第176話「ボスラッシュ9」
◆地下一階、VS四重奏『浮遊超気』第2ラウンド◆
今回は【名のある冒険者】が11人。残りは『放課後クラブ親衛隊』から19人の構成となる。こんなに再三、十分な準備をしろと、ゲーム内で警告しているのにも関わらず。このチームにまともな回復役は居ない。
情報を得るだけと解っているが、全滅覚悟の特攻隊のメンバー編成である。死を覚悟して挑む冒険者たちの眼が、心折れずに未だ輝いている。輝いているうちが花なのだ。
ギギギ……と、古代ダンジョンの大門が開く。
何度も言うし、何度でも言うが。入ったら全面クリアするか、全滅するまで出られない。後戻りは出来ない。
「いきますか」
「いきますね」
「皆行くぞ!」
『おう!』と全員で気合を入れて、決意の一歩を前へと進む。そして扉が閉まる。もう後戻りは出来ない。
機械的なアナウンスがログに流れる――。
《【天皇杯】古代ダンジョン超ボスラッシュ! 地下一階、VS四重奏『浮遊超気』戦闘を開始します――。》
広大な地下空間を進むと、東京ドーム1個分のを包み込むほどの空間に出た。
地面は石畳に温泉が地脈のように流れ続けている、この泉流はグリゴロスから見ると前から後ろへ流れているので第2関門の方に源泉があるのだろう。第2関門へ行ったことは無いので、それ以上は解らない。
血脈のように流れ続けるその温泉が、何を意味するのかは解らない。
そして【ヤツ】が居た――。
ただただ純粋な【強者】、古代ダンジョンによるプレイヤーのコピーとは言っても。言動、口癖、身体能力、その【全てが本物】手加減する必要も、理由も何もなかった。
「来たか、ウチは言葉で多くは語らない。つええ奴なら拳で語れ! さあ! ごたくは良いから! 速くウチと戦おうぜ!」
ここまでは、挨拶代わりの上等句。だが、ここから先は。……もう違った。
「……、【勝つ気が無いならもう殺すぞ!】」
チーム全員が身構える。
「来るぞ!」
「来ます!」
「全員構え!」
「野郎ども行くぞぉ――――――ッ!」
神速――、グリゴロスと浮遊超気が大激突し。そして、刹那。すでにグリゴロスは《乱撃》による顔面をタコ殴りにされ、絶命していた……。
一瞬の判断力なら、浮遊超気の方が上。歌峠夜鈴は今こそ、その力量差を呪う。己自身を呪う、そして駆ける。
疑っていた。やつは本物だ、それが今の言動。行動、信念、魂レベルで解る。こいつに御託は通用しない。ただ、そこにイる。それだけだった。
「タツキィ―――――――!!!!」
天敵が吼える。彼女の月閃が煌めく、それはもう魂レベルで全力だった。これ以上の瞬殺はさせない、それだけは心の中で決心する。
光風が闇火と激突する、今度は心は折れていない。勝気しかない。
「こいつにだけは! 絶対に! 勝つッ――!!」
Sランクギルド『脳筋漢ズ』も続く。実力者達は多くは口走らない。安易なフォローは返って邪魔になるからだ。
「いくぞ」
『おう!』
その時、風が凪いだ。――光風。物理法則を無視した特殊な風は、『脳筋漢ズ』をすり抜け。やる気のない、いや、【呆けているファランクスとヤエザキを滅する】。認識した時にはもうポリゴン片も残っていなかった。そしてツリーの様に絆で繋がってる線をたどり、吊られるように『賢者』『空戦』『牙』も【耐えたが消えた】。
ジャンプが呟く。
「クソ、これほどか」
瞬間、【裏の裏】に廻り込み。
――死。
夜鈴が【今さら】になって追いつく。
「タツキィ―――――――!!!!」
「ヨスズゥ―――――――!!!!」
暴風が轟き、渦巻き、今度こそ。全てが風となって消えた……。浮遊超気は《全力》を使うまでも無く、ただ立っていた。
《全滅しました、大門前まで転移します》
機械的なログだけが残った。
◆
「これが第1関門って」
「嘘でしょ、ふへえ~」
「もう何回有り得ないって言ったか解らないデス……」
グリゴロスは実力や自信をバッキバキに折られて、うなだれていた。
「何で1回戦目よりも強くなってるんですかねえ……」
ギルド『ドラゴン・スピード』は自分たちの無力さに落胆していた。《曲がらない》の弱点を突く暇もなかった。
作戦会議と言うには覇気がない、反省会が始まっていた。「ラスボスのつもりで挑め」とか「いち漢として挑め」とか「心を無にして挑め」とか色々あったが。
今は『ピンクの宿屋』で英気を養うほか、術がなかった。
食料であるお団子だけは、いつものように美味しかった。




