第173話「ボスラッシュ6」
2人の戦闘。余波に巻き込まれて、2人、5人、10人のモブ冒険者が戦闘不能になる。
「ねえ、この熱量で残り4ステージ……生き残れると思う?」
「んー……無理。例え戦闘後に回復アイテムなんかで全回復出来たとしても」
グリゴロス、ファランクス、ヤエザキだけでは荷が重すぎるのは。明白だった。それは戦う前から察していたこと。しかもグリゴロスとファランクスに至ってはまだ初心者も良い所。
今回のボス、浮遊超気、ナナナ・カルメル、湘南桃花、不動武、農林水サンを。勝ち抜け戦で勝つには、どう考えたって釣り合っていない。
今回はE~Sランクまで無差別級。B~Sランク級のプレイヤーが助っ人としてどうしても居る。モブ冒険者達ではどう考えたって荷が重いし。名のある冒険者5人から10人ほど、でないと釣り合わない。
その時ヤエザキはハッと我に返り、重要なことに気がついた。
「ファランクスさん、《解読》をやって! 最低限、弱点だけでも見つけないと!」
「あ! そうだった! さっさと見つけよう! ええっと《解読!》」
その一瞬の気配を察したのか、超気は神速――。ファランクスの視界から消えようとするが! ドゴン! と超気の脇腹にクリーンヒットの拳をお見舞いするグリゴロス。
「グ……!」
「逃がすかよ!」
ファランクスのステータス画面に、《解読》の結界が刻まれる。
「でました! 弱点! 弱点は……【曲がらない】――です!」
『!?』
冒険者たちに一途の希望の光が見えるようになった。が!
ここで警告音が地下一階ステージに響き渡る。「なんだ?」とモブ冒険者Aが言った後に、モブ冒険者Bが「暴風だ! 暴風が来るぞ!」と経験者は語ってくれた。
この状況下で全体攻撃のような暴風がゴオ! と吹き荒れる、サイクロンとハリケーンがごちゃ混ぜになり上昇気流を巻き起こす。そして挑戦プレイヤー全員、足元をすくわれ。浮く。
『うわあああああ!』
そしてその頂点、浮遊超気は陣取り。下方へ向かって必殺技を叩きつける。
「ダウン! バースト!」
轟音。下降気流が、地面に衝突した際に四方に広がる風の災害が強烈に巻き起こる。結果、全滅した。
《全滅しました、大門前まで転移します》
機械的なログが参加プレイヤー全員に表示され。楽しい戦闘は、ここでお開きになった。
◆
「だー! 負けたー! でも身体能力だったらまともにやり合えたぜ!」
「て言っても、相手は能力1回しか使ってないし。天候の暴風が発生した途端、全滅したんですけど」
「全力の時の私でも無理ね、たぶんグリゴロス君の二の舞だわね。よくて」
『ドラゴン・スピード』の面々は一度『放課後クラブ親衛隊』を解散させて、また3人だけになった。
ファランクスは告げる。
「次の目標は決まったわね。【名のある冒険者】を5人から10人見つける、そうしなきゃやっぱりお話にならないわ」
「異議なし」
「だよなーそうだよなー、そうなるよなー」
自分の力を過信していたわけではないが、世界の広さを知った。グリゴロスだった。
「心当たりあるか?」
一瞬悩んだ後、ヤエザキは一つの提案をする。
「1人だけ心当たりがある。浮遊超気のライバルであり天敵……」
「え、なにそれ?!」
「そんなバケモノがいるんですカ!?」
そう、その人物の名は……。
「同じくギルド四重奏、歌峠夜鈴ちゃんです」
◆
この前出会った優秀なAランクモブ冒険者に相談する。グリゴロスは聞けるだけ聞くに越したことないと思った。
「今回の5人の天敵プレイヤー? 確かに存在するがそれだけで勝てるほど甘い相手じゃないと思うぜ」
「せめて名前だけでも教えてくれないか」
「いいぜ。ズバリ、浮遊超気には歌峠夜鈴。ナナナ・カルメルにはそこに居るヤエザキ。湘南桃花には秘十席群。不動武には不動文。農林水サンには主神ゼウス。て所だろうな」
グリゴロスはちょっとだけ安堵する。
「おお、ちゃんと天敵は居るんだな」
「だが、勝ち抜き戦だから。それまでそれぞれのカードは温存しておかないといけない。せいぜい同等か互角だ、圧倒的に超えている存在は居ない。だから例えば歌峠夜鈴だったら、その状態で補佐3人ぐらい【名のある冒険者】を配置しないと。安定した勝利には繋がらないだろうな」
まぐれが1度続いただけでは勝てない。そういう相手達・カードなのだ。
「どうすれば勝てる?」
「こっちが聞きたいが。その補佐3人は自力で見つけるか、プロに頼み込むか。一時的にレンタルで【有名な冒険者】を召喚するしかないだろうな」
ファランクスとヤエザキが続く。
「それで互角ですカ?」
「対等に戦える、程度でしょうね」
Aランクモブ冒険者が付け足す。
「前にも言ったと思うが、誰も勝ち方を知らないんだよ。そんなプレイヤーが5人、と。考えた方が良い」
「ハードル高いなぁーおい」
「とにかくそういうことだ。俺も俺なりに攻略方法探ってみるぜ。それじゃあな!」
そう言ってAランクモブ冒険者は去って行った。
「俺たちが3人。互角が5人、補佐が15人って所か。それで合計23人」
「残り7人は補助魔法使いや、生産職でしょうネ」
「いくら強いカードを持っても、これだけの長丁場。腹が減っては戦は出来ぬ、を自力で行ってしまいますしね」
というわけで。3:5:15:7を理想像とした布陣で、プレイヤーを集めることにした『ドラゴン・スピード』であった。
最大戦力で挑む必要がある、本当にそう思ったグリゴロスであった。




