第186話「ボスラッシュ19」
3時間経過、入念に休んで。いざ尋常に勝負。と言う所で、第三関門の扉の前まで来た。彼らはこのドアの先の事を、まだ何も知らない。
「これだけ回復したのなら大丈夫だろ!」
「俺、この戦いが終わったら。掲示板観るんだ」
「俺も、この戦いが終わったら、知り合いの結婚式に行くんだ。あ、これはマジ話な」
「俺は部屋の掃除だぜ、ホコリのたまり具合が尋常じゃない」
「グリゴロス、浮足立つのもその辺にしとけよ」
「猿芝居かもしれねえぜ」
「言葉の挙げ足とるなよ~」
「言語道断とかいう思考停止よりかはマシだろ~」
「一言で済むならそれに越したことないじゃないか~」
「よし、んじゃ皆覚悟は良いな。この先、長い長期戦が予想できる。気を引き締めていけよ」
「死亡フラグ立てた後に言われてもなあ~」
「覚悟はいいな」
「無駄口は言わない、出来てる……」
「んじゃ、開けるぞ。3・2・1……」
ドン! と大門を開ける。30人のプレイヤーは目を見開いて……――終わった。何をされたのかも解らなかった。
数秒後、評価は覆ることなく、新たな情報を与えるでもなく彼らは死んだ。
《全滅しました、大門前まで転移します》
機械的なログだけが残った。
が、この第三関門のボス。湘南桃花がプレイヤー達に聞こえない声で。言う。
「ようこそ、まずは一手。初見殺しです――」
扉の眼前には30人の桃花人形がライフル銃を構え、撃ち殺し終わったあとだった。
Q.もし湘南桃花が戦闘力5のゴミだったら?
A.悟られる前に殺す。
◆
転移して待っていたのは、新しい情報欲しさに駆け寄る人だかり。攻略組だ、情報は真っ先に欲しいだろう。【ふりだしに戻る】、こんな辛さ・無力さはそう無いだろう。「第三関門の情報をくれ!」と、だが彼らはこう言うしかなかった。
「何の情報も! 得られませんでしたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
折角苦労して、第2関門までクリアしたのに。第3関門の情報を得られずに死に戻り。納得できないという顔だが、当の本人達の方が納得できない。グリゴロスが発した言葉は、そっくりそのまま。言葉通りの意味だった。
「どうやって殺されたのか解らん。気づいたら死んでた……」
秘十席群は「あいつらしいな」と賞賛しながら呟いた。呟いたには呟いたが、周りは混乱していて雑音でかき消える。彼は、ここまでの長い道のりを『捨て歩』として選んだ。だがそれを誰にも言わず秘匿する。秘十席群は言う。
「どこかでこうなることは判り切ってた話だろ? それが今になった、それだけだ」
だから言う。前人未到のゴールは甘くないと。
「本番はここからだ!」
ファランクスは続けてとりあえずピースサインで声をあらげる。何故か半目だった。
「おーう!」
ヤエザキがステータス画面の生中継を観ながら、イベントダンジョンの中をカメラで覗く。
「あーあーあー。あいつらが、ただで終わるはずないじゃない……」
第一関門
モブ冒険者は右往左往する。
「何だ!? 風が!? 中央へ吸い寄せられてゆく!? どこもかしこも逆風だ!」
浮遊超気が言う。
「《白渦》 パンチの打ちかた知ってるか?」
第二関門
モブ冒険者が右往左往する。
「忽然と! 消えた!?」
ナナナ・カルメルが言う。
「《伝承》よくわかんないけど、導師を連れてきて欲しいかな」
第三関門
モブ冒険者が右往左往する。
「超能力とか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じて……グワア!」
湘南桃花が言う。
「《未来》ザコは鳥籠から出てくんな。あ、でも初心者冒険者は歓迎だけどね」
イベントダンジョン大門広場前。
グリゴロスがイベントダンジョンとは真逆の方向へ歩む。ファランクスが「どうしたんですか?」と言いながら歩み寄る。
「約束があるんでな」
「はい?」
「賭けに負けたんだよ」
それだけだった。ただ、それだけだった。




