第184話「ボスラッシュ17」
「出し惜しみは無しだ、行くよ《神速》!」
ナナナ・カルメルが本気を出して蒼い炎を燃え上がらせる。
「来るぞ! 皆構えろ!」
――、一瞬にして後方に周り込むカルメル。
「か~ら~の! 《空繋》《三柱臣》《心果》!!」
後方陣に蒼色の《空繋》が、右方陣に紅色の《心果》が、左方陣に金色の《三柱臣》が、それぞれ天から真下へのダウンバーストとなって降り注ぐ。全員が衝撃波をもろに受け、ひるみ状態になる。
「ガハッ!」「うわあ!」「チィイ!」
「みんな!」
グリゴロスは左から後ろを振り返る。カルメルも超気同様に、またしても空中に浮かぶ。
「ネタ切れ? ノンノン、ここから先はまだ見ぬ世界ってやつさ! んじゃ行くよー!」
3人のナナナ・カルメルの内、左右2人が剣を振り上げる。攻撃態勢になり、2本の日本刀の3玉はクルクルと上昇する。
「アップ! 《六ヵ国・不斬》!!」
不知不痛不視の斬撃が中央陣に飛んで来る。知らぬ痛みさへ、解らぬうちに魂を開放しようとした。その斬撃を前衛陣、マガジン・サンデーが盾となって護る。
「ふんぬー!」
「筋肉なめんなやー!」
遅れてチャンピオンがジャンプして、中央のカルメルに向かって飛んできた。チャンピオンは拳を振り上げる。
「せいやー!」
「《三ヵ国・破魔矢》!!」
中央カルメルは魔法を破滅させる真の矢でもって、チャンピオンに攻撃を当てる。光の矢が3本、チャンピオンに突き刺さった。ズキズキと筋肉細胞が悲鳴をあげる。
「ぐ、抜けねえ。下手に抜くとやべえな」
左側のカルメルが笑みを浮かべたが、ソレをグリゴロスは見逃さなかった。「俺のセットはまだといてねえぜ」「え?」と《早駆け》と《軽業》の合わせ技で右カルメルの顔面に当たり、上体が浮き。後ろへ吹き飛ぶ。
それと同時に左、中央の影分身がポン! と解かれる。グリゴロスは追い打ちをするために駆けるが。カルメルは【存在ごと消えた】。瞬間、自分たちが何故ここに居るのかさへ解らなくなってから。
そしてもう一度ナナナ・カルメルの【存在が現れる】ガチン! と歯車が噛み合い記憶が元に戻るが、自分達が何故ついさっきまで記憶の齟齬が発生したのか解らず。混乱する。ただの混乱ではないことは明白だった。
グリゴロスがそれらに気づき、空中に浮かぶカルメルに言う。
「姿を消すだけなのに、イヤに警戒してるじゃねえか」
一瞬で消えるでもなく、気配が消えるでもなく。存在が消える。誠に人間のやることではなかった。
「普通はここまでしないよ、でも天皇杯だしねぇ。陛下のお眼鏡に叶わなかったら。それこそ残念だ」
ナナナ・カルメルの放つオーラには、脅威ではなく敬意がそこには見え隠れしていた。
「セット!」
グリゴロスは、空中に浮遊しているナナナ・カルメルを指していた。同時に散り散りになった陣形を急いで元に戻す。
「んじゃ、皆。対策してると思うからそろそろ行くよ!」
言って。
「『よくわかんないけど《真紅》《審判》《断罪》《銀》《竜尾》《文法》』!!!!」
中央以外の。前方後方右方左方の四方に、天空からごちゃ混ぜに遠雷が轟いた。文字通り周りを気にしている暇もないので、ファランクスに指示を出す。
「ファランクス! 《解読》!」
「了解! 《解読》! ……ほいきたあ、弱点は『特異点』です!」
「は!? 特異点」
一瞬混乱したその隙に、カルメルが急接近して斬りかかって来たので。ギリギリで回避した。
「おっと!」
「人のこと心配してる暇は無いよ!」
「その言葉、そっくりお前に返してやるぜ!」
中央陣地内に深く斬り込んできたカルメル。互いに互いを見つめ合い、構える。
「気負付けろ! 同士討ちになる!」
囲んでるのか囲まれてるのか解らない布陣となった。王将と王将が盤上で並ぶ、お互い射程範囲内だ。




