第195話「2日目2」
――――あなたの望みが私の望みよ。
そしてヤエザキは夢から覚める。
「ここは……」
ヤエザキは夢の中で夢を見ていたのでなおさら混乱した。
「起きたか、『2重ダイブ』は体に毒だぞ? ここは《温泉旅館イイユダナ》だよ、リアルタイム時間だと……午後3時。まだ約60日ぐらいあるんだ。ゆっくり休め。」
ヤエザキは寝ぼけ眼に発言する。ヤエザキは昨日徹夜で頑張っていたことだけは覚えている。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん~?」
「こういう世界を、形作っちゃったのって私達なんだよね」
「……、そうだな。現実世界で寝て、夢の世界で寝て、その夢の中の声で目覚める。なんてカラクリにしちゃったのも私達だ」
現実も虚構も、関係あるし関係ない。そういう世界にしてしまったのは紛れもない事実だ。そこに責任感を感じなかったと言えば嘘になる。
「コレ、イベントだからログアウトしても。イベントは進行するのよね?」
「あぁ」
「じゃあ、一回起きて。散歩してくる」
「……? どうした、マジで変な夢でもみたのか?」
ちょっと含み笑いで答える、夢の夢の中で7つの大罪にボコボコにされて。夢から覚めて意図的に断罪を放ったら。それは勝ったと言えるのだろうか?
「……、うん。そんなところ」
全ての空は繋がっている。夢も現も、2次元も3次元も。【望んだら叶う】。じゃあ、ここまで自分を苦しめてるのは何?
「……私自身。やっぱ一回ログアウトしてくる」
察してくれたのか姉は優しく微笑むだけで見送った。
「ああ」
そう言い、妹はステータス画面からログアウトボタンを選択した。
《現実世界へログアウトします、ヤエザキ様。お疲れさまでした》
現実世界。西暦2034年11月02日15時30分。
「はあ、流石難易度SSS。疲労度が尋常じゃない……」
平静を装っていても、ガチリアルタイムは初めてなので。疲労は隠せなかった。誰が得するねん? とか思いながら上体を起こす。夢の世界からおはようございます。だ。
一通り散歩してからまた家に帰って来る。現実の空気を吸うのは久しぶりな気がした、深呼吸をして精神を安定させる。
時間は17時、もうすぐ夕飯の時間。
咲は姫をゲームの世界から起こして夕飯をすます。そして19時頃にもう一度布団に横になり、目を閉じ。電脳世界へダイブする。
◆
現実世界。西暦2034年11月02日19時00分
《ゲームの世界へようこそ、ヤエザキ様。お待ちしておりました》
《イベント名『ザ・エンドオブ・アリスストーリー』を継続します。フィールド名『迷いの霧森』、『温泉旅館イイユダナ』に転移します》
そこで再びヤエザキの意識は覚醒する。オンラインゲームの世界だ。
「さて、飛竜探しの続きするか」
「うん」
目下姉妹2人の目的は、このちょっと広いフィールドを軽快に移動できる。飛竜探しへと意識を向けていた。
「飛竜見つけたら何て名前つける?私は『ユグドラシル』なのじゃ」
「私は『飛焔』かなぁ」
理由はそれぞれありそうだが、割愛しておく。
農林水サンが話を本題に変える。
「さて、ここで問題だ。【アリスを連れて、英雄の剣士の所まで行く】と【英雄の剣士を連れてアリスの所に行く】どどどどうしよっか?」
こっちが聞きたいよ。と内心思うヤエザキ、しかしこの辺りはたぶん【自分で決めて良いのだ】。決定権は何だかんだでヤエザキにある。
「ん~分岐地点か~。そもそもログイン場所が迷いの霧森は予測不能だったし、流れ通りに行くなら。【アリスを連れて、英雄の剣士の所まで行く】だと思うよ? でなきゃ不自然だよ」
「ふーむ、そうなると。メインシナリオからガッツリずれる形になるな……」
「良いんじゃない? この場合2週目とか、強くてニューゲームとか」
具体的には吸血鬼大戦、フレ〇ムヘイズ大戦、ア〇ス大戦、なので。実質4週目なのでうんざりしている。
「たぶん、これからもずっと回って。廻り巡ってくんだよ? ここ、メインシナリオをなぞる必要ないよ」
「てーことは……。ちょっとシステムいじるぞ。【システムコマンド。ID、天上院姫】アリスを無条件召喚、からの……。アリスの会話発生、会話選択肢を4つ生成……。内容は……」
「いいの? システムいじっちゃって」
「言いも何もスタート地点から分岐しちゃってるんなら。どの道、新ルートだし作んなきゃどうしようもない。私の納得できるルートは自動生成されない」
小難しいことを言い始めた姫社長。姫のステータスウインドウは、プレイヤーのゲームウインドウとは違い。パソコンのキーボード型で、明らかに作りが運営側だった。
「【アリス幼少期を配置。背景を暗転。回想シーンで出現することにする。アリスが発声する会話は。「私は何なの?」で……】」
「……」
「できた、咲。あの樹の方に居る。後ろを向いてる幼少期アリスに話しかけてみてくれ」
◆
ヤエザキは言われるがままに、ゲーム風に。後ろを振り向いてるアリスに話しかけた。
すると背景が暗転する、何のために? ヤエザキにはわからない。そしてアリスが話す。
「私は何なの?」
すると選択肢が4つ出て来た。
【私の心】【私の影】【私の魂】【私の命】
「お姉ちゃんこれって……」
「ちょっと【命】を選択してくれ。新ルートだ。4周しないと出てこない」
「……わかった」
ヤエザキは【私の命】を選択する。文脈通りにすると、アリスはヤエザキの命そのものの存在、と言うことになってしまうが……。どういうことなのだろう? と首を傾げるヤエザキ。
するとさっきまで居たアリスもスウッ…っと闇の中に消えてゆく。どこかへ居なくなってしまった。
「え!? 何!? 何!? 何!?」
ヨゾラから出て来たのは『ドアの世界』、広い広い。
ドアしかない空間に。一つの大扉を守護する。2人のゴーレムが二柱のように座っていた。
『我は仮面木人ザナドゥ (有何無鏡)、この聖域を守護するもの』
『我は仮面木人シェイク (新混旧叶)、この聖域を守護するもの』
『『この部屋、この空間、この次元は。これから産まれるであろうアリスの揺り籠。よって、この部屋を踏破せし者はこの子の親となる』』
ヤエザキは農林水サンに向けて口を挟む。
「このルートではアリスはまだ生まれてないって事になってるの?」
「そうじゃ、そしてこの2人はその部屋を守る。守護神」
『汝らがこの子の親、足り得るか。その証はただ一つ!』
『強者であることのみ!』
『『さぁ戦え! この子に福音を与えてみせろ!!!!』』
ヤエザキは今更ながらサンに驚く。
「え!? もしかしてこれバトルイベント!? 何も準備してないんだけど!?!?」
「EXイベントじゃよ、負け確定かなこりゃ」
場所は、
《温泉旅館イイユダナ》から東へ徒歩10分。
《赤い短剣のお墓》から北へ徒歩5分。の所にある《赤色の大樹》だ。
そして私はこの場所、《ドアの世界》の《大広間》で数日間過ごす事となる。




