第181話「ボスラッシュ14」
浮遊超気は壁にぶち当たったものの、HPは8分の1程度しか減らなかった。
ファランクスのMPが力尽き「きゅう~」と倒れ込む。彼女の回復には少々時間がかかるだろう、今回は回復役もいるし一拍様子を見ることにするグリゴロス。
グリゴロスの陣形内が機能的に動き始めたのを見計らって、彼は彼らしく。彼自身の次の一手を指す。
「場は温めておいた。歌峠夜鈴、いけるか?」
「いつでもいけるわよ……」
静かに決意する。因縁があるどころの話ではない、浮遊超気との関係は最大最強のライバル。彼女には今まで好機と言う名の風が、一度たりとも吹かなかった。だが今回ばかりは違う。こんな状況・環境が来るとは思ってもみなかった。だから確認せずにはいられない。
「もう一度聞くけど、勝って良いんだよね?」
グリゴロスが、心と体を合わせて決意を決める。だから短く、余計なことは言わない。
「あぁ、許可する。勝て!」
心の中に静寂を取り戻した彼女は、令を祈り。その力を噛みしめるように、……駆ける! 今度こそ勝ちたい、永遠の2番手まんてまっぴらごめんだ。その覇気には豪烈が宿っていた。
「よし。じゃあいくわよ、……超気ィ!!!!」
「こい!、……夜鈴ッ!!」
《光風》が発生させた、謎の乱気流に阻まれていた風が。月閃により断ち切られる。標的が現れる、宿敵が歓喜している。
「総員! 衝撃に備えろ! 散り散りになっても立て直すことを優先しろ!」
『了解!』
《闇火》空中の中央、グリゴロスの真上で凄まじい乱撃戦闘が開始される。剣撃と拳撃の応酬。そこには純粋な連撃だけがあった。度重なる鍛錬により、ここまで来た。そんな彼女の術技は鮮烈で。清みきっている。
今回は1対1ではないが、何故か武器を構えるだけで、攻撃するのを自粛する空気が流れていた。それほど、彼ら彼女らの戦いは神聖で。余計な不純物を入れること自体失礼。そんな空気が漂っていた。総員が構え続けているのは、その後の対処に素早く動けるようにするための身構えである。
二人とも空を飛べるが、それはあくまで東京ドーム一個分の空間分である。
(イメージしろ! 超気に勝つ自分を。それが無くてはそもそも同じ舞台にすら立てない!)
日本刀が黒炎を纏い煌めく、輝きすら闇に染め。努力して、迷いもなく、自信もある。意思だって強固だ。でもいつも、何故か勝てない。それは彼が運命的に勝ち組だからか、それは解らない。だが、それでもここまで来た。チャンスが来た。好機が来た。
歌峠夜鈴以外の人物が策を講じて勝ったとしたら、きっとこの戦闘は安っぽくなるだろう。それほどに貴重、重要な財産。いつも正面きって挑むが、今回はその意地を捨てて。剣線が曲線を描く。初めて弱点を突いた、直線運動ではなく曲線運動。
右下から左上へ斬り上げた。《急所狙い》により、浮遊超気に今度こそ決定打を与えられた。今度こそ、やっと。HPは半分になり、何かしらの決定打を2発食らわせられれば。勝利する射程班に入った。
なので超気は、本気の度合いをもう1段上げる。
「やるな、じゃあこっからは。本気の本気だ!」
全体攻撃の《暴風》の色が紅に染まる。
ゲーム画面のログから『浮遊超気の《全力》が《全力2》に進化しました』と告げられる。
「んじゃ行くぞ! ウチの技は全部もう一段進化する!」
他のプレイヤーの中には、動揺する人も居たが。夜鈴やグリゴロスなどは。「まあ、そうなるよね」と予測していた。
《神速2》《暴風2》《全力2》がプレイヤー達に襲い掛かる。と、その瞬間。夜鈴が超気に日本刀を中心点とし牙突を刺して、夜鈴が叫ぶ。
「《点火》!!」
瞬間――。ニヤリ、と超気が微笑する。
体の内側から発火させて、爆発四散させた。爆風はただの風となり吹き荒れる。致命傷になるかならないか……。
その結果は……。
《【天皇杯】古代ダンジョン超ボスラッシュ! 地下一階、VS四重奏『浮遊超気』に勝利しました――。》
浮遊超気は風となって消えた、歌峠夜鈴には何故か虚無感が漂っていた。
「勝った気が、……しない。あいつはもっと、こう……」
グリゴロスが激情の夜鈴をなだめる。
「試合に勝って、勝負に負けたとでも思えばいい。兎に角、勝ちは勝ちだ。まだ先は長い。みんな次に進むぞ!」
そうして、ギギギと。次への重い大門が開かれた。
前へ進み、階段を下る。
そして第二関門の大門前までついた。
「ここで一旦休憩しよう、準備だ」
入念な準備の為に10分を使う。
「ナナナ・カルメルについて解ることはあるか? ヤエザキ」
「有り過ぎて何から話せばいいか解らないけど。一言で言えば自在法の番人って所ね」
それは言い換えれば……。
「この世のルール、法王と戦うってことよ。皆、ここも全力で行くわよ!」
チーム全員、奮い立つ。そして大門を開ける。
何度も言うし、何度でも言うが。入ったら全面クリアするか、全滅するまで出られない。後戻りは出来ない。そして、第二関門の大門の口が開く。そこには、9歳の蒼い服を着た少年が立っていた。
そして、開幕一番にこう一言。
「待ってたよ~」
《【天皇杯】古代ダンジョン超ボスラッシュ! 地下二階、VS放課後クラブ『ナナナ・カルメル』戦闘を開始します――。》




