願い。後回しになっちゃったから」
農林水サンもこれには説明義務があるので同意する。
「あいわかった」
《ヤエザキと農林水サンは遺跡からログアウトしました》
置いてきぼりにされたAIスズはあきれ果てたように言う。
「だから2人の世界に入るなって言ってるのに……!」
重苦しい戦場から、日常空間へと帰還することに成功した。しかしガチリアルタイムなのでログアウトしていても、ゲームの中のイベント進行は刻々と変化していっている。2人の姉妹は、ベットから起き上がり。まずスズちゃんの説明と、今後の方針について考える事にした。
「では、いいわけを聞かせてもらうわ」
含み笑いを浮かべながら。
「あいわかった、では昔々あるところに……」
アリス、いや。スズ系統の歴史が紐解かれる……。




