第193話「1日目」
現実世界。西暦2034年11月01日15時00分。
エレメンタルマスター・オンライン。イベント名は『ザ・エンドオブ・アリスストーリー』。訳すと『アリスの最後の物語』となるらし。
天上院咲は困っていた。そりゃあもう盛大に困っていた。
「は!? このイベントだけ【攻略組ガチ勢】に入って欲しい!? しかもリアルタイムで!? 誰が得すんねん!? 私エンジョイ勢だよ!?」
天上院姫は平謝りしていた。
「お願い! 今回だけ!! 【攻略組ガチ勢の最後尾】でいいから!? 全力でフォローだってするし」
「当たり前だ! 私を何だと思ってるんだ!?」
「いや~だって~でも~今回のラスボス【天上院咲のAI】を積んでるし~。【リアルタイムで学習しちゃう】からさあ~。無視するわけにもいかないし~、今回逃したらまた面倒な事になる!」
「プーサンケルナアー!!!!」
思わず「ふざけるな!」を露語が悪くなり、明後日の方向を向いている姉にチョップをかました咲。
「ごめん! 今回だけ! 今回だけずっと付き合ってほしい!」
「はぁ~……。付き合うっていつまで? イベント中?」
「約84日ぐらい?」
「絶対サバ読んでるだろそれ……」
「えっと~……。冬の期間中?」
「……」
苦しい言い訳だった。
「お願い! 歩くだけ! 見るだけでいいから!」
「嘘つけ! 絶対それ以外の厄介事に襲われるだろ!?」
「いや! でも! こればっかりは! やってもらわないと困るんだ! リアルで! 私が!」
「お前がかよ!? お姉ちゃん言ってる意味解ってる!? 【初見ルーキーが攻略組ガチ勢の最後尾でリアルタイムで進行を見届けろ】ってイベントなんだよ! 私だけ!」
「いやでも咲だって微妙にセミプロじゃん? 半分運営じゃん? 大丈夫! こっち側がフォローするから! これでトドメだから!」
「何のトドメだよ!?」
「たのむ! 頼む! タノムー!!」
天上院姫は平謝りしていた。心の中では土下座も同時にしていた。
「……一応聞いておく、それって【冬の終わりまで?】それとも【春の始まりまで?】」
微妙な言い回しが帰って来た。姫は咲の現状を踏まえ、ちゃんと答える。咲のためを考えて、振るえる声を噛み殺しながら……。
「さ、咲が冬の最後尾のゴールテープを切って、春の始まりまでゴールしてほしい。……これでどうだ?」
「む~……」
もう謝りっぱなしの姫である。さっきから頭下げっぱなしである。
「は~。わかった、じゃあ【春までね】。そっからは知らない」
「助かる! ありがとう!」
ちょっと間を開けて。
「……ちなみに、このゲームの私の難易度はどれぐらいなの? S?」
「【運営どころか社長の手に負えないレベル】だから、もう。難易度SSSで良いんじゃないかなあ~?」
もうちょっと間を開けてから、天上院咲はため息をする。
「春までって、私中学2年生じゃん。これじゃ新学期からも大変だ……」
先の先まで気にする妹だった。




