第183話「ボスラッシュ16」
第三関門 湘南桃花。裏異世界『カゲヌイ』。
その裏の顔……と言うより秘匿していた固有結界。本来表に出ないはずの空間。常識の通用しないこの世の裏側にあると言われる破れた世界。そこには、自分のif・人形・傀儡・ゴーレムが群れを成して整列していた。
彼女らには彼女らの意思がある。故に……。
「納得いきませン! 我らの君主はカグラ嬢でス! 何故あなたに付き従わなければならぬのですカ!」
ただの人間は瞳を輝かせて、客観的にこう語る。そう、まるで自分は舞台や映画の外側から観る観客席に居る人物の様に。小手先ではない熟考によって、そこは安全地帯ではないと解っていても。そこに、立つ。
「んなの知ってるわよ、その種を蒔いたのも事実だし。意図的だわ、だからついでにあなた達の業火も私が受ける」
「ソ……それでは、カグラ嬢は罪に問われないと……?」
暗い空間内、先生は先生なりの考えで・意思で行動する。
「当たり前じゃない、彼女は何にも知らないで遊んでただけ。結界の事も、紅世の事も、次の世界も知らず、タダ大将の首を獲るだの大法螺吹いて遊んでたガキんちょよ。年齢も10歳だし」
「ソ……それはそうですガ……」
「だから、世界中に散らばったあなた達。【代わり身のロボット系?】に伝えなさい、それらのカルマは全て。この第三関門でケリをつけると」
だいたい解ったからこそ言える。もしかしたらケリがついているところは、ケリがついてるかもしれない。しかし、その裏異世界『カゲヌイ』の親玉となれば話は別だろう。
「ココでケリをつける、そこから先の人生は。あなた達の好きに生きなさい。それが今回呼んだ訳」
あえて理由とつけないのは、彼女と古文書は関係が無いからと言いたいのだろう。
と、その時。真紅の奏翼を羽ばたかせてやって来た。フェニックスがいた。彼女の名前はオーバーリミッツ。
「私も、参加して良い?」
「……私は嫌だけど、好きにすればいいわ」
なめらかな声色で彼女は言う。
「解った、好きにする」
ロボット達にとっては関係のない話なのでキョトンとする。合唱やアカペラ・変換されているので更に関係が無い。今話しているのは《理想は理想に、真実は真実に》という話だ。
「ではロボット達に、私からの伝令をあげる。【伝令:古代都市、第三関門で私達のケリをつける。全員集合】以上で全世界に送信して」
「伝令確認、受理しましタ。送信まで、3・2・1・0。――送信完了」
オーバーリミッツは尋ねる。
「これもあの、ゲームマスターの脚本なの?」
湘南桃花は悪だくみとも言えない、ただ真面目な表情で言う。
「まさか、彼女はいつも通り公園を作っただけ。中で遊ぶゲーム内容には触れてないわ。折角の第三関門だから私が作ったケジメのしかたよ」
「もう、前にケジメはつけたじゃない……」
「……、全部が清算されたかは。今の私には、まだわからない」
「……、そう」
かくして、因縁がありすぎる先生の。大立ち回りの準備が進んでいった。彼女は権力と言う名の山脈を、上るとこまで上ってしまった。あとは下るだけだ。
「ちなみに、……『人間じゃない』あなたは、『何』なの? 例えば動物的に」
湘南桃花はその異能さをちょっと理解して、考えてから言う。
「ん~……。幻想側だと熊の体をした兎、現実側だとゴリラの体をした亀。……かしら」
「どっちもゴツいわね……。わかった、ありがとう」
そう言って、彼女は何処へ行くでもなく。ただ、寄り添いながら隣に立っていた。
裏異世界『カゲヌイ』。大日照りが、近づいていた。
◆
第2関門、ナナナ・カルメル。
『よくわかんないけど審判』で、キョロキョロ周りを観てからフフンと鼻歌を鳴らす余裕があるカルメル。何やらストレスもなく楽しそう。だが、対戦相手はそうではなかった。
雨はもちろんザーザー降りで、声も届かないほどの騒音になっていた。が、そんなことより。《三ヵ国・暴風雨》が猛威を振るう。
「ちょっと待てーい!」
「ペロっこれは! 海水!」
「それだけじゃないぞこれ!」
「靴まで水が上がって来たあぁーヤダー!」
「水圧が高い! 普通の水攻めじゃないぞコレ!?」
「でも、ただの海水じゃないってことは……」
「そう言うことだ、これはぁ!」
「海底でもない!?」
瞬間――、砂利石がパリッと。水圧で潰れる。
「し、【深海】だぁああああッ!!」
ナナナ・カルメルは人間を小馬鹿にするように説明する。
「これはエベレストをひっくり返しても山頂が底につかない深海だよ~。とりあえず、水圧は108パスカル。地球防衛軍頑張ってね~」
雨で現代科学の重火器で発砲って出来たっけ? とか思ってる場合じゃないグリゴロス。戦闘なので生死は当たり前なんだけど……地球防衛軍と異世界攻略軍が、ギリギリ攻略できるできないあたりを狙ってくるあたり。完全無理ゲーよりもタチが悪かった。
そこを前方陣『ジャンプ』が、「フン!」っと筋肉細胞で押しとどめる。
「え」
『え!?』
ナナナ・カルメルも呆れる。
「えぇ~?」
ジャンプは吼える。
「ここは俺に任せて先に行けー! 後で何とかする!」
グリゴロスはジャンプに戸惑いながら確認する。
「じゃあ、何とかできたと仮定して進んでいいのか?」
「おう! こんな試練いつもの事だ! 先にいけ! 料金は先払いだ!」
「金取るのかよ!」
「いいから行けってー!」
「おし! 総員、1塁分前へ前進しろ!」
『イエッサー!!!!』
ナナナ・カルメルの自由空間を1塁分、縮小する。流石にこの連係プレーには焦る。今までに無かった技を、今までに無かった技で返された。しかもこれは、互いに信頼があるからこそできるプレー。
「く、この大人数だと勝手が違うな。僕の方が甘く見てたかな……」
ナナナ・カルメルも《神速》や《型破り》をするかどうかを考え始めていた。




