番外編18「ある下級冒険者のお話」
ある下級冒険者は、ある上級Aランクモブ冒険者と。この街のこの行列は何なのかと尋ねていた。
「天皇杯ですか? それがこのイベントの行列なんです?」
「そうだぜ、噂じゃ過去最高難易度。1つクリアするだけで難易度Aクラス、全部クリア出来たら前人未到のランクSクリア者が誕生するってことよ! 心が踊るぜ!」
イベントに参加しているプレイヤーの映像はゲームをプレイしている人全員に生中継や、録画で観ることが出来た。特に、生中継はレベルが高すぎて。もはやルールがあってないようなものである。もちろん、ここまでゲームをプレイしてきた冒険者達なだけあって。道徳的マナーはしっかり守っているので、例えキルの仕方にも一種の美意識があった。
とはいえ、凄さは解るが。当然真似できる冒険者は一握りで、皆がみんな四苦八苦している。流石、過去最高難易度を謳っているだけの事はある。そのぶん、かなり疲労している用にも見えなくもないが……。
「確かに凄いですけど、僕みたいな下級冒険者には挑むだけ無駄な感じがしてなりません。もっと初心者にも優しいダンジョンは無いのですか?」
「あぁ、有るにはあるぜ。何せ【コッチのルート】はイベント戦だ、普通のプレイヤーには普通のダンジョンがある」
そこは、アイテムあり。ランク制に分けられ。デスペナルティはなし。1回倒したらクリア。一回戦闘したら全回復。など至れり尽くせりだった。……、もっともこっちが【正常】で天皇杯のイベント側が【異常】なのである。
感じとしては。イベント戦のように5つの関門があり、それらの【ボスモンスター】を倒せばゲームクリアだ。イベントの時のように、人間型のAIではない。こちらは学習しない、単調な攻撃方法しかやってこず。攻撃ボタンを連打して倒せるような、子供でも倒せる仕様になっている。もちろん、子供でも遊べるようにするのがゲームの本質なので。こちらの方がゲームとしては正しい。
極論、攻撃ボタンを押しながら走っていれば。ゲームクリアが出来る仕様だ。
戦闘中に雑談出来るほどボスモンスターの動作は遅く、攻撃がプレイヤーに当たってもかすり傷程度。防御も紙同然の固さ。誰でも皆、最初は初心者なので。やっぱりこちらの方がゲームとしては正しい姿だ。
何度も言うが【天皇杯】の方が異常なのだ、上級者達が覇を競い合うイベントの中でも最上級のイベント。第一関門から弱いプレイヤーは問答無用で振り落とす。そんな仕様。そう、仕様なのだ。
その説明を聞いて、呆れる下級冒険者。
「皆が楽しめないのならゲームとして成立しないのではないでしょうか……」
「そこはアレだよ。観客として、見世物として楽しむのが一番だと思うぜ。【そういう競技】だし、もっとも。物は試しで挑むプレイヤーも少なくないが」
「今までの実力がどこまで通用するか。みたいなですか?」
「そうだぜ、ちなみに俺達オールAランクギルドズは。第三関門まで行って死に戻って来たパーティだ、もうヘトヘトだぜ」
Aランクモブ冒険者は、「これでも全力でクリア目指したんだぜ?」と念を押す。
「それで、クリア者は出たんですか?」
「俺の見た限りではまだ誰も居ないかな。まだ皆手探りだ」
ちまたでは「これはランクS+だ」とか「ランクS+++だ」とか「兎に角ランクMAXだ」とか議論が尽きないが。公式設定では『ランクS』のイベントとして設定されている。各関門は『ランクA』全関門をクリアして初めて『ランクS』をクリアしたことになっている。
「まあつまり、すげえ難しいダンジョンなので。大いに盛り上がってるってこと」
「なるほど、でも僕は参加できないんですよね……」
「そんなことは無いぞ? このイベントは『無差別級』だし」
「え? でも、どう考えたって参加したらお荷物ですよね?」
「そうなんだが、それは運営じゃないから俺にも解らん」
「ほむう……で。普通のダンジョンの名前は何ですか? 僕はそっちに行きます」
「初心者用ダンジョン『チョウヤサシイ』だぜ。……いやギャグではなくマジでそんな名前」
キョトンとしてから、下級冒険者は「それでは」と自分の冒険を楽しむことにした。
「じゃあちょっと遊びに行ってきます!」
「おう、健康には気負付けろよ~」
そう言って、下級冒険者と上級冒険者の会話は終わり。その場を去って行った。




