第187話「ボスラッシュ20」
「約束通り来てやったぜ」
「ほほう、賭けはまず私の1勝ですね」
「負け確定イベントで言われてもな……」
「はてさて、何処から話せばいいんでしょうかねえ~。頭の切り替えがうまくできないです」
「そんなのこっちが聞きたいわ」
『ピンクの宿屋』その前でグリゴロスとカニはくつろいでいた。賭けはカニちゃんの勝ち、よって題名『オーバーイヴ』のお話を聞かねばならない。
「そういやお前はプレイヤーなのか? AIなのか?」
「私の都合が悪いのでAIと言うことにしておきましょう」
「んん?」
明後日の方向に誤魔化す少女。
「ま、適当に話進めましょう、ではまず。昔々あるところに……」
◆オーバーイヴⅡ 南守村◆
その町にはドラゴンが向かっていた、噂に違わぬ悪竜で。神の化身とも呼ばれていた。一片の曇りもない真実を追い求めようとする存在。この竜は人の邪悪さを食べて成長する、今回もただの食事のつもりで悪竜が向かってきた。だが、思わぬ存在が道を阻む。
青年と言うには若すぎて、少年と言うには練達している。一言で言えば未成年。ここまで人間の匂いを頼りに餌を求める悪竜に対して、銀色の未成年は空中でこう告げる。
「キミの相手は、この僕だ」
「ゴシャアアアゴオオン!」
瞬間、『銀色の風』が吹いた。正確な時系列は解らない、だが確かなのは吸血鬼戦争の前と言うことだけだ。
真雷と栄華の村『南守』
人口1000人ほどの小さな村。そこに10歳の少女は住んでいた。名前はカニ。白と黒の戦闘服を身にまとい。そこでずっと勉強と試練を続けていた。
「寒い……」
天候は雪、風は追い風。太陽は暖かく優しく包み込む。それがずっと続いていた。足跡が雪にめり込み残り続けている。
「今日も試練『夜闇の洞窟』に挑むの?」
「うん、そのつもり。今度こそ合格するの!」
「10歳で手が届く距離なんてすごーい」
すぎゆく過去の記憶を制覇する、赤い短剣『覇去』。
この村ではこの短剣を『夜闇の洞窟』の最奥から引き抜いたものが、村の外出を許される掟となっていた。挑めるのは10歳から、制覇出来るのは20歳前後とも言われていた。それほど深く長いダンジョン。
そしてカニは、それを洞窟の中で一週間。制覇する寸前の所まで来た。そして彼女はその赤い短剣『覇去』を引き抜いく。
「やった! これで村の外へ出られる!」
南守村、長老の家。
長老のお祖母ちゃんから言われる。
「おぉ、よくぞその年齢で。やはり持って生まれたか。ならこの刀も持っていきなされ」
「長老! それは村に1本しかない名刀ですよ! 村で量産出来る『覇去』とは違う!」
「いいのだ、この子こそ真の器。持っていきなされ」
そう言って渡されたのが。神器『天羽々斬』であった。
これで、外の世界へ出られる。そうカニは楽観視していた。結界の外へでる、彼女はその結界の存在自体も何故か知らされていなかった。
南守村、その東方の森の中。
まず最初に出会ったモンスターが。蒼い雷の獣の王、獣王牙だった。幸先良いのか悪いのか、カニはそれを辛くも勝利して。生き残り、食料を得た。
「へえ、この衣。蒼い稲妻が出るのね」
そして舞台は吸血鬼大戦へと移る。少女はその戦争の事を、何一つとして知らなかった……。
戦時中のとあるギルド
「へえ、外の世界では。三ヵ国が戦争してるんですね」
受付嬢が軽快に応答する。
「はい、あなたはその国のどの国の所属なのですか?」
よくわからなかった少女はそれに答える。
「じゃあ緑の国で登録お願いします」
それが、長い戦争の幕開けだった。




